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観測不能の侵略者  作者: 九月
第二章 海から砂へ

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36話 階段が軋む夜

星の写真集ほしい

 さてもうやることは無くて、夕食を食べる時間までは暇である。海を眺めるしかない。レイニーはそんな私に呆れた様子で何らかの書物を読んでいた。時折、海鳥の鳴き声が耳に入ってくる。私は水平線をぼんやりと眺めている。そんなゆったりとした時間が流れていく。


 いつの間にか空は黄金のように染まっていて、それがもう夕暮時なのだと私に知覚させた。視界の右端の方に、海へと沈みゆく太陽が映る。太陽を直接見るのは危ないというのに私はその光景を焼き付けたくなって、じっと黄金の光源が海に飲まれていく様を眺めているのであった。まあ太陽を直接見続けていたわけではなく、あくまで太陽が海に沈むという光景を俯瞰的に見ていただけである。目というのは不思議なものだ。脳が無いと何も映していないのと同じだ。脳が視覚を有効にしていないという状態は作り出せる。何かを深く妄想とか想像している時、目から伝えられる情報は遮断されて脳で作った情報を前面に映し出す。どうでもいい。

 目で見ている物は、脳が処理しなければ何の情報も持たないだろう。とにかく臓器というのは上手くできているという話であるが、脳が違えば視覚から得ている情報も異なるのだろうかという疑問を抱いた。全く同じ脳というのは無いだろうから、人間同士でも差異があるのだろうか。尤も人間の脳の構造は大体同じだろうからそこまで大きな違いは無いだろうけれど。他者が違う視覚を持っていることをそれが当たり前だと済ませるか、恐ろしいと感じるか。とはいえ視覚に宿る情報は知識量も関係してくるものだろう。知識が多ければ物が持っている情報も増すことだろう。どうでもいい。


 それから少し経って私とレイニーは夕食をとる為にそこらの落ち着いてそうな人のいないような店へと出向いた。もちろん荷物は全部持ってきた。鞄の大切なものポケットには琥珀とか笛が入っているので盗まれたら困る。そうして店に入って美味しい海鮮料理を食すのだった。


 さて星がぽつぽつと出てきたけれどまだ空は暗くなりきってはいない。宿に戻ったらずっと空を眺めて、朝を迎えるというのもいいかな。どうしようかな。そんなことを考えながら宿に戻って部屋に入ると、違和感がした。ベッドのシーツにしわが寄っている。さらにはなんか部屋が臭い。幸いレイニーは私の後ろにいるのでまだ部屋にはいっていない。よって気付かれないうちに一瞬で匂いを消して。ぶんっ。そして大げさにこける。ずてっ。ここでシーツをつかむ。ずいっ。


 「え、ちょっと、大丈夫?」


 心配そうに手を貸してくれるレイニーに大丈夫だと告げて、その手を借りて起き上がる。さて後は何をするでもなく海と星を眺める時間だ。今日はレイニーに止められようとも絶対に寝ない。


 時間はあっという間に過ぎ去って、何かを警戒していたレイニーも日を跨ぐ時刻になると耐えられずに眠りに落ちてしまった。私は月明かりに照らされて青々と輝く海と、水平線上まで埋め尽くす星々をぼんやりと眺めつくしている。月は三日月で表面の模様はあまりよく見えない。月の光は太陽の光を反射しているものだ。月は夜の証明であるとともに夜を照らすささやかな照明なのだ。流石にこの時間になると街の明かりも段々と消えていくし、人々の喚き声も海に近いこの宿まではそうそう届かない。しかしそれはここで何が起ころうとも人々には伝わらないということでもあるが。


 夜がさらに更けてきた。相変わらず海も星も綺麗でいつまでも見ていられるものだ。ふと部屋の外、1階と2階を繋ぐ階段がゆっくりと密かに、けれど隠し切れない苦し気な悲鳴をあげるのが聞こえてきた。今日この宿には私とレイニー以外の客はいないようだった。今、ぎぃぎぃぎしぎしと階段を上ってきているのはこの宿主の息子さんだろう。彼は太っていたからな。はてこんな時間に何の用だろうか。ああ、2階の方が海を見渡せるからきっとそれで。綺麗な景色だからな。この街の人間でも見飽きることは無いのだろう。昼と夜では海の雰囲気も大分変わるものであるからな。


 廊下を軋ませる足音は私たちのいる部屋の前で止まった。何故?そしてきぃと扉が開けられる。私は仕方がなくそちらに顔を向ける。するとそこにいたのはやはり息子さんで、私が起きていて驚いたのか一歩後ろに怯んだ。床が軋む。その音でもレイニーは目覚めず、息子さんはそれを見てホッとした。私は息子さんに近づいていく。一歩近づくたびに後ろへと下がる息子さんを追って私は部屋を出た。扉を静かに閉めて、息子さんに聞く。


 「海を見に来たのですよね?この部屋は私たちが泊まっていますよ。今日は私たち以外人がいないようなので隣の部屋以外は空いているのではないでしょうか」


 そういうと息子さんは、何事かを考えて、やがて結論を出した。


 「う、うん、海。そ、そう海を見ようと思ってね。グヒ。よよよよかったら奥の部屋で一緒に海を見ながら、お、お、お話しないかい。ぼ、僕この街から出たことないからき、君のお話き、聞きたいなぁ、なんて。グヒ」

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