13話 お別れ
朝が来た。睡眠は潜水を繰り返すようなもので、最初のほうは深くまで潜ることができるけれど後半は疲れて段々潜れなくなっていく。この例えだと水面で息を吸うタイミングが夢を見るタイミングで、眠りから覚めるのは水辺から上がり陸に立った時だ。大抵起きる例えの方が水面に顔を出すタイミングなのだが。うむ、例えとしてあまり優秀では無かったかもしれない。夢を見る時、人間は己の想像の範囲内のもので構築しているのだろうか。想像で創造できるものの可能性は無限だろう。無いものもいくらでも創り出せるし、ああなったらこうなるという展開すら無数の分岐を考えることができる。実際にはできないかもしれないがその可能性があるのだ。人間の想像に未知があるとするならばそれは感情ではないだろうか。想像によって誰も体感したことの無い全く新しい感情を作り出し、味わい、行動に変化まできたすことは不可能ではないだろうか。そもそも夢の中に感情はあるのだろうか。夢を映像として見ての感情なのか、夢を実体験として得た感情なのか。夢というものは曖昧だ。想像による体験が、現実の体験ではなく夢という一つのメディアとして記憶されるのは何故なのか。起きたらすぐに薄れてしまうようなものをなぜ見るのか。調べればわかることだろう。後で調べてみることにする。
朝食をとるために、宿に併設されている飲食店に向かう。歩いていると様々な視線を感じるが、気にしてはいけない。到着するとそこには既に、アルノア教団の姿があった。すでにできあがっている(酔っているという意味ではなく完成しているという意味)集合体に一人で赴くというのは非常に逃避したいところではあるが、ここまでの護衛を善意でしてくれたシャルヴィスたちにお別れの挨拶とお礼はしておかなければ精神衛生上もよろしくないものだろうと思うので頑張ることにする。
「皆様おはようございます。ここまで護衛してくださってありがとうございました。本日でお別れですので朝食の席で皆様にご挨拶させていただきたく参りました」
「お、おはようございますミリアさん。なんだか随分と大仰な気がしますが、それほど大したことでは。ともあれどうぞこちらにお座りください」
「ありがとうございます。失礼します」
そんなやり取りにアリスがくすくす笑って、また和やかな雰囲気が取り戻されるのだった。そして今回、主に護衛をした五人とも、あまり関わらなかった他の方々ともつつがなく挨拶を済ませ、食事も済ませることに成功したのであった。最後に、お別れする際に用いられる社交辞令なんかも並べたてつつ、感謝の意を表してさよならした。
部屋に戻った私は宿を出る支度をする。この後は一応街をうろついて持ち物の補充を行うことにしている。それにしても今回買い出しを行えばお金が心許なくなることだろう。次の街には冒険者ギルドがあるようなので、そこで身分証明書発行という意味も兼ねて冒険者として登録してお金を稼ぐことにしよう。海を渡るのにもお金は必要だろうからな。冒険者登録自体は15歳以上なら誰でも出来るものらしいので何も問題は起こらないだろう。無問題。
支度が済んだので街に繰り出す。消耗品や保存の効く食料を買い足していく。鞄の容量がいっぱいになり大分重量が増してしまった。鞄の耐久力が心配なので買い出しを切り上げると、時刻は9時頃であった。このままこそこそと街をでよう。シャルヴィスたちの進行方向はここから東だそうなので、一人歩いての行軍であることは、街から出てしまえばばれることは無い。そんなことを思って街の南門まで行くと、ふと後ろから声をかけられた。
「あなたやっぱり一人で行くのね」
ミリアが緩慢な動作で振り返るとそこにいたのは超ロング金髪少女アリスだった。今回の護衛で存外、周りともミリアとも打ち解けた彼女はミリアの考えはお見通しだったらしい。
「あなたには色々と学んだわ。あなた色々隠し事があるみたいだけれど変なところで真面目というか間抜けというべきか、そんなところがあったから。私もなんだか気が抜けちゃった」
ミリアは動揺して目を泳がせる。アリスはどこか優しい笑みを浮かべる。
「ふふ、隠し事って難しいわよね。私も同じよ。・・・・・・そうね、あなたとはまた会いたいわ。いつか、いつかそんな日が来るかしら」
ふと影の差したアリスに、いきていればそのうち会うこともあるだろう、と、当たり障りのない返事をする。
「そうよね。うん、生きていれば会えるか」
アリスはそう納得し、それから何かを黒衣から取り出した。
「これ、持っていてくれるかしら。あなたのこと思い出して私頑張れるから。お願い」
そういって差し出されたのは綺麗な琥珀だった。このあたりの国々では宝飾品として名高く、貴重なものである。ミリアは迷ったが、仕方が無いと、受け取ることにした。
「ありがとう。たまに私のこと思い出してくれると嬉しいわ。さようなら。元気でね」
そしてアリスは去っていった。
それにしてもこの琥珀に埋まっている超小型発信機。これはこのあたりの文明レベルを明らかに超越しているだろう。このあたりではオーパーツと呼んでも差し支えない代物だ。やはり異国の少女だったかアリスは。




