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観測不能の侵略者  作者: 九月
第一章 巷で噂の変質者

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21話 極東の少女

 翌朝、ミリアが目を覚ますと知らない天井があった。とはいえミリアにとって知っている天井などたかが知れているようなものではあるが。旅をするという行動上、これからもミリアの知らない天井は更新されていくことだろう。ところでミリアはふわぁと欠伸をして体を起こそうとしたが睡魔にその体を押し戻されてしまった。二度寝した。まだ5時くらいなので仕方あるまい。


 私が二度寝から目を覚ますと、どこからともなく食欲をそそる良い匂いが漂ってきた。やっと体を起こすと、私が寝かせられていたのは布団であったことに気付いた。一応布団をなんとなく畳んで、良い匂いを辿る。辿っていくと、昨日最後に目にした少女が台所で朝ご飯を作っているようだった。そのまま黙って後ろから観察する。少女は着物の上にエプロンを装備していた。昨日の浴衣と同じく黒色の着物の柄は、これまた同じく蟹柄であった。余程の蟹好きか、あるいは独特なセンスの持ち主であるのか。足元は裸足である。私が自分の足を見ると同じく裸足である。少し足踏みすると床が軋んだ。


 「あら、おはようございます。今、朝食が出来たので一緒に食べましょう」


 いるのがばれた。ここは観念して指示に従うとしよう。刺激するのはまずい。別に誘拐されたわけではないことは理解しているが、これはただの妄想だ。とりあえず返事。


 「うん」


 私がそう応えると、少女はうふふと笑って隣の部屋にお盆を持って行く。ついていく。そこには掘り炬燵があった。この家の造り自体に極東の要素はなさそうであるが、家具や内装には所々に極東の文化が見られる。少女はそこに食事を並べ、私に座るように促す。私が座り、少女も座った。


 「いただきます」


 少女がそう言った。私も言わざるを得ない。


 「いただきます」


 私も言うと、少女はうふふと笑い、箸を使って食事を始める。箸はこのあたりではあまり普及していないが、使えたら凄いという風に知る人ぞ知るステータスのようなものだ。もちろん私は箸を使えるぞ。今真似をして覚えた。


 真似というのは、外見の動きを模倣するだけではなく、内部の力の動きや必要ならば感情の流れも再現しなければならない。しなければならないと言ったが別にそんな決まりごとは無いので、あくまでも私の持論ということにしておいてもらう。物事の上達には先人を真似るのは有効であるが、真似を続けているだけでは限界点が来る。先人の完成された部分を真似るのは良いことだが、試行錯誤の最中を真似てしまうのは時間の無駄だ。そういった点ではやはり自分自身で練度を上げたり、創意工夫をしなければならない。ある程度を真似たら、それを自分自身のものとして落とし込む手間も重要だろう。なんにせよ真似だけでは技術の発展は見込めないのである。まあ私はもう箸は完璧だがな。どうでもいい思考が回ってしまった。




 私も少女も朝食を食べ終わる。美味しい和食だった。


 「ごちそうさまでした」


 少女がそう言ったので私も言わざるを得ない。


 「ごちそうさまでした」


 少女はうふふと笑って、食器をお盆に載せて台所に向かう。ミリアは少女に告げる。


 「お皿洗うね?」


 えっ?と言ってその後あたふたと遠慮の身振り手振りを行使する少女を押しとどめて、私は食器類に手をかざす。空間が微かに揺らいで食器類を飲み込むと、汚れなんてものは初めからなかったかのように綺麗な状態になっていた。それは一見魔法のようにも見えたかもしれない。異端扱いされないだろうな。


 少女は驚いていた。まるで魔法使いみたい、こんなに小さいのに凄い、とそんな程度の感想だったが。特に忌避の感情は浮かばないようだった。


 「凄いです!あなたは魔法使い様なのかしら。それともやはり天使様なのですか?あら、そういえば私の名前も言ってませんでした」


 来るぞ、自己紹介が!


 「私の名前は黒戸(くろと)あさむぎ。極東の月島(つきしま)出身で、冒険者になるためにこのあたりに来ました。月島の南には季島(きしま)、その南には陽島(ひしま)というところがあってその三つの島で一応一つの国なのです。しかし、ねーみんぐらいつ?というよくわからない法令が施行されてからは国の名前がころころと変わり、今ではどんな名前になっているのやら。そうそう、これだけは言っておかなければならないのですが、あの国の大人は大抵頭がおかしいので絶対行ってはなりません。私もここに来るまではあれが普通のことだと受け入れていましたが、今思えば恐ろしい所で暮らしていたのだと実感します。三島間で戦争を起こしたり、何を考えているのかわかりません」


 一通りしゃべって満足したのか、ふうと息をついた。それにしても極東がそんな風だとは思っていなかった。このあたりに伝わっている文化や伝統を見る限り、風情とか精巧さとかそういうのを感じたものだが。これは一度行ってこの目で内情を確かめなければなるまい。


 「ところであなたのお名前は何というのですか?」


 黒髪ぱっつん蟹柄和装少女の黒戸あさむぎがこちらの内情に探りを入れてきた。


 「ミリア」

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