11話 煉獄のシャルヴィス
しばらく微睡みの半覚醒状態で無為な思考を揺蕩い時間を使い潰していると、ふと風切り音がして荷馬車が動きを止めた。目を開けて周りを確認しようかと思ったが、目を開けずとも周りの様子を把握することができた。それは呼吸と同じことであった。
現在進行していた道は、左右を高い丘というか崖に挟まれており逃げ場が無い。そんな地形に目をつけた盗賊かなんかがいたらしく、今、進行方向右側の崖の上から矢を放たれたらしい。そして崖の上から数人が弓矢を構えつつ、荷馬車隊列の前後から盗賊たちが挟み撃ちを仕掛けようとしている。挟撃。
「前から敵が来ました。こちらは私が対処しますので、フワは右の弓をお願いします」
「わかった。とりあえず戦闘不能でいいんだよね?」
「ええ、色々尋問します。ここらに盗賊がでるなんて情報は無い」
未だに眠っている(ように見える)私に気を遣ってか、二人が随分小声で交し合う。それにしても随分余裕そうだ。負ける未来なんて全く見えていないようだ。盗賊さんがなんか台詞言うの待ってあげてね?
「よし、いつでもいけるよ」
「では二人は私たちが出た後、後方の支援にあたってください。零の合図で行きます。三、二、一、零」
零でシャルヴィスとフワが荷馬車から飛び出した。その後一瞬待って、マノンとアリスも駆けていった。因みにライムグリーンなお姉ちゃんライム・ドローはガチ寝しており、放っておかれた。
フワの方はどうするのか見ていると、そのまま崖を駆け登り始めた。これには驚いたのか一瞬怯んでいた弓兵たちではあったが、直ぐに立ち直ってほぼ直下から迫りくる金髪快活少女に一斉に弓を引いた。しかしフワは意に介さず、こともなげに、いつのまにやら持っていた剣のサイズの十字架でほぼ直上から迫る数本の矢を薙いだ。その際剣のように持たれている十字架が光の束を纏い、大剣のような幅になっていた。しかも矢が消滅している。そして弓兵が焦ってもたもたしているとフワが崖を登りきった。フワは素早く弓を十字架で破壊しつつ、なんと敵の足を光線で撃ち抜いた。今度は小銃のような持ち方で、素早く移動しながら正確に撃ち抜いている。敵の凄絶な悲鳴が響く。敵は五人ほどだったのか、最後の一人が逃げようとしたものの同じく足を撃ち抜かれ、同じく悲鳴を奏でた。
十字架から光線を発生させる。光線は変幻自在であり、十字架に固定、又は十字架から射出することができ、射出した場合は光速である。それがフワの能力、〈穿つ十字架〉だ。因みに射出した光線はフワの定める範囲からでると消失するらしい。
シャルヴィスのほうはどうしていたかというと、盗賊の頭らしき人物が何事か囀るのも聞かずに疾駆し接近して能力を発動した。その瞬間シャルヴィスと前方の敵が掻き消える。
シャルヴィスが発動し敵を巻き込んだその空間では、罪人は焼かれる。それがシャルヴィスの能力〈煉獄〉。犯してきた罪の重さによって与えられる苦しみも異なり、その罪の被害者などの苦しみなども情緒として体験させられるらしい。罪の選定はシャルヴィスに委ねられており、嘘をついた程度で焼かれるものではないが、通常罰せられることの無い小さな罪は同じく情緒の体験はさせられるようだ。因みにこの空間上の経過時間は、通常空間と同じであり、範囲は無限に等しいが、どこまで行こうともシャルヴィスが解除した時点で、能力が発動される直前の位置に戻される。ただし戻ってくることができるのはシャルヴィスとその時点で生きていた者であり、焼かれていても〈煉獄〉が解除されれば火は止まる。また制限として「前回能力使用時から24時間の使用不可」がかかっている。
そんなわけで、シャルヴィスの固有空間内では阿鼻叫喚の地獄が巻き起っていた。ほぼ全員がその身で煉獄を味わって、断末魔をあげていたが次第に喉も焼かれたのか物言わぬ表現者となっていた。そんな中重罪人で無い者もいたのか二人ほどが膝をつき虚空に向かって懺悔している。しばらく待っていると、重罪人たちは消えたので、シャルヴィスは能力を解除した。すると景色が戻り、焼かれなかった二人の情緒も開放された。シャルヴィスは笑顔で彼らに話しかける。
「反省しましたか?」
二人は青ざめた顔でぶんぶんと首を縦に振る。シャルヴィスは満足そうに、慈悲深く、されど微かな愉悦をその笑みにたたえて彼らに告げる。
「もう罪を犯してはいけませんよ?たとえ小さなものでも」
「は、はいぃ!!」
「もうしません、もうしませんッ!」
「ではここでお別れしたらかわいそうなので私たちと一緒に来てもらいますけど。よろしいですよね?」
「は、はいぃ!!」
「ありがとうございます、ありがとうございますッ!」
彼らは涙を流しながら頷くだけなのだった。その涙は慈悲への感謝か、煉獄で静かに笑っていたシャルヴィスへの恐怖のためか。今は燃えるような赤色の髪も、煉獄では仄かに濁って見えていた。少女は発せられた恐れに気付かず、一仕事を終えたのだとゆっくりと伸びをして、さわやかに笑うのだった。




