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魔王達の非日常  作者: 真っ黒チェイサー
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散歩インフォメーション


村が、燃えている。自分の家、親友の家、皆の集会所、ちょっとだけ広い広場・・・それら全てが、炎に包まれていた。辺りには燃え盛っている「人だったもの」が転がっている。

「・・・なん、で・・・」

幼心にはあまりに衝撃的な光景。火を付ければ村にある大抵のものは燃えるというのは理解していたが、それでも村全体が焼き尽くされているという事実をまともに受け入れられない。あまりのショックで立ち尽くしていると、かろうじて火の回らない場所に十数人が逃げているのが炎の隙間から見えた。

自分もそちらに向かって走り出そうとしたその時、燃え盛る村の中央に佇んでいた何かが自分に視線を向けた。ずっと自分を狙っているのか、何処に逃げても「それ」は地を這って自分をつけ狙う。その上「それ」には火が効かないようで、炎の壁をいとも容易く潜り抜け追いかけ続ける。先ほどから必死に逃げ続けていたが、体力も気力も限界に近づいていた。

「・・・なんで、追いかけてくるの・・・っ!?」

逃げようとして、すぐそこまで炎が迫っているのが分かった。ジリジリと背中を焦がすような炎から逃れようと前へ出るも、「それ」が進路を阻む。

「・・・・・・あ、ぁ・・・・・・」

正面には「それ」、背後には炎の壁。何処にも逃げ場がなくなった自分を喰らわんと、「それ」がその巨大な口を大きく開いた。その口内には無数の鋭い牙が生え揃っており、勢いよく噛まれればどうなるかは子供でも容易に想像がついた。

「・・・・・・いやだ、助けて、誰か・・・・・・っ!」

喰われる。喰われる。喰われる。喰われーーーーーーーーー


「ーーーーーーーーーっ!?」

サンディはベッドの上で体を跳ね起こした。どうやら悪夢に苛まれていたようで、全身が汗でびっしょりである。

「・・・・・・何だ、夢か・・・」

彼は忌々しそうに舌打ちし、身につけていた寝間着を脱ぎ捨てた。そのままシャワーでも浴びようとシャワールームに入る。


しばらくして、シャワーや食事を済ませた彼は寝ているうちに届いた書類を確認していた。やはりその中にも捜索願は複数確認され、彼は小さくため息をついた。

「・・・早いうちに済ませて、フェザー教の方に取り掛かろう。」

そう呟き、書類と万年筆を手にして椅子に腰かけた。

1日分の書類なら数十分で終わる。処理し終えた捜索願を手に、彼はティルの所に向かっていた。・・・と言っても居場所は分からないので、実際には探していると言った方が正しいか。

「あの後は食事をとるって言ってたし・・・食事が終わったら、風呂に入って寝てる・・・かな?情報も手に入ってたし。」

彼はしばらく考えてからティルの部屋へと歩みを進めた。

部屋に到着し、コンコンとドアをノックする。どうやら寝ているのか、返事はない。

「・・・・・・まあ、今じゃなくても良いか。」

僅かに逡巡し、彼は踵を返して歩き出した。まだ寝ているのなら無理に起こす必要は無いし、急ぎの用というわけでも無いからだ。

「ティルが起きるまで散歩でもするかな・・・。情報収集も兼ねて」

窓の外を見ると、もう既に多くの人が活動を始めているのが分かる。店も開き、様々な人が道を行き交っており大変賑やかだ。

彼は捜索願を一旦懐にしまい、城を出るために歩き出した。


通りを歩いていると、色々な人から声がかかる。時折飲みに行く酒場の店主やよくティルが利用している雑貨店の店員、いつも遊びに誘われる子供達などだ。

「魔王様、最近良い酒が入ったんだ。飲みに来ないか?」

「おっ、良いね♪近いうちに宴会でも開こうかな?」

「あら魔王様、いつもご贔屓ありがとうね♪おかげで商売繁盛してるわよ!」

「そりゃ良かった。だがお礼は俺じゃなくティルに言ってくれ」

「「まおーさま、かくれんぼしようよ!」」

「おう、分かった。悪いけど、先に仕事を済ませてからで良いか?」

「「はーい!」」

かけられた声は1つたりとも無視せずに返事していく。そして幾つかの約束をした後、彼は町の人たちに聞き込みを始めた。

「ちょっと聞きたいんだが、フェザー教って知ってるか?」

何人か知らない人もいたが、それでもかなりの人がフェザー教について多かれ少なかれ知っていた。

「フェザー教?ああ、最近有名になり始めたな。昔は知ってる人は少なかったが、最近は結構な数の客が知ってるみたいでさ。」

「フェザー教ねえ・・・あ、そういえばちょっと前に神父さんみたいな方が買い物に来たわよ。・・・何を買って行ったか?・・・確か、蝋燭とかチョークとかだったわね・・・」

「ふぇざー教?・・・ううん、知らない・・・。」

「・・・あ、ママがしんぷさん?って人と話してたよ!この後、教会でぎしき?するんだって!」

色々な人から話を聞いた所、幾つか有力な情報を手に入れることが出来た。子供達とひとしきり遊び、城に戻ったサンディは1つ1つメモに書いていた情報を今まで手に入れた情報と照合していた。

「・・・昔は有名じゃなかったのなら、ますます申請してない理由が分からないな・・・。それに買った物や深夜の出歩き、儀式となると・・・怪しい匂いがするな・・・。」

と、そこに寝起きのティルが現れた。身支度を済ませた直後なのか、若干寝癖がついている。

「・・・おはようございます、主様。そのメモはどうしたんですか?」

「ああ、さっき散歩がてら情報収集してきてな。それなりに有益な情報が手に入ったぞ?」

散歩と聞いて、ティルは外の様子を眺め少しばかり羨ましそうな顔をした。

「私も行きたいですね、散歩。久しぶりに行きたいところもありますし、子供達と約束してる事があるんです。」

「じゃあ目覚ましがわりに行ってきたらどうだ?情報の照合も終わったし、とくに急ぎの用も無いんなら・・・」

それを聞き、ぱあっと表情を明るくするティル。そのまま挨拶もそこそこに駆け出して行った。


城から駆け出たティルは、噴水のある広場で数人の子供達と合流した。

「おねーちゃん、おそーい!」

待ちくたびれたのか、1人の少年が彼女を軽く叩く。

「ごめんなさい、ちょっと前に起きたばかりでして・・・」

「おねーちゃん、お寝坊さんなんだ!」

どっと子供達の間に笑いが起きる。ティルもつられて笑いながら、子供達と一緒にある場所へ向かい始めた。

しばらくして彼女が到着した場所は、こぢんまりとした民家だった。他の民家とは大差ないが、周りの人がぞろぞろと扉の向こうに姿を消していく。

「・・・ここが、教会なんですか?」

子供達の1人に問いかけるティル。

「うん!私、いつも来てるから分かるの!」

子供達の1人、先ほどサンディが質問していた少女が元気よく答えた。そのまま扉の向こうへ歩いて行く。

「・・・あ、ちょっと・・・」

「おねーちゃんも来なよ!一緒に儀式しよう!」

ティルに向かって手招きする子供達。しばらく逡巡した後、意を決したティルは子供達の後を追って扉の向こうへ姿を消した。

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