55話 お話聞くんだ
そのうちに夕食の時間になったのでレイニーを揺すって起こした。うーんと唸って起きたレイニーはゆっくりと辺りを見回して状況把握に努めているようだ。部屋をぐるりと見回して私の顔を見る。しばらく見てレイニーが急に青ざめた。
「あ、あの、み、ミリア。私、あなたに何か、しなかった?それか、何か変なことを口に出したりなんて、してないわよ、ね?」
「レイニーはお部屋に入ってすぐに寝ちゃったよ?寝言も無かったし。変な夢でも見たの?」
「そ、そうよね。変な夢見たのよ。ええ。きっとそうだわ」
そうだあれはレイニーにとっても私にとっても夢であった方が良い出来事だった。忘れよう。
「夕食の時間だから起こしたの」
「ありがとう。じゃあ行きましょうか。確か一階の食堂で食べるんだったわね」
一階に降りると、他のメンバーは大テーブルに集まっていた。ローリスキーもちゃんといる。卓上にはすでに様々な料理が並べられており準備万端だ。レイニーと共に席に着く。
「遅かったっすね、レイニー様」
乗組員の一人が言った。
「ごめんなさい。少し眠っていたの」
「へー、珍しい。けどまあ疲れてたんすね」
「そうみたい。あっ、それよりも乾杯しましょうか。はーい、なんか色々かんぱーい!」
「ははは、レイニー様結構適当っすよね」
そんなこんなで乾杯した。私はもちろんリンゴジュースだが。他はお酒を飲んでいる。
ここにも冒険者ギルドがあるようで、この宿にも仕事帰りに飲みに来たという風情の客が多くなってきてにわかに騒がしくなってきた。とはいえ気に障るほどのものでもない。
そのうちに夜も更けてきた。そういえば乗組員の人にお話を聞きたくて隣に座っていたのだった。お話聞こう。
「あの、お話いいですか?」
そう言った途端、このテーブルの視線が集まった。私は萎縮した素振りを見せる。目が逸らされる。
「え。俺?ミリアちゃんだっけ。何かな?」
お酒のせいか少し赤らめた顔でそう答えるのは、能力で船を天へと飛ばした乗組員だ。年は18、19くらいか。
「あの船を飛ばした能力、凄いですね。私、能力ってどんな感じなのかなってお話聞きたくて」
「へぇ、興味あるんだ。俺でよければ話すよ。船で交流無かったしね」
「わぁ、ありがとうございます」
「ゴホン。まず能力を使う時の感覚だけど、まあスプーンやフォークを使うのと一緒だね。身近にある道具として不便無く使うことが出来る。これは能力を持つ人には共通の感覚だろう。ただ時々スプーンやフォークが曲がっている、つまり扱いが難しいような能力が発現することもある。そういうのは何度も使って扱いに慣れる他ない。能力は原則的に変化しないから。しかし訓練次第で能力で出来ることが増えるというのもある。それはスプーンやフォークを持つ手が進化したってことだね」
そこまで言ってお酒を飲む。私もリンゴジュースを飲んだ。
「んで、ここからは俺の話なんだけど。俺の能力は<天地無用>。ちょっと名前はダサいけど便利な能力だよ。物の状態をそのままに保存して空の上に置いておける。それで空の上の物は何からも干渉されないし、俺の好きなタイミングで好きな場所に降ろせる。今まで試してきた感じ、物を行き来させるのに上限とかもなさそうだ。あっ、あと能力使用についてだけど能力使用によって体力を使うとかは無いんだ。まあ何時間も使い続けたり、そもそも動きながら使うようなものだと当然それ相応に疲れるけど。能力持ちは寿命が短いとか能力使用は寿命を吸われるとかいう説もあったけれど、戦争だったりモンスター討伐だったりそういう危険なところで矢面に立つのが能力持ちになることが多いだけで能力使用は関係が無いんだ。とはいえ短命が多いのは確かかもしれないけど」
ふう、と一息ついてこちらを覗う。
「俺ばっかり話しちゃったけど、聞きたいこと聞けたかな?何か質問あったら言ってね」
質問。
「なんで能力についてそんなに詳しいのですか?」
「あれ?俺のこと知らないで聞いてたの?だとしたらミリアちゃん見どころあるよ。そういえば自己紹介もしていなかったね。何を隠そう俺は能力考古学者サヤラ・エルリス様だ!がはは」
「自称だろうが」
「ミリアちゃんさん、こいつの肩書は枕に自称がつくんで真に受けないでくだせぇ」
「なんだお前ら、俺がミリアちゃんと話してるのに嫉妬してんじゃねーぞ」
「は、はぁ!?し、してねーし?全然うらやましくねーし??は?」
「べべべ別に?は?お前が酔っ払って変な事言うからだし?は?なな何言っちゃってんの?」
「顔あけーぞ」
「さ、酒だし?てかお前もあんまり飲みすぎんじゃねーぞ。潰れる前に寝な」
「そーだな。若いのはそろそろ。ミリアちゃんさん、こいつのこと部屋まで頼んます。おいサヤラ、ちゃんと鍵掛けてから寝るんだぞ」
「あ、うん」
「そら行った行った」
「風邪ひくなよ」
「わかったよ!もう」
私はサヤラ・エルリスの手を引いて階段を上った。俺と言っているが彼女は女性である。




