19話 祭
今日がなんの祭で賑わっているのかもわからないままに、私は街の大通りを散策する。昼時になれば朝のような込み具合を見せるであろうが、現在はそれほど人は多くない。スムーズな歩行が可能であった。私は多数の視線を向けられるのを無視してキョロキョロと辺りを見渡しながら歩く。
ミリアがキョロキョロと首を振るたびに粒子が放出されている。多分天使の粒子だ。街は広くて、とても一日ではその全容を明らかには出来ないだろう。ミリアは主に大通りにはどんな建物やら店やらが構えられているのかを大方把握しておくことにしたらしい。冒険者に依頼される内容は現在ではモンスターの討伐やモンスターの素材収集、薬草や鉱石の採集、後は護衛やお使いや手伝いなどである。いずれにせよ、装備は整えておかなければ冒険者として見られないだろう。信用もあまりされまい。ともあれ現在の所持金的にはナイフと、服が一着程度は買えるのではないだろうか。ミリアはモンスターをどのように討伐するつもりなのかは知らないが、何も持たないで依頼を受けるなんてことはしないだろう。せめてナイフか剣でも買ってくれることだろう。
私は大通りをゆっくりと、店があれば商品なんかを覗きながら右へ左へと彷徨っていた。しばしそうして時間を使って練り歩いていると前方からでかい図体の悪人面が子分っぽいのを引き連れて歩いてきた。私の彷徨う方向に運悪くぶつかってしまうような位置にいる。避ければ事なきを得るものの、しかし今更彷徨うことを止められないので、やがてぶつかってしまった。
「ん?兄貴ィ、このガキ物欲しそうな目で兄貴のこと見てやがりますぜ」
「なに、そうかそうか。オラッ!貴様に俺様のフランクフルトを食べさせてやろう!」
唐突にそんなことを言って、公衆の面前で、悪人面が、既にマスタードの迸ったフランクフルトを、眼前に突き出してきた。くれるというならもらおう。ちょうどそろそろお昼時になるだろう。そう思い、悪人面のフランクフルトをもらい受ける。悪人面は、食べな!と促してくるので咥える。そのまま食べる。
「どうだうまいか、俺のフランクフルトは!おお、そうか!それは良かったな!よし、お前のもくれてやれ。こんなもんじゃ腹ふくれねぇだろ」
子分もなにかくれるらしい。よく見るとこの二人は売り子でもやっているのか、後ろに食べ物がたくさんある台車があった。
「これ食うか?うまいぞ~」
子分はそう言って反り返るチョコバナナを、公衆の面前で露わにした。もらおう。私は子分のチョコバナナも頬張った。悪人面と子分はうんうんと頷いて、去っていった。お代がいらないのなら助かった。さよなら。
その後、屋台で焼きそばを買って食した。おそらく祭という隠れ蓑を使い、値段は少しばかり高くなっているであろう焼きそば等が売れるのは、やはり祭というもののイメージやらに一緒に刷り込まれたものであるからだろう。それらは祭の記念というか参加している実感をより鮮明にする証拠のようなものであり、買う人間は値段なんてあまり見ないだろう。楽しいだろうなという感情があって祭に参加して、楽しいからそんな記憶を残したくて様々な物を買ってしまうのだろうか。いや、そもそも祭という概念を考えると、過去に比べると段々と変容してきていることだろう。現在祭が行われているとして本来あったはずの願いやお祝いは薄れてただ過去からの慣習で続けてはいないだろうか。そこに楽しいという感情は生まれても、祈願も祝福もおそらく生じ得ない。つまり祭を執り行う意味というのは年月が経つにつれて全く別の理由にも成りえるのだということだ。だからなんだということはなく、特に意見も無い。そしてもちろんこんな話に意味は無いのだが。
午後になって人通りも騒がしさを取り戻していた。大通りを行く人々の口をついて出る言葉は「めでたい」という四文字がよく含まれている。こちらとしては何がどうなってめでたいのかもよくわからないので、私の口からは間違ってもそんな言葉は吐き出されることは無いのである。祭は閉鎖的な文化圏でない限りオープンに行われるものだ。故に何者が紛れ込んだとしてもおおよそ人々は寛容であろう。明らかな異常を携えたような者でもなければ気に留められることはないと思われる。私も好奇的な視線を浴びつつも、祭りという非日常に紛れられている。まあ祭が終わろうと、私が存在していることは日常的なことなので、そのうちに慣れが生じるだろう。明日からは依頼を受けてお金を稼がなければならないからな。
時間の速度はいつだって同じなのに、体感的には人それぞれ状況によっても異なるらしい。いつの間にか夜になっていた。赤色の光の大群が街を照らし出し、街全体が夜という時間を受け入れていく。夜になると、祭といえども仕事に出ていた大勢が夜行の群れへと加わり、一歩間違えると暴動になりかねないのではないかと心配するほどに規模が膨れ上がる。しかし今日警備兵が沢山徘徊していたのはこの時のためだといわんばかりに、警備兵は民を上手く整理していた。
夜はまだ始まったばかりで、誰もかれもが日々を忘れて浮かれていた。




