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魔王達の非日常  作者: 真っ黒チェイサー
5/8

翼の神父と観測者

先ほどのティルとの会話からしばらくして、サンディはカリカリと万年筆を走らせていた。

「・・・はあ、やっと半分・・・ったく、溜めると面倒になるなー・・・」

彼はこの事を今までに何度も言っているし言われている。

その後も万年筆を走らせ続け、深夜になってようやく全ての書類を処理し終えた。

「やっと終わった・・・夕食でも食べに行くか・・・」

彼はそう呟き、席を立った。


食堂に入ると、様々な料理の匂いが入り混じった独特の匂いがした。良い匂いであるのは分かるが、何の料理の匂いかは分からない。そんな匂いだ。

「えーと、何にしようかなー・・・?」

閑散とした食堂で夕食の献立に迷う魔王。なかなか見られない絵面だが、この国ではこれが普通である。

「別に魔王だからって贅沢な暮らしじゃなくても良いんじゃない?」という本人の意思により、国民も利用可能な大型食堂が設置されたのだ。シェフの方も気合が入っており、(シェフ達の強い希望により)24時間営業となっているため国民からも根強い人気を誇る食堂となっている。

「・・・・・・よし、ラーメンにしよう。」

しばらく悩んだ挙句、彼はラーメンを食べる事にした。

厨房の方へと歩いていき、注文する。

「すいません、ラーメン下さい。」

「はい、分かりました・・・って、誰かと思えば魔王様。こんな時間まで何をされていたんですか?」

彼に声をかけたのはこの食堂の料理長、クーク・グルーリア。常に全身包帯でぐるぐる巻きという特徴的な外見だが、その腕は確かである。

「・・・いやー・・・書類を、ちょっとね・・・。」

「また書類ですか・・・貴方も懲りませんね?」

呆れた声で言うクーク。

「・・・返す言葉もございません・・・」

「ティルからも散々言われているでしょうに・・・ところでティルはいないのですか?いつもは一緒に食べに来られますのに・・・」

「ああ、ティルなら調査の仕事を任せてるよ。最近、ちょっと不可解な事があってね・・・。」

「なるほど、それでですか。ま、お疲れの出ませんように。」

そう言い、クークはラーメンを差し出した。サンディはそれを受け取り、テーブルの方へと歩いて行った。


「ふー、相変わらず美味かったな・・・」

ラーメンを食べ終え、彼は執務室へと戻っていた。椅子に座り、処理済みの書類を1枚手に取る。

「捜索願以外にも、やっぱり色々あるな・・・今度、散歩がてら話でも聞いてみるか。」

そこに、ティルが捜索願の束を携えて入ってきた。

「ただいま戻りました♪」

「おお、やけに嬉しそうだな。収穫でもあったのか?」

「ええ、素晴らしい収穫ですよ!彼らには共通点があったんです!」

彼女は嬉しそうに言うと捜索願の束を机に置き、それとは別に1枚の紙をサンディに渡した。

「共通点・・・って、この男か?」

渡された紙には、「アルフレッド・フリーマン」と言う名の男に関する情報が載っていた。どうやらとある宗教の神父のようで、人の良さそうな顔をしていた。

「ええ。アルフレッド・フリーマン、職業は『フェザー教』の神父。顔に違わず人柄の良い方で、年齢を問わず慕われているようですね。被害者・・・というか、成り替わられた可能性のある方は事前にこの方と接触しているんです。それも全員が、何らかの形で。」

「全員・・・そんなのよく調べたな・・・」

彼が感心した様子で言うと、ティルは途端に微妙な表情になった。

「・・・いえ、それが私1人の力じゃなくてですね・・・スカイラさんの力を借りたんです・・・」

『はいはーい、そうだよ私だよー♪私が教えてあげたんだー!』

部屋に甲高い女性の声が響く。しかし部屋にはサンディとティルの2人しか存在しない。

そう、彼女スカイラ・アダムスは衛星軌道上に存在する魔王である。機械に置き換わった下半身のモジュールを駆使し、魔界全体から宇宙の果てまで観測するのを生業としている。

「あ、スカイラか。・・・でもお前、情報の管理に関しては厳格なんじゃなかったのか?」

『にゃー、別にその程度なら良いかなーって!♪そりゃ国家機密を教えろとか言われたら即却下だけど、誰が誰と会ってたかぐらいなら問題ナッシング☆』

「・・・案外緩いんだな・・・」

苦笑するサンディを尻目に、ティルは解説を再開した。

「・・・まあ、被害者の方は全員が彼と接触しているのです。その多くはフェザー教の布教活動中に彼と会話しています。」

「・・・ところで、そのフェザー教って何だ?」

「それは今から説明します。・・・フェザー教は、羽や翼の生えている存在を尊び敬う宗教です。基本的には鳥や羽虫など、あと兎もですね。」

「兎・・・あ、耳か。」

「多分そうですね。そしてフェザー教が最も敬う存在は、『天使』です。翼の生えている存在としては最上位の存在だからでしょうね。」

『ねえねえ、私はー?私、羽生えてるよー?』

「そりゃモジュールのパネルでしょう。あと民間人でスカイラさんの存在を知ってる人なんてほとんどいませんよ。」

ここまでの解説を聞いた所で、サンディは席を立ち国に申請している組織のファイルを取りに行った。国に申請している組織には当然宗教団体も含まれる。

「ファイルに載ってれば良いんですがね。そうすれば活動理念とかも分かりますのに・・・」

「ああ、確かにな・・・フェザー教、フェザー教・・・」

ぱらぱらとめくるが、該当する情報が載っている気配はない。それ以外のファイルも片っ端から確認するも、どこにもフェザー教の文字はなかった。

「・・・なかったな・・・」

「なかったですね。・・・となると、申請していない組織なんでしょうか?」

「そうなるだろうな・・・すると、何してるのか気になってくるな。」

そう言い、彼はファイルを片付けようと立ち上がった。そのままファイルを

片付けながら、ティルに問いかける。

「フェザー教の教会ってどこにあるか調べてるか?なんなら教会じゃなくてもいい、集会所とかでも・・・」

その問いに、申し訳なさそうにティルが答えた。

「・・・すいません、まだ調べてないです・・・アルフレッドさんの素性を調べるのに思ったより時間がかかってしまって・・・」

「ん、なら明日調べるか。ティルは夕食は食べたか?俺はもう食べたけど。」

「いえ、まだです。・・・そうですね、ちょっと休憩がてら食事でも取りましょうか・・・」

そう呟きながらティルは部屋を出て行き、後には渡された紙を見つめるサンディだけが残された。

彼の瞳には、『ここ最近、深夜に頻繁に出歩いている姿が目撃されている』という文章が映っていた。

「・・・スカイラ、アルフレッドが深夜に何してるかって・・・」

『駄ー目。それは個人のプライバシーに関わるからね、私はプライバシーは守る主義なのだ!♪』

なぜか自慢げに言うスカイラ。その言葉を聞き、彼はため息を吐いた。

「だよなー・・・じゃあ、明日にでも調べるとするか・・・。」

そのまま紙を折りたたみ、懐にしまい込む。そして久しぶりの睡眠を取るために、自室へと歩き始めた。


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