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黒い幼女は異世界で嗤う  作者: ネクロ・エルダ
9/13

009 欲望の対価(その5)

あらすじ

暖を取りました。

---リサsideーーー


私は気怠い身体をベッドから起こすと、ガタガタとガラス製のガラス製の窓を強い風が叩いている音が聞こえた。


冬が近付くとゴルゴダの丘の向こうから強い風が吹き付けることはあるけど、今は春が終わり、もうすぐ夏が来る。こんな季節に強い風が吹くのは始めての事だった。


窓の先にある空を見上げると青い空に浮かんでいる雲が強い風に流されて町の唯一の出入り口に向かって行く。私は無性に(とても)心配になり部屋の中をキョロキョロと見回す。

たぶん、丸一日寝ていたのだろう。倒れたお母さんはもう居なかった。

私は何か言葉では表す事が出来ない不安を感じながらも、病に伏せた自分ができる事は何もないと心の中で言い訳をしながら夢の中に入り込もうとするけど、心がざわついて寝る事が出来ない。


心配心から再び窓の奥を見ると遠い地平線から巨大に渦巻く風が土を抉り、木々を薙ぎ倒しながら町に向って来た。


「そんな・・・。」


タラリと冷や汗が流れる。恐怖で体の感覚が無くなったみたいに何も感じることが出来ない。ゲホゲホと咳が出て吐血するが、それさえも気にならない。無意識に胸に手を当て高鳴る心臓の落ち着きを取り戻そうとするが一向に鎮まる気配を感じない。

思考がある程度回復するとまず先に思い出したのは・・・。


「お母さんっ!」


私は久し振りにベッドから起きる。寝続けた事で力が入り難くなってはいたけど、多少なら走ることは出来るはず。私は自室から飛び出し、階段を駆け下りる。降りる途中で足場を踏み外し階段の半ばから転げ落ち、顔を強く打つ。鼻血が出るが気になどしない。直ぐに立ち上がり駆け出す。

食堂の調理場へ向かったが誰も居なかった。調理場から見える食堂のテーブルにも。


「あれ?」


頭が真っ白になる。もう日が高い。何時もならお母さんが昼餉を作っているはずなのに。


何時もとの違いに頭を傾げながら、私はゆっくりと歩を進める。

水場へ、浴場へ、宿の裏にある小さな庭へ。お母さんは何処にも居なかった。


お母さんは何処に行ったんだろう?


宿の表へ向かうと風が先ほどより強くなった様に感じる。私にはもう直ぐあの渦巻く巨大な風が町に来る前兆に思えてならない。


「あれ?おかしいな。」










だって、さっきまで遊び場で遊んでたのに。









空を見ると、丁度空の真ん中に日が登っていた。


「早くお母さんを見つけなきゃ。」


言葉に出したものの何時もより身体が怠い。

私が宿の前でぼーっとしていると宿のお隣さんのエルザさんのお家からお母さんが出てきた。


「どうしたのリサ!」


私を見つけてお母さんが駆け寄って来る。ハチミツ色の長い髪が強い風に弄ばれている。

近くに来たお母さんの顔を見上げると、酷く窶れて見えた。

何でお母さんはこんなに窶れているんだろう?

少し不思議に思ったけど、私は何時もと同じ様に昼餉を強請る。


「おかーさん。ご飯食べよ!」


私は早く昼餉を食べて皆でギルド(ひみつきち)を作らないといけなくちゃいけないのだ。

すると、お母さんは驚いた様な、嬉しそうな顔で、


「・・・そうね、一緒に食べましょう。その前に顔を洗って来なさい。酷く汚れてるわ。」


少し泣きそうな声で言った。


私は頷くと宿に戻ろうとするが、足を1歩踏み出す前に町の警告鐘がガンガンと高い音で煩く鳴り響く。門が有る方向から兵士さんが何かを叫んでいるのが聞こえた。


「何があったのかしら?」


お母さんは、煙も出ていないのにと首を傾げながら言った。

普段警告鐘は火事の時か魔物が攻めてきた時にしか鳴らされないし、このゴルゴダの町の周りに居る魔物はランク換算でDランク以下。

兵士さんが2人居れば怪我無しに倒せるランクだから慌てる必要なんて無い。

だから偶に起こる火事の時しか警告鐘は鳴らない。


「ーーーだ!」


兵士さんが此方に向かって走って来る。距離が遠いのか良く聴こえない。


「ーーだ!ーーだ!逃げろっ!」


兵士さんが近くに来るにつれて、少しづつ意味が分かってきた。


「渦巻く巨大な風だ!逃げろっ!」


お母さんは驚いた様で、私に先に逃げているように言うと、宿に急いで入って行った。

多分だけど、財産を取りに行ったのだろう。


「あれ?」


今思い返すとおかしい、だって夏には強い風は吹かないしお母さんがあんなに窶れて見える筈がない。私の喉がこんなに痛い筈がないのだ。だから、だからこれは夢なんだ。

私が混乱した頭を整理する為にその場で立ち尽くしていると大きい咳が出た。口元から垂れた液体を手で触るとドロリと赤い血に塗れた。

全身から血の気が引いて行くと同時に喉に強い痛みが走る。


最初に見た大地を抉る風は夢じゃ無かった。窶れたお母さんも病に伏せた私も夢じゃ無かったんだ。

私はしゃがみ込み、恐怖に耐える。後ろからは轟々とした風音にバキリバキリと何かの破壊音、悲鳴と怒号が町に響く。

私は耳を塞ぐ。少しでも音の刺激を減らさないと恐怖で如何(どう)にかなってしまいそうだった。

しかし、それで背後の脅威が取り除かれる訳でもなく、私は渦巻く風に大きく吹き飛ばされて、


グキリ


「いっぎゃぁあぁあぁ!」


着地時に両足から落ちたために、右足の骨が斜めに折れ、肉を突き破り大気に露出した。

私は倒れ、痛みに耐える為に胎児の用に蹲る。

痛い痛いと泣きながら、呟いているとドスンと近くに何かが落ちてきた。


そこに目を向けると濃い蜂蜜色の金髪の女性が呻き声を上げて倒れていた。


「・・・お母さん?お母さんっ!」


私は喉の痛みを無視して叫ぶ。

私の叫び声が聞こえたのかお母さんは体をビクリと震わせ、非常にゆっくり起き上がった。


「リサ?」


右腕の関節が逆方向を向いている。お母さんの料理はもう食べられないかもしれない。


お母さんはしゃがみ込み、私の腕を首の後ろに回した後、立ち上がらせる。

右足の痛みが電気のように全身を走るが同時に安心感もあった。


お母さんとずっと一緒なんだ。


私は空を見上げる。風で雲が飛ばされたのだろう。憎たらしい程蒼い空が私たちを見下ろしていた。


ぼーっと空を見上げていると急に日の光に陰りが出来た。


「危ないっ!」


私はお母さんに急に突き飛ばされた。折れた足から踏み出してしまったため、痛みと共に崩れ落ちる。


「いあ゛」


喉から血でくぐもった悲鳴が漏れる。


私を突き飛ばした母を見返す為に後ろを振り返る。

酷いよ、と口を開こうとした瞬間にドスンッと重い物が空から落ちてきた。

同時に水袋が破裂した様な不快な音。

倒れ込んでいる私の両足を何かが無慈悲に粉砕した。

私は叫び声を上げる間もなく、意識を失った。





痛い、苦しい。

身体が動かない。意識が戻り、私は呻き声を上げながら目を開ける。


地面を見ながら、私の上に乗っている重苦しい何かから逃れるために脚に力を入れようと為るが、脚がピクリとも動かない。

兎に角この苦しみから逃れるために腕で地面を擦るが力が入らない。疲労に困憊してボヤけた視界で前を見ると目の前に私より小さい黒髪の少女が立っていた。


少女は艶やかな長い髪と未発達な身体を惜しげも無く晒し、無感情な瞳で私を見下している。

少女はしゃがみ込み、ゆっくりと私の頬を撫でた。

少女の細い指が、温かい体温が私を癒す。きっと彼女は天使なんだ。


私が思った何ら根拠もない事も間違いない様に思える。


幼い少女の甘い愛撫に痛みを忘れ、細い指の感触に浸っていると少女は急に頬を撫でるのを辞めた。


「あっ」


温かい体温が私から離れると同時に思わず声が漏れる。

少女は私の足元に向かい歩き出した。私を助けようとしてくれて居るのだろう。

私は掠れた声でありがとうと呟いた後、ゆっくりと意識を閉ざした。





ゴキリ。


骨に響く不快な音と痛みで私は目を覚ました。

意識が朦朧として状況が理解できない。


「・・・生きていてよかった。・・・・だよ。」


鈴の鳴る様な声が聞こえる。


私の身体を何かが擦る。

風が直接肌を撫でて涼しい。


霞む目で声が聞こえた方向をみると先ほどとは違い麻の衣服を着た少女が肌を紅潮させて佇んでいた。


私は息苦しさが無くなっている事に気付き倒れたまま周囲を見回すと足元の方に赤く濡れたベッドがあった。今は5歩分程の距離が空いている。



「・・・・・・・・」


少女が何かを言っているが集中出来ずに聞き流してしまった。


「仕方ない。」


少女は呟くと自分の指先を注視する。


「火種」


少女が異様に響く言葉を呟くと、少女の指先に青い炎が灯った。


そのまま私を潰していたベッドに近付いて火を付けた。

それをぼーっと見ていると見覚えのある髪がベッドの下から見えた。

それは間違い無く。


「お母さんっ!」


ベッドに灯る炎は次第に大きくなって行く。お母さんを助けようと腕に力を入れようとするが、腕の感覚が無くなっていた。


「むぎゅ」


いつの間にか少女は私の上に腰掛けていた。

勢い良く背中に乗られたため口から空気が漏れる。

辺りに肉の焦げた匂いが充満する。


「温かい。」


少女の声がよく響いた。


「お母さん・・・。」


もう助からないであろう。

潰されて焼かれたのだから。


「ん、お母さんの側に行きたいの?」


私の上に座っていた少女が尋ねてきた。私はコクリと頷くと


「うん、運んでくれるかな?」


掠れた声で答えた。


突然少女が立ち上がると、私の首元を締める様に持ち上げた。

細い指の首に食い込む。喉が潰れて呼吸ができないが、もうそんな事どうでも良い。


私はそのまま燃え盛るベッドの中に投げ捨てられた。直ぐに炎が私を舐める。皮膚を炎に晒した対価である痛みに私は悲鳴を上げる。


すぐ近くには燃えて枯れ木の様になったお母さん。私は真黒になったお母さんに頬ずりをする。


「貴方も寒かったの?」


私の燃える様を見て不思議そうな顔をした少女が首を傾げながら言った。

解りにくいので説明

ーーーリサSideーーー

寝過ぎで現実と夢の区別が付かないマザコン少女リサは、現実の辛さを知り炎の世界に飛び込みました。


ーーー主人公Sideーーー

暖を取るための燃料を追加しました。

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