35話 君の舌は何を舐める
女性に連れられてギルドを脱して、少し離れた場所の喫茶店に入った。さて何を頼もうか。美味しいデザートと飲み物を頼むとしようかな。お話を聞く前に注文を済ませる。
「私レイニー。この街には2日位前にちょっとした視察で来たの。よろしくね」
レイニーと名乗った青いセミロングの髪の女性。視察とはどういうことだろうか。ともかく私も端的な自己紹介をする。名前だけ。
「ミリアです」
女性はニコッと笑って、早速お話を始めた。
「この街、男が多いのは気付いたかしら。この街では海に出て仕事をする男の方が立場が上にあるっていう風潮があってね。だから女性の冒険者っていうのは目障りみたいなの。仕事を独占したいみたい。私が海に出る依頼を受けようとしたら女が出しゃばって余計な仕事増やすなですって。それで結局受付の人も男だったから依頼受けられなかったりしたの。それにその、何て言えばいいのかな、えっと襲われるというかいじめられるかもしれないわ。危ないのよあいつら。だからギルドには出入りしない方がいいわ。それであなた今日来たんだっけ?旅をしているんだ、いいね。そう、ならこの街を出るまでは宿で大人しくしていた方がまだ安全よ。え、船の情報?そうね、たしかにギルドの掲示板くらいしか無いか。この街の男は女を船に乗せたりしないだろうし行商人の船に乗せてもらうしかないのよね。うーん私もギルドには行きたくないしな」
なるほど男尊女卑というやつか。こういうのは土地の風習というものであると思うのだが、レイニーは忌避的な反応を示しているようだ。それはこの街で生まれたわけではないからであろう。この街の人間はこの街特有の価値観の中で生きている。価値観を守っているともいえるだろうか。ともかくそれを守るためには外部からやってきた者たちにもそれを強制させなければならないといったところであろうか。彼らは今まで生きてきたその価値観を簡単には手放せないだろう。故に外へ出ると価値観の相違に苛まれる。そして結局のところこの街でしか生きていけないのである。この街がそうしているのか、この街の人間の無意識がそうしているのかは分からない。
「そうだ!ミリア、私が船を用意するわ。どうせもうすることも無いし、ちょうど帰りたいと思っていたし。ただ2日はかかると思うけれどいいかしら」
まあ、ここですることは美味しいお魚料理を食べることと海を眺めることくらいのものだから面倒を避けられるというのなら願ったりかなったりである。それにお金もかからなくなりそうだし。お魚は海でも食べられるだろうし。海は船でも眺められる。こんな街は早々におさらばするのが正解であろう。その話に乗ろう。
「やった!じゃあ2日間あまり外に出ないでなるべく大人しくしててね!それと当日は迎えに行くから今泊まってる宿を教えて。・・・・・・うーん、聞いたこと無い宿ね。案内してくれるかしら」
そうして私はレイニーを宿に案内することになったのだが、まずは運ばれてきたデザートとジュースを飲食しなければならない。私たちは、魚など一ミリも入っていない甘味を港町で味わうのであった。まあ甘味に場所は関係なかろう。だから良いのだ。ここにあったのが悪いんだ。
喫茶店をその利用価値のもとに役割を遂行させて、店を出た。まだまだ日は高い。やがて夜に見られる景色を想像して楽しみにしながら、その目的を果たすためにとった宿へレイニーを連れて向かう。その海が見える宿に着くとレイニーはえ?という顔をして尋ねてきた。
「まさかここじゃないよね?」
そんな問いに、ここだよと言っておく。
「嘘、そんなにお金無いの?」
そんな問いに、海がみえるからだと言っておく。
「ここじゃなくてもあると思うけど」
そんな問いに、ここが空いてて安かったからだと言っておく。
「そりゃそうだよ。ボロボロだし。怪しげだし」
ふむと改めて宿の外見を確かめてみると、まあボロボロではあった。しかし崩れそうなほどでもないし、それに趣があっていいじゃないか。私はここで夜の海を眺めるんだ!譲れない。断固。
「ま、まあ宿だし防犯は大丈夫よね」
その問いには何も答えを出さない。そんな私の様子に察したのか、レイニーがまさかという顔をして言う。
「部屋見せて」
仕方がない。ご覧にいれよう。
レイニーを部屋に入れると、彼女は大きくため息をつくのだった。
「ちょっと!この宿やめなさい!鍵も無いし所々穴が開いているじゃない!それに見えなかったの?あの男の顔!ご丁寧に舌なめずりまでしてたじゃない!!」
そういえば宿をとった時とは違って太っていたな。別人だったのか。息子さんだろうか。多分そうだろう。というか舌なめずりをしていたからなんだというのだ?私はこの宿を譲らないぞ!断固断固!
しばらくレイニーと話したが、私が絶対安全な策があるから大丈夫だと説得するも信じてくれなかった。そして私がどうしてもここに泊まるという意思を感じたのか、仕方がないと諦めたようだ。しかしレイニーが自分もこの部屋に泊まると言い出してしまった。私は別に構わないものの、流石にレイニーにここに泊まらせるのは気が引けてしまう。そうして今度は私が心配する側に回ることになった。
結局レイニーも私と同じ部屋に泊まることになった。




