103話 会話不能
「まあ、そこは僕も同じ結論に至ってはいるよ。勿論。ただちょっと、非現実的な何かに期待しちゃうようなお年頃っていうかー。うん。歴史が修正されたりなんてしないし、この国が終わったところで世界が滅んだりしないのは分かってる。時間という壁は決して越えられない。越えようが無い。でもさ、能力とか魔法があるんだよ。もしかしたらっていう期待は、常に持っていたいものだよね?」
話の軌道をやたらと反らされている。乗った私も悪いがこの迂遠な話し方はラヴィの癖だろうか。早く結論が知りたい。
あれ、何の話の結論だっけ。
「いやー、ミリア様に分かるかなー。僕の孤独が。エルフとかには及ばないにしても割と長ーく、まあ存在してるわけなんだけど。そうだよ僕って結構長生き、あー。うん、生きては無いんだよね。生物がするような生命活動はしてない。でもそれでも僕には自我とかあるし、ロボットってわけでもないし、人工知能でもないんだよ?ああ、もしかしてまだ定義はされてないってだけで生命としては認められてない感じなのかな。でもそれ一生どこにも何にも分類されないじゃん。だって、あ、今の一生っていうのは僕が己を生物だと自認しているからこそ出た言葉ってわけじゃなくて、スラングに近い感じで、意味合いとしては、とてつもなく長い時間って感じなんだけど。話戻るね?だってさー、僕が何かになるにはさー、認識されないといけないじゃんかー。それで僕が何なのかをお偉い人間の皆様に分類して頂かないとでしょ?じゃあまあ一生無理だよねって話。認識されないんだから」
「っていうかちょっと待って閃いた。僕さ僕さ、さっき生命活動してないって言ったじゃん?トイレしないんだよ!いや、あーはいはい。どうせ、トイレをするなんて変な言葉使いやがってトイレにするぞこの肉、あ。な、なーんて言わないですよね~。やだなぁ別にミリア様に言ったわけじゃないですよー。流石に。ええ。イマジナリーフレンドと会話が弾んじゃって。孤独に耐え切れず生み出したマイフレンドのポリバケツちゃんは下ネタ大好きっ娘でほんと困ったちゃんなんだから。あはは。え、なになに?あー何閃いたのか?何閃いたんだっけ。そうだ僕ってばアイドルに向いてるよねって思って!なんか生配信とかでさずっと僕がトイレしないのを映せば完璧なアイドルだーって人気出るでしょ僕可愛いし!多分お金もめっちゃもらえる!あ、でも、まあそうか。認識されないわ。詰んだわ。僕の夢が一つ潰えた。待って、なんかめっちゃいい曲のタイトルみたい!」
「でもこれ、めっちゃ良い試みかもしれん。僕の認識歪曲は電気信号をも歪めるのか。それとも世界が直接対象に、どちらにしても凄い負荷かかるんじゃないの!?まあ視聴者数次第か。え、まじで希望あるかも。認識歪曲されるとはいえ全員に共通認識は生まれるはず。配信タイトル、絶対トイレに行かないアイドルってつけちゃえばさー、それだけは見た人全員の共通認識になるはず!でさーその後さー、まあもしもの話なんだけどめっちゃバズったらさー、見た人どうしで語り合うじゃん?そしたら話の齟齬が生まれるわけ。髪の長さ、色、眼鏡の有無、声質、年齢、性別、誰一人一致しない。あ、ちょっとここまで話して思い出した。記憶消えるじゃん。うわ萎えた。は?あり得んくない?ごめんマジ無理。世界ってそういうとこあるよね。ん?どうしたのポリバケツちゃん。負荷?あーどうせ無理だよ。いや待てよ?生配信ってところに勝機があるんじゃないか?状況を整理しよう。まず僕は生命活動不要。つまり配信し続けられる。勝ち確ぅ!!これ勝っただろ!?記憶に残らないだけで記録には、視聴履歴には残るんだよぉ!!ってかワンチャンぶっ続けで配信しながら僕の状況とか話し続ければ負荷やばすぎて世界が僕をどうにかするかも!ああ、どうにかするっていうのは別に変な意味じゃなくて。とはいえ実は僕は全能であるが故に、どうにかされたい、なんて願望も少なからずあるんだよね。こう、滅茶苦茶にされたいっていうか。だからミリア様にはちょっと期待してます。おお!なんだか希望が見えてきたら欲望がなんか溢れてくる!」
「ねーミリア様ー。ちゅーして」
どうしたんだろう急に。心配だ。だが彼女に関してこれは良い兆候なのだろう。私にとっては凶兆かもしれないが。
ともあれ自分で現状の解決策を見いだせたみたいでよかった。だが、私は彼女に何を問うていたのだったか。忘れてしまった。忘れてないけど。
太陽は、直上よりまだまだ東。肌寒くはあるが晴れている。半袖のままでいるのは一部の人のみで、既に大半は衣替えを済ませている今日この頃。
「朝からハンバーガー食べに来たざーこ。おいそこのだっさい仮面、お前だよ。出来たから早く持って帰れ。は?笑顔?正気?有料なんだけど。10000ノアなんだけど!」
「本気だ。俺は本気で君の、笑顔が見たい!」
シャリテ、財布からお札を出す。
「ふーん。食事よりも女の子にお金使って、ようやく得られる対価が笑顔一つなんて。かっわいそー。これからも毎日通ってお金落とせ、ざこかめん」
店員さんの可愛らしい笑顔炸裂。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「いいから早くどっかいけ。そういうお店じゃねーんだよ」
「申し訳ございません!申し訳ございません!」
シャリテは最敬礼を繰り返し、店外へ出て行った。




