90話 停電したら
「キングオブ電力」の扉は凄まじい高温によりドロドロに溶け、とてつもない衝撃によりひしゃげていた。もはや扉はその意味を為さないだろう。そしてその被害は扉にとどまらない。
たった一度の集中砲火によって建物は半壊したと言っていい。国の電力供給源だ。それなりに大きな敷地に大きな建物だった。それが今では半分焼野原だ。当然、国は停電した。しかしこれまた当然、予備電力に切り替わる。城周辺は未だ明るい。
城の予備電源は予めシガレットとシャリテが処理している。であれば。ここの予備電力供給を断てば。城は真っ暗大パニック。率先して灯りを点けるはずの奴隷はおらず、使用人共が慌てふためくのが目に浮かぶ。アリスはそんなことを思い浮かべてふふと笑った。
「予備は地下かしら?」
この空間を支配している兵器達が一斉に向きを変えた。照準は地面に向けられている。しん、と空気が凍り付くような間。次いで轟音。間断なく轟音。それは城が暗くなるまで止むことは無かった。
私は、一仕事終えてふうっと息を吐いているアリスの背後に現れた。焼けた鉄の匂い。焦げた何かの匂い。ふとアリスの髪から良い匂い。私は目の前にある金色の髪を撫でた。なでり。
「きゃあっ!」
一斉にこちらに照準を向ける兵器達。バッと振り返るアリスは私の顔を見て一瞬目を細め、呆れたようにため息をついた。兵器達も、なんだミリアかとでも言うようにやれやれとボディを揺らした。
「ミリア?どうして髪を撫でたの?」
アリスが少し咎めるように言った。
「良い匂いがしたから」
私は正直に答えた。アリスは首を傾げ、言葉の理解に努めているようだった。少しして、やはり理解は出来なかったのか、
「どうして良い匂いがしたからって撫でたりするの。ダメじゃない!」
ちょっと怒ったようにアリスが言う。どうやらよっぽど嫌だったらしい。反省。
「ごめんなさい」
私は俯いて小さめの声でそう言った。反省が伝わればいいのだが。するとアリスはオロオロと戸惑い、やがて体裁を整えるためかコホンと咳払いをして
「つ、次やったら、えーっと、お、怒るからね!いきなり背後に現れるのもダメだからね!」
と言った。若干子供っぽいアリス。もしかすると髪を撫でられるとそういう風になるのだろうか。だとしたら嫌がるのも納得だな。
一方、リンネとカナト。停電したので施設内に侵入していた。予備電源に切り替わるまで20秒足らずだったが、便利兵器で何とかなっていた。
「よし!取り敢えず入れたな」
「ドキドキしたぁ」
「じゃあリンネ、予備電源を切りに行くぞ」
「うん」
「その後は見えすぎ君で視界をクリアしつつ、移動停止剤をまき散らしながら所長室へ一直線。なお、機動ブーツで看守の頭上をすり抜ける。ばれないように不穏迷彩も起動させる。所長にはシャボン玉リングを通せ。そしたらプチョヘンザーで運び出す。後処理はぽにゃぽにゃを使う」
「後半適当じゃない?」
「そんなことない!ぽにゃぽにゃは凄いんだ!」
「ま、まあそうだけどぉ。正式名称じゃないじゃん」
「うるさい!ぽにゃぽにゃはぽにゃぽにゃなんだ!」
「か、カナト君にうるさいって言われたぁ!うわぁあん!!」
「い、いや違う。ちょ、待てリンネ!そっちは所長室だ!」
「えーん!こんな作戦すぐに終わらせてやるぅ!」
「いい心がけだけど!せっかくの見えすぎ君の出番が!どれくらい見えるか試そうと思ったのに!」
「ひーん!見えすぎ君であたしの下着姿見るつもりだったんだぁ!カナト君のえっちぃ!でも後で試してみてもいいよぉ?胃の中まで見て?」
「ちげーから!ただの暗視ゴーグルとして使おうと思ってたから!」
「ほんとかなぁ」
そう言ってリンネはいたずらっぽく笑うのだった。




