32話 解決
私の目の前に突如現れて、奇声を発する男性から視界を遮った自称大悪魔のおじさんが何か言葉を紡ごうとしている。奇声がうるさくはあるが拝聴させていただこう。
「おい君。君はやってはいけないことをしたよ。こんなにも幼い彼女に穢れたモノを見せつけようとしたね?純真な瞳にソレを映そうとしたね?それに急に大きな声を出して、彼女の耳を害したね?許されざることだよ。わかるかい?君は宝石に傷をつけているんだ。ただでさえ寿命の短い宝石に何ということをするんだ。君たち人間は己に巣食う悪感情を我々悪魔の仕業だと言うが、元々悪魔は君たちが生み出した概念存在なのだよ。君に悪魔は憑いていないし、もし憑いていたとしても、こんなことをする奴を殺すことに何の躊躇いも生じない。長くなってすまないね。死ね」
そんな台詞を吐いている間に流石に奇声男性もこちらの様子に気が付いて、おじさんに何事かを喚き散らして殴ったり蹴ったりしていたが、おじさんが言葉を繰り終えると、死んでしまった。それは心臓が止まったわけでもなく、恐らく中身が死んだのだろう。いずれにせよそのうち心臓も止まるだろうけれど。立ったままこと切れた奇声男性の死体をおじさんは軽々と蹴飛ばして、死体はそこらの壁に突き刺さった。
奇声やら大きな破壊音によって流石に誰かが気付いたのか、ざわつきが近づいてきた。私とおじさんはすぐにその場を離れて難を逃れた。結局、奇声男性の下半身というのはどうなっちゃっていたのだろうか。私はずっと視界を遮られていたのだが、きっとどこかが大きく腫れていたのだろう。それがあまりにも痛々しいものであったからおじさんがあんなことを言ったのではないだろうか。それにしても物凄い大げさに痛がっていたとはいえ、あんな風に殺してしまうとはやはりおじさんは本当に悪魔なのかもしれないな。私も殺されないようにしよう。
「君、なんだってあんなところにいたんだ!それもこんな夜中に!私がたまたま偶然奇跡的に駆け付けられたからよかったものの危ないじゃないか!」
現場から大分離れた場所でおじさんが私を叱る。私は一応理由を話す。
「何?冒険者になったから?ナイフの使い方を覚える為に?時間が空いていないから夜に?ふむ、本が沢山ある喫茶店があると。なるほど事情は分かったがそういうことなら君のパーティーメンバーに相談するべきだよ。きっと時間なんていくらでも使ってくれるだろうさ。仲間なのだろう?人間というものはね、たしかに悪感情をもっているものだ。戦争もそれによって引き起こされたようなものだが、別にそれだけで世界が構築されているというわけではないだろう?好感情だって同じくらいあるものだよ。少し目につきにくいだけでね。だからあまり悪感情の存在にとらわれないで好感情は好感情として受け止めるといい。君に悪意を向ける人間など、いたら私が殺すけれどね。おっとごめんよ口が悪かった。それにしても君は人間をあまり信用していないのかい?それならば悪魔にならないか?煩わしいことなど無いし何よりずっとその姿のままでいられるよ。おお、我ながら名案ではないか。さてどうかね」
私は人間を信用していないわけではない。まだそれほど詳しく知らないから、こちらが暴かれるのが怖いのかもしれない。そして私は悪魔にはなれない。そして少なくとも今はなるつもりは無い。そういうわけで私はおじさんにお礼を言って、悪魔の件を断る。
「ふむそうかい。残念だ。それでは私は去るけれど君もすぐに帰るのだよ。家に入るまでは見ているからね。それと欲しいものが見つかったり悪魔になりたくなったりしたら笛を吹いてくれ。まあそれ以外でも吹いてくれて構わない。どうせ暇だし君は危なっかしいからな。吹いてくれればすぐに駆け付けるから危ない目に遭ったりしたら遠慮しないですぐに吹くようにね。ではまた会おう」
そう言って、よく考えたらお互いに名も知らないおじさんは闇夜に紛れるように消えた。私も今日のところは家に帰ることにした。こんな時間に喫茶店はどうせやっていないだろう。それにおじさんが見ているとか言っていたし。
翌朝、何事もなかったようにあさむぎとギルドに向かう。ギルティは元気だろうか。そんなことを考えながらギルドに到着すると、中では変なざわつきが起きていた。入ってきた私にあまり視線が向いてこないのは喜ばしい。
花火たちがいるテーブルに着くと、花火が何やら話し始めた。それによると昨夜、最近警戒されていた変質者が一人、遺体となって発見されたそうだ。もう一人いるという変質者はまだ見つかっていないそうだが、被害を多く出していた方が死んだということで警備兵の数も減るだろうとのことだった。まあどうでもいい。
私は依頼を受ける前に、パーティーメンバーの皆に相談をした。するとおじさんの言う通り、皆時間を割いてくれた。喫茶店には行かないで、依頼を受けながら皆で私に教えて、それを実践してみることになった。
簡単なことだったのだ。




