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観測不能の侵略者  作者: 九月
第一章 巷で噂の変質者

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29話 たった2時間の使い道

人間が己を知るためには鏡を見るだけでは駄目だ。鏡と対話しなければならない。

 ふにゅらるど、とかいうわけのわからない固形物がズラリとテーブルに並べられている。こんなに沢山をどこに隠していたというのだろうか。割と小柄なえるもにこれだけの量が持ちえていたのは驚きである。そしてふにゅらるどのそれぞれが全く触感が違うのも驚きだった。こんな物が20708種類もあるとは人間というのはなかなかどうして頭がおかしい。何故に触感にこだわりを持ってここまでの情熱を注ぎこんでいるのだろうか。しかしどれほど誰かにとっては無価値で無意味なものであろうとも、その人間にとっては何にも代えがたい、人生において唯一無二の時間である。それを本人が否定しても、費やされた時間はきっと人生の大部分を占めているものになっており、それは人生の一部として、その根幹として意味を成すものなのになるだろう。時間は有限であるが故に、自分が行ってきたことのどんなものにでも意味が生まれるのだ。人生を意味が無いと途中で切り捨てる者もいることだろう。その他者と比べてみるとあまりにも短い人生にも意味は出来るのだ。そもそも意味なんてものを追い求めることにそれほどの益は無いだろうという考えで無駄な思考を閉じる。


 店の甘味をあらかた食べつくしたところで、時間はそろそろ交代の時間だった。すっかり仲良くなったえるもにお礼を言って別れて、摂理と合流する。


 摂理はたしか私ともっとお話しがしたいというようなことを言っていたような気がするがきっと気のせいだろうという稚拙な逃避は意味を為さず、私は摂理に連れられて大きな広場にやってきた。


 「あの、私は案内というのが不得手と言いますか、その、そもそもお話が得意でもないのですが、ミリア様とはお話してみたいと思いまして。せっかくの機会ですのでこのようにお時間を使わせて頂きます。不慣れなこと故不手際が目立ってしまうことと存じますが何卒お相手願えますでしょうか」


 そんな風にかしこまってお話をするものではないぞ。機会も時間もあるけれど勇気がないということはよくあるものだけれど摂理は勇気を持っている。自分の意志で世界を生きいている。たとえ世界の敵なれど、摂理が生きなければならない世界で摂理は人生の一部の時間を私に割いているのだ。別に私が摂理を特別なものとして扱う意味も理由もありはしないが、たった2時間を摂理にあげよう。時間はあげられるものではない。自分の時間は誰かにも絶対に流れているものであるから。時間をあげるというのは、時間を共有して使うということだ。その時に流れる時間の速さも一緒に味わうということだ。それはとても短い時間であることだろう。


 会話が不得意というのは、相手への、しかし何より自分にとっての保険である。必ずしもそうではないというフォローもしておくが、摂理の場合、自信が無いことによる様々な考えがそのような言葉を口に出させたのであろう。しかし今、摂理は自信とかそういったことも忘れてミリアとの会話に花を咲かせていた。様々な文化への知見であったり、社会のルーツなどを巡って、摂理とミリアはお互いをたしかに認め合って意見交流を深めていった。そこに相手への偏見も差別も侮蔑も無くて、ただ純粋な情報の交流があった。ミリアの目は摂理を摂理として映す。そこに映る摂理は特別な人間でも異常な人間でも無価値な人間でも無く、ただの摂理なのだ。摂理はいかに自分が自分のことで悩むことがおかしなことであるかに気が付くのであった。そして会話は純粋な形で執り行われて、2時間というあっという間の時間は摂理の世界を広くしたのだった。


 空はそろそろ赤色から灰色になりだしてくる頃だ。私は摂理にお礼を言って別れ、あさむぎと合流した。


 「ミーちゃん。可愛い服を沢山買ってあげますよ。夕食も一緒にどこかで食べましょうね。私で最後ですし帰る場所も同じですから時間は大いにあるのですよ」


 そんなことを言って、あさむぎは私を服屋へと連行するのであった。


 夕暮時の服屋は客が疎らにいる程度で、私にそれほど煩わしさを感じさせなかった。このあたりの国でも衣類においてはそこそこ発展しているのか、複雑な縫い方の服もあった。デザイン性ではまだまだ発展していないようではあるが、服を作る技術はまあまあだろう。これからもこの調子でぜひとも頑張ってほしい。頑張れ。


 あさむぎは色々と私を着せ替えて、服を買っていった。こういった機会はそうないからだろうか、あさむぎはとても楽しそうにしている。私も仕方がないと諦めてされるがままにしていた。店をまわり、異国の服が売っているような店に来ると、あさむぎは極東の服を私に着せたり、自身が異国の服を纏ってみたりとはしゃいでいた。


 やがて夕食の時間となって、私とあさむぎは飲食店で色々と会話を交わしながら食事を済ませる。今日を振り返ってみると、親睦を深めるには深められたものであったが、別れの前の最後の一日のような雰囲気があった気がする。これからしばらくか少しの間かはわからないが、少なくとも明日からはまたパーティーメンバーとして一緒に依頼を受けるのだ。そう、私はこれからなんだ。

しかしそれが不可能だから、みんな誰かを鏡にする。けれどその鏡は歪んでいる。

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