47話 満月だから
ふとローリスキーが部屋の窓を見る。私もその視線を追って窓を見ると外は暗くなっていた。まだぼんやりと明るいのは月が出ているからだろう。窓に近づいて空を覗くと、大きな満月だった。悪魔と月は何か関係があるものなのだろうか。
「満月だね」
私はそんなことを言ってみた。わかりきっていること。けれど誰かと共有したくて、共感してほしくて、人はこんなことを口に出すのだろう。
「うん、海が膨らんでいるかもしれないね」
彼がそんなことをポツリと言った。なんの話かと一瞬思ったが月の引力のことだと納得した。重力だとか引力だとかの科学は大陸や国によって発展具合に大きく差がある。私がいた大陸ではあまり科学は重要視されていなかった。私の目的地の砂漠にはそんな概念も無いだろう。
「ここは月の光も届かないばしょなのに」
「窓から月が見える」
「不思議だね」
私はまたそんなことを言った。
「ああ、とても面白いね。人間の能力というものは。私はこの姿になって人間の能力に興味を持ったんだ。私は悪魔だから元は人間から生まれたようなものだ。そんな私が呪いで人間の体を得た。思ったんだ。私にも能力が発現する可能性があると。そう可能性なんだ。人間の能力は可能性だ。悪魔である私が本来無かった可能性を持ったのだ。おかげで私は今、少しばかり楽しいんだ。勿論ミリア君の側にいることが一番楽しいのだがね」
彼は最後にそう付け足してくれたが、私の何を楽しいと感じているというのだろうか。恐ろしい。やはり悪魔か。
それにしても悪魔は本来可能性を持たないと言っていたが、果たして本当にそうだろうか。時間が流れている限り万物には未来という可能性が宿っているのではないだろうか。それともまた別の話をしていたのだろうか。あるいは未来は可能性ではなくただの一本道でしかないということだろうか。まあどうでもいいか。
「それじゃあ一緒に食堂に行こう?今日はカレーだよ」
「半径1メートルでいいかい?」
「?」
「いや、なんでもない。なんでもないんだ、うん。それでは一緒に行こうか」
ローリスキーはゴホンと咳払いをして、私に手を差し出す。その手はきっと自然に差し出したものなのだろう。彼は、あっ、という表情をしてその手を引っ込めようとした。
私は手を握った。彼は驚いたような目をして、それから困ったようにもじもじして。そんな姿が可笑しかった。悪魔なのに。
「これで一緒」
「あ、ああ」
彼はおどおどと返事をする。おじさんなのに。
初めて顔を見た。碧い目。海の色。宝石みたいに綺麗。凛とした鼻。喋ると動く口。当たり前か。
表情がわかる。悪魔だからか。人間の姿だがあくまで悪魔であるからか。
それとも私が変わったのか。きっと今日が満月だったからだろう。理由なんてそんな風に適当でいいんだ。




