66話 アリスとお買い物
店内の歌が盛り上がってきた。ラーメンも殆ど食べた。食べ比べもした。美味しかった。私もアリスも残ったスープに落書きしているところだ。
「ミリア、この歌知ってる?」
「知らないけど。なんで?」
「この歌を歌ってるのがギルドアイドルのナユユ・フェリルって子だから」
「ギルドって冒険者ギルド?」
「ええ」
「そういえばここにも冒険者ギルドってあるの?」
「あるわよ。ちゃんとお仕事もしているわ。電車で街の外の森とか洞窟に行ってモンスター討伐。後でギルドまで連れてってあげる」
「うん」
「そろそろお店出ましょうか。あまり長居しても悪いし」
そう言ってアリスはスープを飲み干した。私は描いた絵を残したくなった。傑作ができたので。
「アリス、あのたんまつ?持ってる?」
私は窓の外で暑そうに歩いている人が持っている長方形で薄い端末を指さして聞いた。
「スマホのこと?持ってる」
「それ写真撮れる?」
「撮れるわよ。あっ、撮ってあげようか」
「うん」
私はラーメンの器をそっとアリスの前へ運んだ。アリスは角度にムムムと唸りながら5、6枚写真を撮ってくれた。
スープを飲み干して、勘定を済ませて店を出た。昼前よりも気温が暑くなっている。夏だ。
「スマホかぁ。ミリアにも持たせた方が便利そうね。後で買ってあげるわ。経費で落ちるでしょう。そしたらさっきの写真送ってあげる」
「ありがとうアリス」
私は思わずミラのようにスキンシップをとってしまいそうになったが自分からはあまりしないように心掛けなければならない。我慢。伸びかけた両手は下ろす。
「ミリア泊まる宛とか無いでしょう。私の家に泊まりなさい。これから必要な物買いに行くわよ。服とか。まず服屋に行きましょうか。いつまでも制服じゃいられないし。可愛いお洋服沢山買いましょうね」
アリスがニッコリ笑う。私はこれから着せ替え人形になるのだと悟り辟易した。しかしお友達とのお買い物なのだからと思い、楽しむことにした。お洋服着るの楽しみわーい。
服屋で服を沢山買ってもらった。途中でリスカがプールに行こうと言っていたのを思い出して、アリスに水着を買ってもらった。アリスも新しい水着を買ったらしい。
続いて生活用品を色々買ってもらった。凄く良くしてもらっていると実感する。何故アリスはこんなに私の世話を焼いてくれるのだろうか。私はアリスがいっぱい笑ってくれていてとても嬉しいが、私はアリスに嬉しさを与えているのだろうか。
次にスマホを買い与えてもらってしまった。文明の利器だ。色々な手続きをして、割と簡単に所有することが出来た。
「この辺だと小学生でも持ってるから。はい、写真送ったよ。何か撮りたいものあったらここ押せば切り替わるから。それでそこ押すの。そうそう、って私のこと撮ったの?」
「いつか妹に見せても良い?」
「いいけど、妹なんていたんだ」
「あっ、お姉ちゃんだった」
「えー?そんなこと普通間違えないわよ?」
「双子みたいなものだから」
「ふーん。もしかしてそのお姉さんもミリアみたいに凄いの?」
「私より凄い」
「へー。世の中驚くことだらけね」
最後に冒険者ギルドに顔をだしてみた。内部は向こうの大陸とは雰囲気が異なっていて、なんだか未来的だ。冒険者の格好も、モンスターと戦うようには見えないスーツ姿が多い。そのことをこそっとアリスに聞く。
「なんでスーツなの?」
「どこの国からか働く時はスーツが常識だっていう考えが入ってきてそれに国の上層部が納得しちゃったらしいわ。以降この辺の国はどんな職種だろうがスーツを着る人が多いの」
常識という言葉には少し圧力がある。それを前にすると自分がまるで枠組みの外にいるかのように感じてしまう。この世に当たり前なことなんてそれほど無い。常識という言葉の九割は誰かの思い込みだろう。一割の常識こそ、己が向き合っていくべき課題である。どうでもいいけれど。
折角なので受けられそうな依頼がないか見てみる。タブレットを操作して、F級の依頼を見てみる。そう何を隠そうF級だ。ランクの高い依頼を受けれるには受けれるが、それだと誰もF級の依頼に手を出さないのである。飛び級制度がある弊害としてそういうことも起こっていた。ので私は大抵F級の依頼をこなすようにしている。きっと恩を売れるに違いないからな。
F級の依頼をアリスと共に眺めていたが、割と皆ちゃんと仕事をしているようでやることが無い。あるのは常駐依頼ととんでもない爆弾依頼くらいのものだった。
「へー、ギルドって意外と初めて見た」
「アリスのお手伝い優先。アリス、今日は帰ろう」
「あ、うん。そうね帰りましょう」
その日、ギルドでは美人姉妹が訪れたと話題になった。話を聞けば、髪色も瞳の色も異なっていたがお揃いのポニーテールなのだから姉妹に決まっているという。決まっていないが。




