23話 極東の少女たち
あさむぎの家から連れだって冒険者ギルドへと向かう。街は昨日の賑わいが嘘のように平然としていた。まだ朝であるので人通りもそれほど多くない。それでも朝食を飲食店で済ませる者や、私たちと同じく仕事がある者たちは、閑散としているとは言えない程度には街を埋めていた。
昨日、祭があったということで、街にはごみが沢山落ちていることだろうと予想していたが、さほど無いようだ。この街の人間たちにはそういう精神があるのか、慈善団体が働いたのか、孤児や野良猫が持ち去ったのか。この街はたいそう広いので、目に入らないような場所で暮らしている者たちも多い。この街にも孤児院なんかがあるみたいだが、そこに所属できないような人間も沢山あぶれているようだ。
あさむぎの後ろをついて歩いていると、ふと路地にある木箱に目がいった。その木箱のなかには小さく黒い子猫がいた。お腹が減っているようで弱っている。私はギルドで餌なんか手に入らないだろうかと考え、この子猫を持っていくことにした。空間が揺らぐ。あさむぎは見ていない。
やがてギルドに着いた。ギルドに入ると一瞬の静寂が訪れた。先程まで外に漏れ出していた喧騒が嘘のようであった。その静寂がまるで時が止まったのかという知覚を作動させ、人々はそのまま永遠に動けないかと思われた。そんな最中をミリアとあさむぎが歩く。けれど響く靴音は一つだけ。あさむぎのものだけが静寂な空間にやけに響いた。あさむぎはそれで自分が昨日の食べ過ぎで太ってしまったのではないだろうかと思い、赤面しつつ足を止めた。ミリアは歩く。されど無音。
質の悪い静寂がギルドを支配する。誰も初めの音を奏でられない。壊すことのできない厳かさ。それでもミリアは受付へと歩く。そんな構図から受付のお姉さんがとても偉い人に見えてしまう。ミリアが受付の間合いに入ると、どこからともなく荘厳な鐘の音が響く。朝8時、仕事開始時刻を告げる聖鐘の音である。日差しを雲に隠されていた太陽もいつの間にか少し高く昇っていて、ギルド2階の大きな窓からその恩恵を差し入れる。いつも通りの朝になるためにはあと人の音が足りなかった。しかし先に紡がれた音は人間ではなく、ミリアがいつの間にか抱えていた子猫のにゃぁという鳴き声であった。
静寂は子猫によって破られた。ギルド内もやがていつもの朝を取り戻していく。私は受付のお姉さんに子猫の餌を融通してもらった。そして昨日のお礼や子猫について話し合いをした。するとなんやかんやで子猫はギルド内で放し飼いすることになった。多分おそらく、空腹で死ぬことはないだろう。ちなみに子猫の名前はギルドの子猫だからギルティだ。文句はきかない。
そしてやっと喧騒の戻ってきたギルドで待ち合わせだったあさむぎのパーティーメンバーのもとに駆け付ける。あさむぎは私が受付のお姉さんと話している間に、パーティーメンバーに事情を説明してくれていたようだ。私を案内したあさむぎが、パーティーメンバーの皆様に改めて紹介をする。
「16歳・・・・・・。ギルドカードが出てきたってことは15歳以上ではあるのね」
「ミーちゃんちいさいね~。かわいい~」
「それに凄く綺麗です・・・・・・。」
そんな感想で締めくくられて、続いてパーティーメンバーの皆様のご紹介に移る。
「私は納城花火。花火が名前なんだけど極東の名前の順番はわかるかしら。私がパーティーのリーダーで、この中では一番年上の19歳よ。わからないことは何でも聞いてね。今日からよろしく、ミリア」
にっこりと笑いかけながら、オレンジ色の髪のリーダー少女である納城花火が言う。花火は身内びいきなのか、先ほどまで警戒していたものの、私が所属するとあさむぎから聞くと態度を軟化させて、頼れるお姉さん然とした。
「宵月えるも~。17歳~。よろしく~」
気の抜けた態度で黒髪眼帯少女の宵月えるもが自己紹介する。えるもは私と年が近いからか、なんだか親しげだ。こちらとしても害意を向けられるよりは余程良い。是非とも仲良くしよう。
「えっと、わ、私は言ノ葉摂理と申します。そのあの、よろしくお願い致します、ミリア様」
気が弱そうな黒髪ストレート丁寧少女の言ノ葉摂理がそう言う。
「うん。よろしく」
私は微笑みを湛えて言葉を返す。
「は、はい!有難うございます!」
摂理が急に元気になるものだから一同驚いたものの特に何も言うことはなかった。それにしても同郷ということもあって花火以外が黒髪である。蟹柄と眼帯とストレートで区別するのではなくしっかり覚えなくてはなるまい。
自己紹介も終わり、軽い雑談を挟みつつも会話の流れは今日の依頼はどんなものを受けるのかという相談へと移り変わっていった。私としては色々買い出しをするためにも必要なお金をいくらか稼ぐことが出来るというのならば実際のところなんでも良いのだが、昨日冒険者になったばかりというのも鑑みるとやはり薬草採集やらの比較的モンスターがでないような場所で行える依頼が良いのではないかと思ったが、花火たちはモンスター討伐を選択した。理由は私がお金を持っていないことと、その依頼の最中でも色々なことを流れとして説明できるだろうからとのことだ。私は装備も無いので今日は殆ど見学らしい。これは私が来た日に祭をやっていたのが悪い。私は悪くない。断じて。




