22話 朝
自分の名前を答えるということはコミュニケーションの第一段階ではあるが、相手からの質問でそれが引き出されたのならばそのコミュニケーションは半強制的に参加させられたことになり会話の主導権も相手が握っているものだ。そこからは質問をする役割と質問に答えるという役割に分かれるが、ここでいかに自分の情報を開示せずに相手の情報を引き出すかが重要になる。とはいえ自分の立場やヒエラルキーを省みての行動をしなければ相手の反感を買うこともままあるだろう。しかしこんなのは貴族の遊びだ。高度で無駄なコミュニケーションをとりたがる。このように明確に階級があるような者同士のコミュニケーションでない限り、相手によって態度を変化させる必要などないだろう。いつだってフラットに平等に絶対的な基準を持って人と接するべきだ。相手がどれだけ尊大な態度をとろうと、相手がどれだけへりくだろうと、相手にどれだけ見下されようと、相手にどれだけ尊敬されようとも一定の価値観を保っていなければならない。それが自分なのだと、そこだけは主張しなければならない。それは自分のためで、ある意味相手を無視しているともいえる在り方ではあるが、決して相手を見ないというわけではない。相手を見なければ自分の輪郭もわからない。コミュニケーションは自我というものを明確にする儀式でもある。それを終えてようやく、己として世界を見渡せるのだ。まあこんなことに意味は無い。無駄な思考だ。こんなことを考えている間に会話なんて終わるだろうに。
私が自分の名前を言うと、続けて黒髪ぱっつん蟹柄着物少女の黒戸あさむぎが質問してきた。
「貴族様なのですか?」
「違うよ」
「では王族様であらせられますか?」
「違うよ」
「やっぱり天使様でしたか」
「違うよ」
そんなやり取りが続き、やがて満足したのか、あさむぎがなるほどなるほどと頷きながら勝手に納得している。この少女、落ち着いていると思ったけどお話がお好きなようで色々と聞いてきた。こちらとしても彼女の素性やら極東についての話を聞けたので別に良いのだが。情報開示量は向こうの方が多かっただろう。そんなことを意識して会話をする人間など稀だろうけれど。
「なるほど。昨日のお祭りでお金が無くなってしまったのですね。お祭りというのは良いものですからね。私も昨日は雰囲気にあてられて沢山食べ物を食べてしまいましたし。仕方のないことです。こうして出会えたのも何かの縁です。ミーちゃんが旅経つ日までこの家を自由に使ってください。とはいえ私も仕事があるので留守が多いですけど」
そういえば私も今日から冒険者として動き出さなければならないのだった。ミーちゃんには触れない。
「私も昨日冒険者になったから仕事ある」
「へ?えっと、ミーちゃんあのですね、冒険者は15歳にならないと登録できないのですよ?ミーちゃんは9歳でしょう?」
9歳だと!?一桁台なんて嘘だッ!どんな思考回路を巡ってその結論に至ったのだろうか。解せぬ。
「私16歳だよ?ほらギルドカードもある」
私は極めて冷静に、最もな照明を突き付ける。言い逃れは出来んぞ。
「ええっ!!いやでもうん?だってまだ9歳・・・・・・。でもギルドカードに名前も・・・・・・。では9歳なのに16歳なのですか?ありえないのでは?そもそも9歳って何?あら?何で私こんなに混乱しているのでしょうか。あ!なんか段々冷静になってきました。つまりミーちゃんは小さいけれど16歳なのですね」
「そう」
16歳だとわかってもらえたようで何よりだ。
「そうなのですね。ミーちゃんも冒険者なのですね。そういえば昨日なったばかりなのですよね。よろしければ私が所属しているパーティーに入ってみませんか?同じ家に帰るのですからなるべく一緒にいた方が良いでしょうし。それに色々、先輩として教えてあげられると思いますし。あ、ちなみにパーティーメンバーは私含め4人で全員女の子で全員同郷です。皆優しい人ですしすぐに仲良くなれると思います。ミーちゃんいかがですか?」
そうだな。思考すると現環境的にみてもそれが自然で有効な解だろう。別に状況に流されているわけではないのだ。あさむぎに返事する。
「うん。よろしく」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!色々なことを教えますね!」
そうしてミリアはあさむぎの所属しているパーティーに入れてもらえることになった。
二人は早速、あさむぎがパーティーメンバーと待ち合わせしているギルドに向かうべく支度を始めた。ミリアは己の、前の街より多少軽くなっている鞄の点検・整理を行い、あさむぎは、寝間着物から仕事用の着物に着替え始めた。
支度が出来て、家の外に出て日光を浴びる。人間はそれでビタミンなんとかが作られるそうだ。待っていると、あさむぎが出てきて家に鍵をかける。その後、鍵の隠し場所を私に教えてくれた。そしてあさむぎはもう一度鍵をかけたかを確かめて、私を先導して歩き出すのだった。




