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観測不能の侵略者  作者: 九月
第二章 海から砂へ

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37話 皆って誰だよ

 お話が聞きたいらしい。奥の部屋を指定しているのはレイニーを起こさない為の配慮であろう。とはいえ私は特に話すことなど無いな。断ろう。ごめんね。


 「じゃ、じゃあぼぼ僕がお話してあげるからさ。グヒ。こ、これでも海には、く、詳しいんだよねぼぼ僕。うん、そそ、そうだそれがいいそうしよう。グヒ。ほ、ほらいこうよ、ねえ。こここっちだよ?」


 息子さんは決定事項のような言い方で私に催促する。仕方がないので少しだけでも付き合ってやるとするか。夜が怖いのかもしれないしな。それに海に詳しいと言っているから何か面白いお話が聞けるかもしれない。そんなちょっとした期待も抱きつつ私は息子さんの後についていって2階の、階段からも一番遠い奥の部屋に入る。


 「そそそういえば、き、君の名前は何て言うのかな。グヒ」


 息子さんは窓辺にベッドを運んでそこに腰掛けて、私に名を尋ねる。名を聞くときはまず自分が名乗れ、なんていうことは言わない。私にそういった思想が無い以上、相手に文句を言う筋合いも無い。私も窓際のベッドに腰掛けて、質問に答える。


 「ミリアです。あなたは?」


 私が聞き返すと、息子さんは顔に苦悶と羞恥の色を浮かべて、絞り出すように恨めし気に憎々し気に名乗った。


 「ぼぼ、僕は、グヒ、僕の名前は、バハムート・ビヨンド・ブラッド・ベルセルク・ボーン。a.k.a.(またの名を)バ行」


 意外と気に入っているのではないだろうか。私は少々長い名前だなくらいにしか思わないけれど。ところで窓の外はきらきらと輝く星空とゆらゆらと揺らめく海だ。名前などどうでもいいからこの景色を眺めようではないか。とはいえ名前というものは個人の判別のために用いられるようなものだ。あくまでも識別情報だとして扱うのであれば大切なものかもしれない。しかし名前というものの概念が変わっているのだとすれば、自由に個人の意思で名前何てものは変更しても良いのではないだろうか。もちろんそれは表面上のやり取りでのみ使われるようなものにはなってしまうであろうが。個人の識別のための名前と、個人を象徴するための名前があっても別に自由だと思う。まあこんなことはどうでもいいので私は外を見るけれど。


 「ぼ、僕の名前を笑わないのかい?」


私がバ行さんの名前を聞いて、なんの反応も返さずに外を眺めていたからかバ行さんがそう聞いてきた。名前に笑うも何もないと思うが。面白い冗談でも羅列されていたのか?気が付かなかったけれど。


 「い、いや、べべ別に面白いわけじゃないんだけど。グヒ。だだだだってぼぼ僕の名前、凄そうなのに、ぼぼ僕はこんなのだから、な、名前負けしているし。僕みたいなのが、ここ、こんな名前なのはおかしいってみみ皆が言うんだ」


 名前のイメージを優先させてその人物を評価するなんてその人間たちのほうがおかしいのではないだろうか。それにその人物の外見だけで評価を済ませるなんてのもおかしい。まあそういう人間は人間に求めている価値基準が違うのだろうけれど。というか人間というものはそういう風に出来ているのかもしれない。どうしても視覚に頼って情報を得る場合が多いからだろう。けれどそれで勝手に無価値な人間だと決めつけられたら腹が立つであろうな。しかしそんなものはどうしようもない。現状を変えたいのであれば、その人間の価値観を変えるか、自分がその人間の価値観に合わせて変わるか、その人間を殺すしかない。どれをとっても労力がかかって面倒だろうなと思う。


 「そ、そうか。ミ、ミリアちゃんありがとう。ぼぼ僕はくだらないことに囚われていたんだね。グヒ。景色を見ながら色々考えてみるよ。そうだね、たまには星を見るのも悪くないかもね。うん、空から見れば僕も皆も小さいものだ。些細なことだ」


 少し背筋の伸びた気がするバ行さんはそれきり何も言わないで、ただただどこまでも広がる海と星々を眺め続けるのだった。私もそのまま朝が来るまでバ行さんと同じく空と海を眺め続けた。

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