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観測不能の侵略者  作者: 九月
第二章 海から砂へ

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46話 深き海

 せっかく海の中にいるのだからその景色を拝みたいと思うのは自然なことである。というわけで私は部屋を出て潜水艦を探検することにした。


 潜水艦といっても空間自体はどこかの施設なのだが、操縦室くらいはそのままなのではないだろうか。そこで海の中が見えるだろう。


 操縦室を探して彷徨っていると、廊下の奥に機械質な扉が見えてきた。恐らく空間が入れ替わっていない部分だろう。期待しても良いだろう。一応ノックしてみよう。コンコンコンと扉を叩く。叩いた手が痛そうな扉だ。


 「どなたでしょうか?」


 中からジュドの声。


 「ミリア、です」


 「どうしたのですか?」


 「海、見える?」


 「・・・見えますよ。どうぞお入りください」


 ガコンと扉が開く。私はジュドの言葉に歓喜して中に入る。わーいやったー。


 そこは操縦室のようで、細かいボタンやらレバーやらスイッチやらでひしめいていた。そして。前方に丸形の窓。ここからなんと海色が見える。青い!


 「それほど深く潜っていないのでまだ陽の明かりが届いています。深海は真っ暗なのでライトをつけます」


 どこかぎこちなくジュドが説明してくれた。私は何かに触ってしまわないように気を付けながら丸い窓に近づく。


 青い世界。陽の光が仄かにその世界を照らしていた。名前も知らない魚が泳いでいる。どこからか出た泡は浮かんでいく。くらげが揺蕩う。空は曖昧。どこまでも青く深い世界。沈んでいくほど暗くなる。海の底は冷たいのだろうか。ひとではいるのだろうか。いやどうでもいい。




 潜水艦はだんだんと海を潜っていった。それとともにだんだんと暗くなっていく。心なしか生き物が少なくなっている気がする。だんだんと暗くなる。潜水艦のライトが作動する。ぼんやりした光。でも確かに前を照らしている。大きな影が横切った、気がした。さらに潜る。必要ないのではと思うほどに潜る。もう海は闇だ。ここは青い世界ではない。その境界がどこにあったのだろうか。


 私はそんな世界の変遷をただ黙して眺めていた。ジュドも何も語らず私をその膝に乗せて操縦桿を操作していた。ん?私はいつの間にジュドの膝に座っていたのだろう。まあいい。もう少しこのまま海を見ていよう。楽だし。それにしても静かな世界だ。この操縦室もそれほど音が無い。技術の進み具合がうかがえる。


 やがてジュドが口を開いた。


 「この潜水艦は大型生物に襲われたりぶつからないように特殊な加工が施されています。なので深海で停止しても問題ないのです。その間操縦室を離れていても。そろそろ夕食の時間です。この艦には食堂もありますのでご案内しましょう」


 いつの間にか夕食の時間らしい。時間の感覚がなくなっていたが、私の腹時計は確かにそろそろ夜に差し掛かるところだと告げている。ような気がする。多分。


 ジュドについていくとまあまあ広い食堂に行きついた。良い匂いがする。この匂いはカレーだ。食堂にはレイニーや乗組員数名がいた。料理は乗組員の方々が作っているようで、レイニーは席についてぼーっとしていた。いやぼーっとしているのかはわからないがそんな風に見えた。口も半開きだし。私の真似か?


 ローリスキーはまだ来ていないようだ。空腹でまた動けなくなっているかもしれないし呼びにいくとしよう。


 私の隣の部屋をノックしてみる。コンコンコン。


 「ミリア君かい?どうぞ、空いているよ」


 どうしてわかったのだろう。ドアを開ける。


 「どうしてわかったの?」


 尋ねる。疑問を疑問のままにしない。まあわからないままでも良いことのほうが世の中多いが。


 「うん?ああ、どうして君だとわかったのかって?簡単さ。良い匂いがしたからね」


 カレーの匂いだけでは誰だか判別できないと思うけれど。きっとそれ以外の理由があるのだろう。探りはしない。


 「そろそろ夕食の時間だから呼びに来た」


 「おお、そうかい。それでは行くとしよう。君に助けられて以来、毎日三食しっかりとっているよ。この体は不便だが味覚というのは面白い。全く同じ味というものが無いのだ。良い発見だったよ」


 それは良かった。いっぱい食べて元気に育ってほしい。

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