79話 カナトまた止まる
「コントローラーにMr.サーモをくっつければいいんだったか?」
「うん。特殊可融合金でできてるから一体化するよぉ」
カナトがキューブをコントローラーに押し付けると、キューブが液体のように溶けて吸収された。コントローラーの背面にはスイッチのようなものが浮かび上がっており、リンネちゃんが言うにはそれを押せばキューブが元に戻るらしい。
「それじゃ早速周りの様子を見てみるか」
カナトは何やらゴーグルのようなものを自分の荷物から取り出して身に着けた。そしてゴーグルについているボタンを押していく。どうやら人工衛星ソラカラと繋がっていて、リアルタイムで映像を見られるみたいだ。
ソラカラの操作を始める。予めこの付近に配備していたので視点を少し動かすだけで貸倉庫を見つけることが出来た。今日は雲もなくて良かった。夏なので暑いのだけど。リンネが小型の扇風機をつけた。たまにこちらにも向けてくれている。まあまあ涼しい。リンネが持ってきて良かったかも。
地形や貸倉庫の立体像を確認して、続いてMr.サーモを起動する。パッと見、この辺りに俺たち以外の人間はいなかった。このアパートも、各部屋には冷蔵庫の反応が顕著な位で、住人は皆仕事に行っているのだろう。周辺住宅も似たようなものだ。騒ぎにはならなそうで良かった。ん?ちょっと待て、リンネのやつ俺の後ろで何してんだ?
「はぁはぁ。ちょっとだけ。ちょっとまくるだけぇ」
リンネちゃんがカナトの背中に冷感シートを貼ってあげるのだと息巻いて息を荒げていた。
「えへ、うへへ。カナト君暑いねぇ。冷ましてあげようねぇ」
「おい、聞こえてるからな。あまり変なことを」
カナトがゴーグルを外しながらクルリとリンネちゃんに振り向く。ぴたりと二人の動きが止まった。至近距離の顔。交差する目線。次第に色づく頬、耳。リンネちゃんがカナトにジッと見つめられて耐えきれず、えへへと言いながら視線を外す。それでもカナトは動かない。
ぐるぐる目を回し始めたリンネちゃん。ちらとカナトを見ると、ずっとこっちを見ている。まるで何かを待っているかのように。リンネちゃんは生唾を飲み込んでカナトに顔を近づける。見つめあいながらリンネちゃんはカナトに吸い込まれていくように近づいた。額と額が触れ合って。やがて目を閉じて。
「止まってるよ?」
私がそう言うとビクリとリンネちゃんの肩が跳ねた。そして片目を開けてカナトを見る。カナトは止まっている。しかしリンネちゃんはまた目を閉じて唇を近づけていく。少し震えながら。
「本当にいいの?」
リンネちゃんが動きを止めた。
「うぅ。よくないよぉ」
リンネちゃんがカナトから顔を離して俯く。
「でもカナト君きっとミリアちゃんのこと好きになっちゃうもん。可愛いし、いい子だし、綺麗だし、ちっちゃいし、偉いし、凄いもん」
ちっちゃいは余計なのではないだろうか。それにしてもカナトが私を好きになるわけがないだろう。言葉も交わしていないのに。全くリンネちゃんはこれだから全く。
「カナトはリンネちゃんのことが好きなんだよ?」
「え?」
「リンネちゃんに好意を向けられたら誰でも好きになっちゃうよ。だってリンネちゃん可愛いし、いい子だし、綺麗だし、スタイルいいし、偉いし、凄いし、かっこいいし、素敵だし、優しいし、素直だし、笑顔が最高に可愛いし、すぐ赤くなるのも可愛いし、全部可愛いもん。カナトだってそれが自分にしか向けられてないって気づいてるよ」
リンネちゃんは目を丸くして聞いていたが、すぐ赤くなると言ったら顔を赤くしている。言い過ぎただろうか。
「ほ、ほんとかな」
私は首を縦に振って肯定の意を示す。
「りょ、両想い、かな」
私は首を縦に振っておいた。まあそのうちそうなるのではないだろうか。今現在のことはわからないけれど。
「えへ、えへへ。カナト君好きぃ。ミリアちゃんも好きぃ」
ちょろい。




