5話 ・X・
・X・
カレー美味しい。やはり甘口は至高だ。辛口は涙が出てしまうからな。カレーライスに様々なスパイスを加えることが確立されているくらいに、この世界では割と食文化が発達しているのだ。理由は、まあ特にないだろう。調査の必要なし。
目の前で同じく鬼殺し半狂乱カレー甘口普通盛りを食べている赤髪少女は食事中に質問をすることはなかった。カレーに夢中で。きっとあまり美味しいものを食べられない環境なのだろう。神と口にしていたし何らかの宗教の信者であることに違いないが、独断で人を裁けるとなるとそれなりの地位にいる人物か。お若いだろうに苦労しているようだ。福神漬けを乗せるともっとおいしくなると教えてあげた。するととても感謝してきた。かわいそうに。
先に食べ終わったので食器をお姉さんに渡しごちそうさまでした。部屋に戻ろう。赤髪少女は哀れにもカレーライスに夢中である。食べ終わるころには本来の目的というやつも忘れているんじゃないだろうか。とにかく今のうちにドロン。面倒だし、説明義務はないだろう。さらば。ミリアは立ち去った。
それからしばらくして、部屋のドアがノックされた。ドアを開けると赤髪少女がしょんぼりした様子で立っていた。大方、目的を忘れて部屋に戻ったら部下に叱られたのだろう。まだ若いのだから失敗をばねに頑張ってほしいものだ。失敗に向き合えるのは良いことだ。これからの成長にきたい。ミリアは赤髪少女に微笑みかけそっとドアを閉めた。あっ、という声と共にすぐさまノックされる。ドアを開けると赤髪少女が顔を赤くしてドアをがしっとつかんできた。
「い、いれてもらってもよろしいですか?あはは」
「だめです」
「え、あ、ちょ」
ミリアは微笑みながらそっとドアを閉めようとしたが赤髪少女の手が挟まった。しばらくその状態でいると、扉を開けてきた。頑張って閉めようとする。だが無意味だ。赤髪少女のほうが力持ち。
「い、いれてくださいよぅ。うふふ」
必死にドアを閉めようとしているが全く歯の立たないミリアに嗜虐心を煽られてしまったようだ。危ない目をしてハァハァいってる。やばい。落ち着かせるか。ドアから手を放す。
「どうぞ」
「へ?」
「どうぞ」
「えと」
「どうぞ」
「あっ、はい」
赤髪少女はなぜか少し残念そうにしていたが、ふと我に返ったのか「はわわ、私は一体何を!」と顔を赤くしてわたわたしだした。その様子をしばらく眺めていると、落ち着いたのか、咳払いをして真面目な雰囲気にしようとした。あわせてあげた。
赤髪少女はシャルヴィス・X・インフェルノという名前だそうだ。彼女はアルノア教団という組織の構成員なのだとか。詳しく聞くつもりはない。
「あなたは何者なのですか?」
早速核心に迫る質問が投げ変えられる。私は何者なのか。
「ミリアです」
「・・・・・・それは何ですか?」
「私の名前です」
「なるほど、いえそうではなくてですね。名前ではなくあなたの正体というか何というか。私が知りたいのはそういうことでして」
「ただの村娘ですよ」
「あなたは一度死んだんですよ!バラバラにされて!!それなのにあなたは何事もなかったように今生きている!はっきり言って異常なんですよあなたの存在は!・・・・・・私はあなたを調べなければならない」
そういうと赤髪少女シャルヴィスは俯いてしまった。私に対して酷いことを言ってしまったとでも思っているのだろうか。私の姿はシャルヴィスにはどんな風に見えているのだろう。小さな子供か得体のしれない化物か。今私は失敗している。失敗は覆すことは出来ないしなかったことにしてはいけないものだ。だから記憶を消すことはしない。学んだことを生かしてこれから上手く立ち回るのが今回の失敗に対する向き合い方だ。ところで上手いごまかし方はないものだろうか。正体は明かせるものではない。
「シャルヴィスさんは、私って何だと思いますか」
「え?」
「私の中では私は私なんです。自分のことなど自分では知る由もないものですよ。他人がいることで差異を観測できる。自己というのは他人からの認識で出来ているのです。ではシャルヴィスさんが知りたい私の正体というのはシャルヴィスさんから見た私ではないでしょうか」
「それは、」
「つまり正体なんてものは人の想像上の幻。現実は大抵、至極単純に出来ています」
ダメだ。上手い言い訳なんて思いつかなかった。遠回りだ。どうすれば上手く出来るのかなんてわからない。私はこの先も延々と遠回りを続けるのだろうか。
「み、ミリアさんは、変わった方です。急に生き返るし、髪も白いし、目は黒いし、ちょっと意地悪だと思ったけど今度はいじめたくなるし、小さいのに賢いし、なんだか悲しそうだし」
む、そうか?悲しんだつもりはなかったが。それにしても急に生き返った点だけだろうに、変わっているところなんて。私は小さいのか。そうでもないと思うけれど。
「まあたしかに、ミリアさんはミリアさんですね。あなたはあなたです。納得します」
お、勝手におさめてくれたようだ。
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