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観測不能の侵略者  作者: 九月
第二章 海から砂へ

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39話 だから僕はマヨネーズを舐めた

りはびり

 海辺での散歩だ。白い砂浜には綺麗に光る石や貝殻、どこからか流れ着いた木材、さらには海藻、くらげ。海というものは様々な物語において出会いの場に用いられるものであるが、この海においてはそんなことはないようで。ただただ白波が砂浜を延々と撫で続けるばかりである。時折、波に運ばれて様々な物がこの砂浜に漂着している。


 現在時刻はまだ朝と言い張れる程度で、太陽もそれほど自らを主張してはいない。


 ふと後ろを振り向くと、私の足跡が点々としている。今、私はこの世界で一人きりなのではないだろうかと夢見てしまう。そんな素敵な風景だ。誰もいない海は良い。まあ私が居てしまっているのだけれど。とはいえ、何事にも観測者がいなければそこに価値も意味も生まれない、というのはいつか言ったのだったろうか。そんな記憶があるような無いような気がしないでもないような。ともかく観測者がいれば意味や価値がうまれるのだとして、例えば世界に一人しか観測者がいないとすればそれは観測者にしか意味も価値も無いもので、その観測者を観測するものがいなければそこには何もないに等しいということになるだろうか。では観測者が世界に二人いた場合は。二人が互いに観測しあう。それぞれがそれぞれに意味や価値を見出す。二人は様々な物事を観測し、それぞれ違った意味や価値を見出す。その後はどうなっていくのか想像することが出来ない。きっと観測者が一人二人とどんどん増えていって歴史を作ってきたのだろう。


 しかしどうやら観測するばかりでは駄目であるということがわかったぞ。記録し対話して、自分の見出した価値や意味を確固たるものにする必要があるようだ。少なくとも歴史というのはそういう意味と価値を統一化して作られたものだろう。とはいえこれはあくまでも歴史を作るための観測だ。現在の世界では個人個人はそんなことをする必要は無いのだろう。自分一人で完結してしまっても良いし、家族内での共通認識にするのも良いし、誰かと共有して同好の士を見つけるのも良い。


 まあこんなことは考えても仕方がない。人間の数だけ観測の仕方があるものなのだから。私一人の考えが世界の共通認識なんてことあるわけないのだから。どうでもいい。歩く歩く。





 やがて空が燃えるような赤に染まる頃、私は砂浜を足跡でいっぱいにした。ざーっという波の音に後ろ髪をひかれつつも、食べそこなった昼食の分まで夕食に期待を高めて海辺を後にする。明日になれば足跡なんて消えているだろう。きっとそういう魔法がかかっている。嘘だが。


 ボロボロとはいえ流石にこの時間になれば灯りのついている宿に戻ると、受付の所でレイニーとバ行さんがもめていた。まあ一方的にレイニーがバ行さんに食って掛かっているみたいだけれど。一体どうしたというのだろうか。


 「ふざけてるの!?あなた昨日舌なめずりしていたじゃない!女をそういう目で見てるってことでしょう!この街の男なんて信用できるわけないじゃない!」


 「ち、違います。ごごご誤解です。昨日は、昨日はその、舌なめずりをしたのは、口にマ、マヨネーズがついていて、見られたら恥ずかしいから、咄嗟に」


 「言ったでしょ、信じられないって。大体なんでマヨネーズが口についているのよ。・・・まあ、その体型ならマヨネーズが口についていてもおかしくないのかしら?」


 「た、体型はかか関係ない!い、いや少しは関係あるかもしれないけど、ききき君の想像しているような理由で、マヨネーズを食したわけじゃ、ない。ぼ、僕は料理の修行をしているんだ。ほほほほら、君たちが今日の朝に昼食を食べに来たお店があるだろう?そ、そこで父さんと一緒に料理しているんだ。そ、それでそれで、たまたまマヨネーズを味見したのであって、一日中マヨネーズを摂取しているわけではななな、ないんだよ」


 「ふん。それが本当だとしたらマヨネーズと体型を結び付けたことにはごめんなさいだけど。でもあなたが女のことを下に見ていないとは証明できないし」


 「そそ、そんなこといわれても、どうやって証明すればいいのか・・・。あっ、ミリアちゃんおかえりなさい」


 「あらミリア、ってなんであんたがミリアの名前知ってんのよ!!」


 ようやく気が付いてくれてありがとう。しかしながら私が口論の新たな火種になってしまったようだ。残念。

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