56話 カウントダウン
「あ、お部屋ここ」
サヤラは眠たいのか先程までの元気はなく、ぽーっとした様子でそう告げた。
「おやすみミリアちゃん」
「おやすみなさい」
挨拶を交わしてサヤラがドアを閉じる。一応ドアの前で鍵がちゃんと閉められるか待つ。しかし閉められない。仕方がないのでノックする。
「な~に~?」
中からそんな声が聞こえてくる。
「ドアの前に来てください」
とてとて。
「来たよ~」
「鍵を閉めて下さい」
「は~い」
ガチャリと音がする。ちゃんと閉めれて偉い。
「ちゃんと閉めれて偉いですね。おやすみなさい」
「えへへ~。おやすみ~」
また一応ドア前で少し待機して、立ち去る。私も寝るとしよう。
部屋に戻ったのだがレイニーが来るまで鍵を閉められない。今後の予定でも考えておくとしようか。
明日レイニーたちと別れ、ローリスキー同伴のもと南下。目的地である砂漠は歩いていけば60日程かかるだろう。馬車なら20日前後。しかしちょっと走れば1日だ。この街の向こうは万能地獄ではないけれど砂漠地帯となっている。ということはこの街を出てしばらく歩いて、砂漠地帯に足を踏み入れた瞬間に目的地到達おめでとうの筈だ。そこからは好きに動いて良いのではないだろうか。そうだそうに違いない。やるぞ。私は砂漠地帯に足を踏み入れた瞬間にヘルオールまで移動してやる。調べたところ、移動経路には殆ど街は無いようだし、歩いても砂しかないだろう。ああ、待ち遠しい。
それにしてもローリスキーはどうしようか。笛を吹けば一瞬だしまあいいか。それよりも私の力を見てどう思うだろうか。そしてもう一つの問題は鞄の大切な物ポケットにしまってある琥珀だ。これに埋まっている発信機が位置情報を発しているとしたら、これを観測しているであろうアリスを驚かせることになる。尤も、ヘルオールは砂嵐が物凄いらしいので電波が届くことは本来無いだろう。しかし明日はそれすらも吹き飛ばす。天気は100%快晴だ。なんの目的で私に琥珀を渡したのかは分からないが、またそのうち会いに行こう。瞳はどんな色をしているのだろうか。
やがてレイニーが部屋に戻ってきた。彼女は少しふらついた様子でドアを閉じて、やはり後ろ手で鍵を閉めた。カチャという音が響く。彼女の表情は俯いていて見えないが舌なめずりはしていないので安心した。
「ミリア、ごめんね。私が来ないと眠れなかったよね。今、灯り消すわ」
ぼんやりとした灯りがフッと消えて、部屋には月明かりが差した。レイニーはその窓のカーテンもサッと閉めて、部屋は暗闇になった。
「私、夜目はまあまあ利くわ。ミリアの寝顔もバッチリよ」
何がどうなってバッチリなのかは不明だが良かったね。レイニーが隣のベッドに潜る。
「おやすみミリア」
「おやすみレイニー」
レイニーがこっちを向いて寝るので私はレイニーに背を向けて寝た。
朝だ。カーテンを開けてレイニーに太陽光を浴びせてあげる。大きく育つんだぞ。そういえば光合成のような能力があるとどこかで聞いたことがある。緑化活動に貢献しているらしい。まあどうでもいい。
よく眠るレイニーを起こして食堂へ来た。昨日はお魚料理を中心に食べたので朝食はバランスよく食べるとしよう。
テーブルには昨日と同じ並びで皆が座っていた。既に食べ始めている。私も早く食べなければ無くなってしまう。挨拶を交わしつつ席に着く。
「おはようミリアちゃん。よく眠れた?」
「おはようございます。快眠でした」
「ミリアちゃんさん、昨日はこいつのことありがとうごぜぇやした」
「え?何の話?」
「お前の危機感が足りねえからミリアちゃんさんのお手を煩わせたんだろうが」
「だからあまり飲みすぎるなって警告したんだ。記憶が飛んでんじゃねえか」
「えー?なんかわからないけどミリアちゃんありがとー」
「いえ、ちゃんと鍵閉めて偉かったです」
「ちょ、俺の方が年上だよ?」
「そんな威厳、昨日で既に失せちまってるよ」
「お前、酒飲むと段々ふにゃふにゃになるからな」
「そ、そんなとこ見てんじゃねー!」
「見られて困るようなら酒飲むんじゃねえよ」
「隙を見せないように気を付けろって普段から言ってるだろうが」
「ぐぬぬ」
サヤラは何も言い返せないようで、バクバクと物を食べ始めた。私も食べるとしよう。
「忘れ物はないかしら?」
レイニーが私に確認する。彼女たちはこの街に引き続き留まるようなので宿を出るのは私とローリスキーだけだ。レイニーたちは何かの調査をしているんだったか。
「ないよ」
「そう。じゃあお別れね。いつかまたどこかで会いましょう。あなたに出会えて良かったわ」
「うん」
「無理しちゃ駄目よ?困ったらちゃんとローリスキーさんに頼ってね?」
「わかった。行ってきますレイニー」
「行ってらっしゃいミリア」
その後、皆に見送られながら私とローリスキーは街を出た。
さて、砂漠地帯へ近づくたびドキドキと鼓動が高鳴るようだ。あと幾つ歩いたら最高の瞬間が訪れるだろうか。




