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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

リアルざまぁがもたらしたもの。

物語と違って、スカッと爽やかには終わりません。

 ざまぁ的な物語は嫌いではない。

 勧善懲悪とまでは言い過ぎかもしれないが、善人も、悪人も、自身の生き方に対して周囲が納得する結末を迎えてもらいたいというのは、人の願いのようなものだろう。

 ただ私は、どうしても過去の経験が頭をよぎって、その実現の困難さや、『ざまぁ後の復讐の連鎖』を考えてしまう。

 過去の経験と言っても、そんなに大したことではない。

 物語ではなく、リアルにおけるざまぁだからして……まあ、私の知る限り人は死んでいない。

 そしてたぶん、あの時代、似たようなことは日本中で散見できたのではないかと思う。


 多少、事実をぼやかしはするが、昔話をしてみよう。

 時代は昭和50年代、そして舞台は、山に囲まれた田舎の町の中学校……その野球部になる。


 中学校に入学し、野球部に入った息子。

 夕食時、椅子に腰を下ろす際に顔をしかめた息子を見て、父親が疑問を持ちました。

 父親が息子からそれを聞きだすまでにいくらかのやり取りがあったが、つまるところは野球部の上級生による、下級生への暴力。


 練習時に、きちんと声を出していない。

 ボール拾いがもたもたしていた。

 などなど。


 指導という名の暴力というか、1年生全員並べて、一部の3年生がその尻をバットで殴る……いわゆる『ケツバット』と呼ばれる行為がなされていた事が判明します。

 上級生を弁護するわけではありませんが、毎日ではないし、行為そのものは力加減はされており、そして上級生も下級生だった頃は同じようなことをされていたわけですから、当時においてはある意味日常的風景ではあったとだけ述べておきます。


 さて、この父親……本音と建前はさておいて、すぐに野球部の1年生の保護者と連絡を取りました。

 良くも悪くも、この地域においては『声の大きい』、いや『大きな声を出せる』有力者の1人だったことから、保護者会、そして学校を巻き込んで問題提起に成功。

 実際は、すったもんだがあったようですが、結果として、上級生およびその保護者の謝罪を引き出し、こういった行為が行われないようにこれ以後も指導していくことにしましょう、と。

 なお、顧問の教師は監督不行き届きで叱責を受け、翌年は別の学校へと移りました。

 次の年、入れ代わりでやってきた教師が野球部の顧問になって、2年目……1年生だった世代が3年生になった夏、地区予選を勝ち抜いただけでなく、県大会でも優勝して全国大会への出場を果たします。


 野球部内の不当な『指導』をなくし、熱心な指導者を招きいれ、見事結果を残した。

 まさしく、絵に書いたような『ざまぁ』であり、ハッピーエンドと言えましょう。


 ……物語なら、ここで終わる。

 しかし、人の営みは終わりませんし、時は流れていきます。


 さて、ざまぁをした方ではなく、された方から見ればどうなるか。

 謝罪を求められた上級生および、その保護者からすれば……『何故自分たちだけ責められなければいけないのか』という気持ちが頭をよぎるのは自然なことでしょう。

 その行為の是非ではなく……。

 上級生(3年生)は、下級生の頃に同じことをされて、謝罪などされなかった。

 上級生(2年生)は、自分たちはただやられただけで、下級生に同じことをやらせてもらえなかった。

 つまり、鬱憤晴らしの機会は与えられなかった。

 そしてもちろん、この行為は上級生全員がやっていたわけではありません。

 自分たちがやられて嫌だったから、自分はやらないという上級生も普通にいたのです。

 とめられなかったら同罪と思うかもしれませんが、自分が見てないところで勝手にやられたらどうしようもありませんし、そういうことをする人間は止めてもやめません。

 なので、『自分(の息子)はやってないのに、何故責められるのか』と感じた上級生および保護者が出たのも当然でしょう。

 ある程度大きな騒ぎになったので、野球部に所属したあの学年の子供というだけで『あそこの息子さんって……』的なストレスを周囲から与えられたのも、想像に難くありません。


 救いのないことですが、謝罪をさせられた『保護者』にもいろんな人間がいます。

 自分の息子を叱る親。

 そして、他人に頭を下げる……自分の面子がつぶされたと、息子を殴り飛ばす親。

 後者の場合、この息子……上級生は二重の意味で恨みを抱えました。


 良くも悪くも、昭和50年代は『野球』の人気が高まっていた時代でした。

 意外に思うかもしれませんが、さかのぼること20年、昭和30年頃だと、野球はそれほど人気のスポーツではありませんでした。

 甲子園に出場した高校球児が……『球遊びに熱心で、いい身分やなぁ』などと、周囲の人間から蔑まれるというか、高校進学率が半分もなかった時代なのでやっかみもあったんでしょう。

 実際、その頃野球をやっていた人に話を聞くと『肩身が狭かったなぁ』と語る方が多かったです。

 プロ野球のドラフトも、最初(昭和40年頃?)は6割か7割の人間が入団を拒否するぐらい、職業としても受け入れられておらず、プロ野球よりも社会人野球を選ぶ人間の方が多かったのです。

 それが、テレビの普及にあわせた経営戦略で……プロ野球、高校野球など、野球は急速に世間に受け入れられていったわけですね。


 今の感覚で言うと、あまり気持ちの良い話ではないでしょうが『周囲の人間にいい顔をしたいから息子を野球部に入れる』という父親は、少なからず存在しました。

『ウチの息子、野球部のエースで4番よ』とか、『ウチの息子、野球の名門の高校から誘われた』などと周囲に自慢するだけならともかく、『チッ、レギュラーになれんのだったら高い金だして野球続けんでもいいわ。ワシの恥になるから止めてまえ』などと、親の面子の問題で野球部をやめさせられる部員は……多くはなくとも、珍しくはなかったのです。


 ……なので。

『恥をかかされた恨み』を抱えた上級生の保護者がいたのは言うまでもありません。

 もちろん、保護者と連動するしないはともかく、上級生にも恨みを抱えた人間がいました。


 あと、これは下級生の保護者にもうかつな人がいたようで『やり方を変えたら全国大会までいけた。やっぱり、これまでのはろくでもなかったんやなあ』などという発言を繰り返し、『これまでのろくでもなかった世代』の関係者の恨みをかいました。

 そして、『結果を残せていない他の部活』の関係者からの恨み、あるいは嫉妬を招いてしまいました。

 これは、保護者だけではなく教師にも及びます。


 まあ、ある種の自業自得ではあるんでしょう。

 でも、この世代の人間は結果を残して中学校を卒業してしまいます。

 彼らの恨み、嫉妬は、もちろん結果を残した世代の子供と保護者に向かうだけでなく……『残された野球部そのもの』へと向かいました。


 ちょうどこの年、この一連の騒動を支持していた校長先生が定年を迎え、退職されました。


 野球部の顧問である教師が別の学校へ。

 この地域の中学教師は、新任なら2年、それ以外なら3年で別の学校へと異動するというのが通常です。

 もちろん、個人的事情などがあれば例外はありますが、熱心な指導者として招聘し、全国大会出場という結果を残したにも関わらず、2年で異動するはめに。


 結果から言うと、これから15年……この中学校の野球部の顧問になった教師は、全員が野球未経験者で、野球指導者としても未経験者でした。

 幾度となく、『野球経験者か、野球指導経験者で、きちんと野球の指導ができる教師を呼んでくれ』と保護者のほうから要求があったにもかかわらず、です。

 もちろん、野球経験者でなければ必ずしも指導ができないと言うわけではありませんが、未経験者で野球を指導したことがない教師ばかり次々と野球部の顧問にすえられたのは作為的なものを感じざるを得ません。

 その証拠に、この15年の間、地区大会を勝ち進んで県大会に出場する結果を残した顧問教師は、勤務期間が3年に達していなくてもその年で異動しています。

 ひどいケースでは、1年で異動……さすがにこれはきわめて異例のケースですが、『本人の強い希望により』という理由で異動しています。


 ……保護者からの圧力がかかったという噂が流れましたが、真実は闇の中です。(笑)


 まあ、顧問とか指導に関しては大人の事情が絡むので諦めるとして……あれだけ大騒ぎをして、話し合いで決めた約束事がどこまで守られたかと言うとこれもまたお粗末な結末がまっていました。

 謝罪させられた上級生には当然弟がいたりします。

 それ以前の、日常的にそういった行為がされていた世代の兄を持つ生徒もいます。

 校長が退職し、熱心な顧問教師が去ってから、ケツバット禁止なんて、あっさり破られたようです。

 もちろん、最初はこっそりと。

 そして、暴行で口止めしつつ……となるまでそれほど時間はかかりません。

 ある意味、以前よりもひどい状態へと移行したとも言えます。


 私自身は、ケツバットなんかしても野球が上手くならないと思ってますので、意味のないことはしないという考えの持ち主です。

 ただ、強制とはいえ……『ケツバット』という文化が、断絶した時期ができてしまったのが大きな問題を呼びました。

 つまり、『自分はケツバットをされたことがない』のに、『他人にケツバットをする』という世代の登場です。

 繰り返しますが、私はその行為を容認はしません。

 容認はしませんが、こうした行為は、やる方も、やられる方も、それなりの技術や心構えが必要となることを理解しています。

 どうやって殴るか、どうやって殴られるか。

 角度、そして力加減。


 殴る技術と、殴られる技術の欠如が生んだ事故……敢えて、事故と言う言葉を使います。

 ケツバットを受けた下級生が、骨折しました。


 私が別の話で書いた、『世紀末野球部伝説』の原因の一端は、過去のざまぁにあります。

 上級生による下級生への体罰が一時期断絶したこと。

 そして、ざまぁした世代の弟が野球部に下級生としていたこと。

 ざまぁされた世代の弟が野球部の上級生としていたこと。


 良くも悪くも、この世代の上級生は……加減をわかっていませんでした。

 この、『事故』が問題となって……まあ、かつての騒動がまだまだ記憶に新しかったこともあって再び騒動が起こり、当事者ではなく大人の面子が複雑に絡み合って野球部はますます世紀末になってしまうのですが、ちょっと待てよと。


 過去の『ざまぁ』に関係のない人間が逆恨みを受け、まともな指導が受けられなくなったのはまだ許せます。

 いや、もちろん関係者だけで完結してくれよと言うのが本音ではありますが。


 1年生は3年生が引退するまで技術練習に参加させてもらえない状態だったので、練習後に自主練習をしようとしたら顧問とは別の教師に止められました。


『指導者がいないとき、何か問題が起こったら学校の責任になる』

『キミ1人の練習のために、教師に夜遅くまで居残れと言うのかね?』


 正論ではあります。

 しかし、この頃、明らかに野球部はお荷物と言うか、腫れ物扱いでした。

 もう、余計なことはしないでくれ……という気配が目に見えるぐらいで。

 もちろん、そういう扱いになるのも理解はできるんですが……。

 学校の道具を使わない練習ならいいだろうと、走りこみなどの練習を続けていたら数日後に『1年のくせに生意気なんだよ』と上級生に暴行を受ける始末で。

 ちなみに、野球部の練習が終わるのは、他の部活も含めてほぼ最後です。

 1年生は残って後片付けと整備をするのでさらに遅くなりますし、上級生は先に帰ってしまいます。

 その後に、私は1人で自主練習してたのに、『誰が上級生にそれを教えたか』とか考えると、なかなかに心が躍りますね。(笑)

 さすがに、野球部に対して否定的な立場にいた教師から上級生の保護者へ連絡が回ったとまでは思いたくありませんけどね。

 とにかく、真面目に野球をしたい人間にとってはどうしようもない状態でした。


 正直、私個人としては、『ざまぁ』した世代に向けて、余計なことしやがってと、愚痴の1つもこぼしたいところです。

 もちろん、総合的に考えてそれが悪いことではなかったと理解しているのだが……ざまぁ世代の1人、その弟と同じ世代に生まれた私が悪いのか。

 というか、その弟、彼も被害者だ。


 聞けば、彼の父親はこう言っていたそうな。


『ワシの息子が、あのクソの息子に殴られたままじゃあ、ワシの面子がたたん』


 おい、自分の息子の心配じゃなく、自分の面子の問題なのかよ。

 まあ、私の父親も似たようなものだが……もう少し、こう、なぁ。


 そして、納得してしまう。

 ああ、だから……彼は、標的にされたのかと。

 やられっぱなしでは、面子が立たないのだ。

 そして実際、あの時代、学校生活において侮られたら搾取される立場に追いやられていくのと同じで、大人もまた周囲に舐められたら立場が悪くなるという側面があったのも事実ではあります。

 都市部と違って、地方ではまだまだそういう雰囲気が色濃く残っていました。

 なので、理解できないこともないのですが……なぁ。


 幸いと言っていいのか、私は『野球部』としてしか被害を受けなかった。

 しかし彼は、野球部とは別の部分でも……一部の教師から、妙な扱いを受けていたように思う。

 私にも兄がいるのだが、その関係で教師から嫌味を言われたり、上級生にあれこれされることがあったので……まあ、そういうことなのだろう。

 私も、あれだけの騒ぎになったにもかかわらず、同学年で下級生にケツバットをしようとした人間と口論になり、殴り合いをする羽目になりました。

 これ以外にも理由はあったんでしょうが、私と殴り合いをした相手が、私に近い位置にいた後輩を隠れていびるなど……負の連鎖を生んでしまっています。

 おそらくは、私が自覚していない理由でも、仲の良かった友人や後輩に迷惑をかけてしまっていたのではないかと推測できます。


 良くも悪くも、あの頃の野球部は、生徒だけではなく、保護者も、教師も、バラバラでした。

 ただバラバラなだけでなく、足の引っ張り合いというか……そういうことも含めて、世紀末でした。


 これは、平成の時代が過ぎ、ますます遠くなっていく昭和の時代の昔話にすぎません。

 時代とともに、社会もまた変わっていく。

 今の時代にこんなことが起これば、すぐさま炎上するんでしょうが……良くも悪くも、人は変わらない生き物だと思います。


 人の恨み、嫉妬は深くて広い。

 そして、意外なつながりが……不意に襲ってきたりする。


 ざまぁは、勧善懲悪は、物語だからこそ綺麗に終わる。

 現実というリアルでやるならば、慎重に、根回しをするべきだ。

 自分の子供、親しい友人に対して、恨みが降り注ぐ可能性は十分にあるのだから。

まあ、こういうこと言ってると事なかれ主義に終わってしまうのであれですが。(笑)

現実では、物語と違って関係者全員根切りにするとかできませんから、どうしても遺恨は残ります。

というか、昭和から平成になって『彼』の子供の世代にまで、後を引いているから本気で救いがない話だと思います。

もちろん、かなり世代がシャッフルされたり、故郷を飛び出した人間も多いために、ごくごく一部のいがみ合いが残って……それが新たな遺恨を生み、広がっていくとか無間地獄かな?

故郷を捨てて街に出よう、とはこういうことか。(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] ケツバットは骨折どころか死亡事故につながる危険性もあるのでやめておいたほうがいいです。 前に某番組でもやっていましたがしりもちが原因で亡くなった方もいます。 詳しくは、『【必読】過去に「し…
[良い点] 分かりやすかったです [一言] 感想長くなりすぎたので書き直しw すごい分かります、私の昔やってた部活でも、私の時代には20回の腹筋だったのが200回になっていて、意味わからん!それじゃ練…
[一言]  主に学校に原因があるように思えます。  まず、上級生が下級生に体罰を行う風習が問題で、野球部の顧問が別の学校に行ってる時点でそれを学校側が容認していたってことだと思うんですよね。なので、本…
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