005 欲望の対価(その1)
焼かれた私の意識が戻る。
目をゆっくり開くと視界には燦然たる星々。何処から漂って来るのか仄かに香る花の甘い香りに澄んだ水音。
私は夜の森の中で仰向けに倒れて居たようだ。
私は立ち上がった後、自身の身体の各部を動かし、不備が無いか確認する。多少の心配は有ったが、私は無事に人型を取っている。
私は水音のする方向へ歩き出す。若干の違和感を感じながら、頭を振り、気のせいだと自分に言い聞かせる。数分もしない内に清らかな水が流れる泉に着いた。
私は泉の水面を覗き込む。
「うん、知ってた。」
幼さを含んだ鈴の音の様な声が辺りに響く。
水面には、腰まで届く艶のある黒髪に西洋人風の白い肌。星々の間の暗闇を切り取ったような瞳を持った可愛らしい幼女が全裸で映っていた。
自分の身体をペタペタと触り確認して行く。白く滑らかな四肢の付け根には多角形を基本とした刻印が火傷の跡の様に刻まれていた。
「姿形というものは、3次元空間におけるパラメータの違いでしか無い。」
私は呟くが、自身の望んでいた姿で無かった事への失望は隠しきれない。私は人型の成人男性の姿を取りたかったのだ。しかし、
「まぁ、気にする迄もないか。」
そう、大した事では無いのだ。私がどの様な姿をしていても、やるべき事は変わらない。ルラの為に万物の王の夢を私が創り出すのだ。ルラは楽しんで来いと言った。ならば最初にやるべき事は、力を確認する事だ。
両手をぎゅっと握り締め気合を入れる。ただでさえ弱小な人間の姿を取っているのに、女子供であるなら旅を為るなら未熟としか言えないだろう。たから今の私には、身体能力以外の力に頼る他ない。この姿は容れ物でしかないが、破棄する際のデメリット解らない以上直ぐに破棄するのは躊躇われる。
しかし、身体能力以外の力の行使の仕方が解らない。ルラから説明を受けていれば良かったと後悔する。あの空間にいた時は、手足の様に感覚を拡げることが出来た。
ならば、肉を得た今でも力の使い方は変わらないだろう、と私は手を前に上げ、目を閉ざして力を行使する。
「竜巻」
日常で使うのと変わらない声の抑揚で呟く。それだけで目の前の美しい景色が轟々とした暴力的な風に吹き飛ばされ広野の様になった。その様は私の受けた洗礼の様に、神聖で清麗に満ちていた。
「綺麗だな。」
私が力を行使すると、この世界の不浄が取り除かれ、自分の家を掃除した後のような達成感と満足感が満ちて行く。轟々たる暴力的な竜巻はその威力を増しながら直線的に進み、地平線に消えた。優しい風が私の肌を撫で、私は思わぬ清涼感に笑顔になる。
それから私は風の暴力で作られた道をゆっくり進みながら、どの様な夢を造ろうかと思考の底に沈んでいった。
これでやっとコメディーが書けるようになりました!
楽しみです!