14話 白巻といっしょ
アリスに貰った琥珀を壊してしまうわけにもいかないので、埋まっている超小型発信機のことはひとまず気にしないことにする。何事かに意識を向けすぎると視野が狭くなって色々なことが疎かになったり、ノイローゼになったりするものだろう。私はそんなことにはなりえないだろうが、気にしすぎることはあまり良くないのである。何事もほどほどにしておこう。
琥珀は大切なものポケットに大事にしまって、南門をくぐり次の街に歩き出す。結局、次の街で具体的に何が起きているのかを耳にする機会は無かった。わかった情報は、犯行は一人の手によるものだということだけであった。次の街はかなり広いらしく、犯人も上手く隠れているのか未だに捕まっていないようだ。冒険者になって、犯人を捕まえてほしいなんて依頼があったら、もし捕まえたらお金は大分貰えるかもしれない。
ただただ歩いている。空が青い。この辺りはモンスターも普通にいることだろう。だからこそ次の街には冒険者ギルドがあるのだろうけれど。
モンスターはどこにでもいるわけではなく、各モンスターごとに生息域がある。また、モンスターはどこからともなく自然発生する一定数居なくなってからの補充という形ではなく、周期的に発生するらしい。放っておけば増え続けるため、定期的に狩ってもらうために冒険者ギルドができたという面もあるだろう。しかしながら、モンスターが自然発生する瞬間を観測することが出来た者はいないらしく、本当にいつの間にか増えているそうだ。気配を探知できるような能力を持った者でも、あからさまに気配が生まれる瞬間を捉えられなかったという。モンスターに気配が無いというわけでもないのに、まるで世界が初めからそうだったという風に改竄されたかのようにモンスターは増えている。その瞬間を切り取ることは出来ないようだ。モンスターの研究において、発生に関する点だけが殆ど発展していないようだ。それはこのあたりの国々だけでなく、どこの国でも同じようなものらしい。
えんえんと歩いている。空が青い。日差しが暖かい。ふとのどかな情景に、気の抜けるような鳴き声が聞こえ始めた。そのまま歩いていると、白いもこもこが視界に飽和してきた。モンスターといえどなんでもかんでも攻撃的な奴らばかりではなく、穏やかに生きている穏健派もいるものであるが、目の前に溢れているありふれているモンスターはホワイトロールという穏やかなために大抵家畜として扱われる哀れともいえる奴らだ。白巻。しかし今もって私の通り道を塞ぎに塞いでくれているので、実は人間に対して反発心でも持っていたのかもしれない。
このモンスターは、そのもこもこな体毛も、小さな角も、皮も、肉も、一定層には血液さえも需要がある上に、発生量が多いために見つかり次第即刻狩られる運命を背負わされている。それにしても、もこもこしすぎていて顔も足も見当たらない。見ていればホワイトロールの大集団は気の抜ける鳴き声をあげながらも全く動こうとしない。ちょうど退屈していたところだったし、ベッドにでもしてひと眠りしようか。その間の時間ももったいないから白巻たちには歩いていてもらおうかな。荷物の重量もこれだけの数いれば分散するだろう。まあ道をこのまま大集団で進むのは邪魔だろうし、少し外れて行軍してもらうことにしよう。何も道をなぞらなければならないなんて法律もあるまい。
ミリアはホワイトロールの群れによじ登り、体を横たえた。その寝心地の良さに満足したのか、安らかに微笑みを浮かべる。次第に群れがもぞもぞと動き出して、次の街の方向にゆっくりと移動を始めた。ミリアは本格的に眠りに落ちることにしたらしく、四肢を投げだして惰眠を享受する姿勢をとって寝た。
どういうわけか、ホワイトロールの群れは密集したままで、道を無視しして次の街を目指している。催眠のようなものがかけられている様子もない。ただただ従順に意向を読み取ったのだろうか。それともミリアが何かをしたというのか。いずれにせよ群れはゆっくりと、けれど人間の歩みよりは早く南下していくのだった。その光景を見られたりしたらきっと大騒ぎになるだろうが、道から大分外れてはいるのでその可能性は非常に薄いだろう。それにしても他のモンスターたちもこの光景を異様と受け取ったのか、近づいてくる様子もない。襲われたら危険ではあるが様子を見るに、まあ大丈夫だろう。
目を覚ますと、辺りは暗みだしていて既に太陽が沈んだ後であった。最近寝すぎている気がする。気を付けるとしよう。もう少し進んだら進行を止めて、夕食にしよう。白巻たちも疲れていることだろうし、休息させよう。
夜になったので、もっといけると言う白巻たちを引き留め夕食にする。白巻たちにはその辺の草を食べに行ってもらう。私の食事は簡素なもので、火を起こしたりしない保存食だ。すぐに済ませて、どうしようかと考える。




