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観測不能の侵略者  作者: 九月
第一章 巷で噂の変質者
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プロローグ

 時は西暦1800年。ノー・ゼッタイの生誕より数えて350日余りが1800週して到来した世紀末である。


 その世界には多様な種族が存在する。人間、亜人、魔族、妖精、モンスター。その昔人間たちは狩られる存在だった。それもそのはずで他種族は人間にはない不思議な力を持っていた。それは固有能力(ユニークスキル)と呼ばれ各種族に備わっているものである。しかし人間には何もなく、他種族の劣化版という認識が根づいていた。人間は一部の種族に奴隷として扱われ、尊厳を踏みにじられてきた。人間生産工場などというものもあり、人間が他種族に抱く闇は深い。

 

 ある時、人間は()()した。一部の人間が他種族と同じように不思議な力を持つようになり、それは一人一人が違う効果を見せ能力(スキル)と呼ばれるようになった。そう人間の固有能力は進化であった。そして能力を得た人間たちは反逆する。今まで受けた仕打ちに対する恨み、他種族への憎悪。結果は惨殺。赤く淀んだ世界で人間たちは笑っていたという。

 

 それから人間は急速に数を増やし、幾つかの領域を支配していった。

 そして西暦1800年。人間たちは人間同士でも争っていた。国を作り、王を据え、その先には戦争が待っていた。戦争には奴隷にされた他種族が駒として用いられた。人間は一切戦わず、駒がなくなったら降参する。人間の価値観は大きく変容し、他種族は人間の劣化版であると、子供ですらそう理解している。



 歴史が巡る。



 他種族にも王がいた。その王たちは協力して島に国を作ることにした。相互協力条約を締結し、人間が来たら全種族でお出迎えするという声明を出した。ただし魔王率いる魔族は最南にて魔界を展開し、妖精は呑気に自由に飛び回り、幾つかの種族は息を潜めている。他種族の国ができたことで人間もひとまず戦争を止めて他種族の国楽園(パラダイス)を含めた各国間で不可侵条約を結んだ。世界は一旦の安寧を手に入れたのである。


 それから200年後。西暦2000年。時代が動く。物語が始まる。世界は再び混沌と化す。




______________________________________________




 在るところに一人の少女がいた。その少女はいつからいたのかわからない。村人の一人としていつの間にか存在していた。しかしその村において誰も少女の存在に疑問を持つことはなく、いつも通りの生活を送っている。少女もまた、それが当たり前であるかのように日々の仕事に精を出す。異常なのだが普通の毎日。転機が訪れたのは、少女の年齢が16になったのだと周りの村人たちに認知されだしたタイミングだった。


 ある日、少女は村を出た。独り立ちすることにしたらしい。少女の名前はミリアという。16だという年齢の割に身長は小柄で、130㎝しかない。長く白い髪は天使の粒子を纏っている。ように見える。その黒い瞳は世界の深淵を覗いている。気がしないでもない。

 そんなミリアが目指す新天地は砂漠である。南に進み、海を越えた先にあるその砂漠は万能地獄(ヘルオール)と呼ばれ人もモンスターも近寄らないらしい。ミリアはそこでなら多少()()ても大丈夫だろうと考えていた。


 その少女は()()()()の力を持っていた。その力を理解していながら、片田舎の村で、平凡な少女として暮らしていたのだ。流石にストレスも溜まる。力を開放すれば万能地獄だろうと何処だろうと一瞬でたどり着けるのだが、世界を知るために時間をかけることにした。


 ところでこの世界には冒険者という職業がある。聞くところによると、成人年齢である15歳からギルドに登録することができるそうだ。冒険者というのは人間の人間による人間のための職というかシステムで、人々が出す様々な依頼を冒険者が解決するのだが依頼内容は殆ど人間のエゴである。あのモンスターの皮が欲しいだの護衛しろだの。今でこそ不可侵条約の影響で無くなったものの、兎人を攫ってこいとかドワーフから武器盗ってこいとかエルフの森燃やせとかいう依頼が200年前はあったのだ。

 依頼とは別に、秘境や未開の地を探索したり新種の植物やモンスターの調査などといった仕事もある。ミリアは冒険者になって色んな場所を冒険したいと思っている。それが世界を知る近道になると思っているから。


 ミリアがふと振り返ると遠くで村のみんなが手を振っていた。その目に涙を浮かべる者もいれば、何やら応援している者もいる。


 「・・・」


 ミリアも手を振る。


 「世話になったな」


 ぼそりと呟いてミリアは歩き出した。村での暮らしも存外悪くなかったがこの世界にはまだまだ知らないことが沢山ある。一歩、踏み出すたびに村は遠のき新しい世界が近づいてくる。そんな言い知れぬ感覚を味わいながらミリアは歩いた。

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