10話 森を抜けて
その後、御者台にシャルヴィスが乗り込み、「出発しますよー」なんて言いながら荷馬車を動かし始めたので、私は頑張ってシャルヴィスを巻き込みつつ会話をお流れにした。
因みにアルノア教団の荷馬車は2台あり、私が乗っている荷馬車の後ろをもう1台が着いてきている。そしてその後ろには、冒険者二人組や同じく今日宿を発った数人が着いてきているようだ。森を抜ける際はなるべく集団行動をとるようにするらしい。とはいえモンスターが道に出てくることはまず無いそうだ。なんでも道には結界が施されているのだとか。便利だな。どんな能力が使われたのだろうか。このように半永久的に残るような効果なのか、別の能力が併用されているのか、真相は過去にしかない。
そんな感じでシャルヴィスの用意した地獄を脱し、今では他愛のない会話になんとなく混ざったり時折笑いあったりして時間を潰せる位にまで、戦いの中で成長したと言えなくもないのではないだろうか。まあ会話なんてものは事前に身構えるから恐怖するもので、本来気兼ねなく軽い意思で臨むものなのだ。会話中はいつの間にかちょっとした自分を演じてしまうかもしれないが、我に返ったりしないでそのまま最後まで走って、後で反省すると良い。恥も自覚しなければ恥ではないし、そもそも本人しか気にしていないような恥などいくらでもあろうものだ。ああこんなことはどうでもよかった。
現在時刻は10時である。相変わらず森の道は暗く騒がしい。この森のどこかには不死身の怪物が住んでいるらしい。マノンがそんな御伽噺があったと話してくれた。ところでシャルヴィスによると昼頃には森を抜けるとのことだ。そしてその辺りで休憩をとるらしい。れすと。そういえば昼食はご馳走して頂けるのだろうか。微かな期待を抱いておくことにしよう。
「そういえばミリアちゃんって旅してるんだよね。次の街の後どこか目的地とかあるの?」
ふと思い出したように金髪快活少女フワ・ベルガモットがミリアに問いかけた。ミリアの現段階の目的地は端的に言って砂漠だが、もちろん馬鹿正直にそんなことを伝えればどんな反応をされるかは予想できたのか、とりあえず南とミリアは言った。このまま南下していけば海もあるだろう。ミリアは海を楽しみにしていた。そんな流れでミリアは海についてアルノア教団の皆様に尋ねるのだった。それと意外にもミリアとアリスは仲良くなったというか気が合ったようで、アリスも時折笑みをこぼしている。だが時々影が差すようで、何事か悩みでもあるのかもしれない。
そんなこんなでやがて森を抜け、街に続く道沿いの開けた平原で休憩をとることになった。後続の荷馬車の方々とも色々と話をしているシャルヴィスは、代表としての風格を漂わせていてしっかりしているなーと思った。シャルヴィスが話し合って、アルノア教団から簡単な炊き出しを皆に提供することにしたようだ。ライムグリーンなお姉ちゃんライムが荷台から大きな鍋やら調理器具を引っ張り出して、料理を開始した。
やがて完成したのは野菜スープで、森で少し冷えた体も温まって皆喜んでいた。青黒ロングなお姉さんマノンによると、宿を発つ際に色々食料を貰ったんだそうだ。アルノア教団の知名度は高いみたいだ。あの貴族の子供もシャルヴィスに処理を任せていたしな。その後姿を見ていないが面倒な性格に育たなければ幸いである。
モンスターの生息域ではなかったのか襲われることなく無事に平原での休憩を終え、荷馬車は動き出した。なんとなく近くに座った超ロング金髪少女アリスに、いつ頃着くだろうかと聞いてみた。
「そうね、何も起きなければ今日中には到着するでしょう。まあ夜にはなってしまうでしょうけれど」
夜か。シャルヴィスたちの護衛はそこで終了しお別れだろうが、彼女たちも一泊くらいするだろう。ちゃんとした挨拶は翌朝とかに誰かと会ったときにするとしよう。それにしても夕食はどうしようか。多分19時は過ぎるだろう。何か簡単なものを見繕って食すしかないだろうか。まあ今から考えていても何もかも想定通りに物事が運ぶわけではないということを頭にいれつつも取り得る行動の幅を広げておくという意味でもシミュレーションしておく。
目を瞑って、そのまま無駄な思考空間を漂って、ガタゴトと時折感じる揺れを睡眠導入剤にして眠りに落ちた。ように見えるようにしておく。これが究極の時間つぶしだ。殻にこもっているともいうが、誰にも覗かれない空間なのだから入り浸るのも理解できるだろう。コミュニケーションは自らの情報を開示しあう行為であるが、人間はなぜそんなもので信頼やら好感度やらを図るのだろうか。私はわざわざ情報を公開したくないし、相手からの評価なんて聞きたくないけれど。それが常識、普通、当たり前、なんてことを言われてもそれらは社会の総意ではないのだ。概念としてはそういう風に受け取られるものではあるが。嫌いな概念だ。




