012 道中(その3)
1ヶ月間程、ドイツのフランクフルトで私の口に合わない食事をして来ました。
余りにも口に合わない食事だったので、現地のフランスレストランに入り浸っていました。
ーーーファウスsideーーー
「ならば、5名以上の先発隊を組んで征け。」
愚かだ。
私はベル団長から命令を受けた瞬間に笑いを堪えるのに必死だった。
「ありがとうございます。」
笑いを必死で隠そうとするが耐えきれず声が震えてしまった。今の彼に私の姿はどの様に映ったのだろうか。
私は早急に巡回日だった騎士を集める。
先発隊とはいえ時間が無い。私の協力者以外の騎士達が準備を終えるまで後3時間も無いだろう。
私は端に控えていた2人の騎士に後2人集めろと指示を出し、急いで馬小屋へ向かう。ゴルゴダは小さな町だ。それでいて、王都間の交通に不便が無い。
だから、
私の商品を保管する場所は他に無かった。
炊き出しや孤児院の運営で目欲しい者や注文に合った者を見つけ、王都に近いゴルゴダで運営する施設に集め、加工し貴族達に売り付ける。貴族が飽きたら商品を回収し孤児院か路地裏(破棄)に捨てるのだ。
この簡単なサイクルは商人の時に思い付き、爵位を買った時に実践し同時に頓挫した。王都を守る騎士団が邪魔だったのだ。
其れを騎士団に共犯を作る事でなんとか再稼働する事が出来た。
このサイクルのお陰で私はたった3年の間に金貨1000枚以上の純利益を出している。
私はこのサイクルでまだ稼げる。そう思うと商人としての魂が震える。金貨1000枚など中級貴族でも3年で集める事は不可能である。そんな莫大な利益を生み出す商品に危機が訪れようとしているのだ。適当な嘘でも言って自ら確認に行かなくてはならない事は自明であった。
手中の共犯者と早馬で駆け、朝日を迎えた後、ゴルゴダの町の手前の村で休憩を取った。
私は充てがわれた休憩場の椅子に深く腰を降ろす。馬を休ませる為他の者に大休止を命令する。空は蒼く、ゆっくりとゴルゴダへ流れる羊雲を見ながら私は目を閉じた。
◇
私は寝惚け眼を擦り、寝起き特有の微睡に流れる。
轟々とした風の音と悲鳴が聴こえる。私の周りで仲間達が着ている簡易的な防具がガチャガチャと音を発て馬車の準備をしていた。
予言どうりに凶風とやらがゴルゴダを襲って居るのだろう。
「ファウスさんお疲れ様です。今、馬車の準備をしているので風が通過したら直ぐに発てます。」
微睡む私の横から騎士が一人。
私と同様に金の魔力に魅入られた仲間だ。名前はカイゼル。短髪に刈り込んだ金髪に頬には耳から口端に掛けて横に走る深い2本の古傷、背は大凡190cmで肩幅も相応である。若さ故に後先考えず目先の金貨に対し深い欲望を見せる計画性のない頭。
しかし、この騎士は与える金銭に対して稼働率が高い優秀な駒である。
「宜しい。次いでだが、目欲しい者は狩れ。歩合になるが報酬を出す。」
カイゼルは喜びを隠そうとせず大きく笑う。
「皆に通達しておきます。」
私は騎士の笑みを目端にゴルゴダを轟々と蹂躙する暴風を見つめる。
其処には絶対的な暴力があった。
◇
私は仲間と共に暴風が造った道を進み、ゴルゴダへ入った。我々を迎えたのは少女の悲鳴。
私達は入って早々に、風の暴力から逃れた見た目麗しい幸運な少女に出会った。
騎士の装備を見て安心したのだろうか。緊張が溶けた顔をしながら近づいてきた。私は笑顔で其れを受け入れ、少女が完全に私の間合に寄って来た所で組み伏せ両足の腱を剣で切断する。ザクリと繊維質の筋肉と軟骨を斬る感触が気持ち良い。少女は間抜けな顔をして叫んだ。
「いっ。ああぁぁああ」
斧のように振り下ろした剣を少女の足から抜く。足の腱からは激しく出血し地面を紅く染める。倒れたまま子供のように蹲る少女の背に意識を喪わない様に蹴りを入れる。鉄の靴先が肉を強く打ちそれと同時に少女は激しく身体を仰け反らせた。
「うっあぁっ」
甲高い悲鳴が天高くまで響く。悲鳴はその者に近しい者を呼び寄せる。この災害で他人に構う程余裕の有る者が居たらの話ではあるが。
「黙れ殺すぞ」
耳触りな高音を止める為に出血を続ける少女の足先を踏み砕いた後、私は呻き声を背に先を急いだ。
破壊痕が目立つ街の大通りを歩いて10分程。街の兵達が屯して居る教会の前に着いた。
教会は緊急時に住民の避難場所となる為街の兵と住民が多く集まる。私は走り回る兵の一人を呼び止め街の兵数と先行した騎士の人数を聞いた。どうやら教会に最低限の人数を残し他は救助に出ているらしい。遅かったか。此れでは私の商品の確認が出来ない。兵に礼を言った後、この場を去らせる。
私は現時点で商品の確認を諦め破棄又は回収する事にした。
余計な事を言う商品がいた場合、私の現在の地位と金銭は喪われる。商品の口を閉ざさなくてはならない。
私が商品をどの様に破棄するかを考える為思考に更けているとカイゼルに声を掛けられた。
「ファウスさん輸送車が」
言いたいことは解る。商品運搬用の馬車が風で破壊されたのだろう。
「何台残っている」
「真面に動くのは1台です。」
少ない、精々8人が限界か。いや、後から本隊が来るのだ運搬速度を考えるとそれ以下。
「高く売れそうな者だけ回収し残りは破棄しろ。狩りも同様だ。商品は合計6、私が2人見繕う。青髪は持って行くから残りはお前達が狩れ。集合は北門前、目立つなよ。」
「是。」
早口に命令し自身も行動を起こす。
他の仲間には救助を手伝うフリをさせながら他の兵を狩りの邪魔にならないように誘導させる仕事を事前に与えている。
幸いにも加工中の商品は4名。行動力を奪っているため処理は簡単だ。私は加工施設に向かい走り出す。残された時間は少ない。
加工施設に着き直ぐに商品を処理した後、死体に火を付け燃やす。1人を妻と偽る為に美しい首飾りを付けた。ゆっくり燃え広がる炎を背に次の仕事をするために街を駆け出す。
狩りの時間だ。
町中を駆け回っての収穫は女冒険者の獣人1人。頭でも打ったのか、出血し倒れている所を幸運にも捕獲した。しかも、兎の獣人である。この種は高く売れるのでそれを一切の苦労無く捕獲出来たのは私の日頃の行いが良いという証明だ。
冒険者であることを考慮してうつ伏せにした後、背に周り右脚を背中に乗せて両手を掴む。そのまま手を強く後ろに引っ張り両腕を脱臼させた後、両足の腱を切断。重い防具を剥ぎ取りアイテムを燃やし、口の中には冒険者の下着を切り、丸めて詰め込んだ。自害されては困るのだ。
冒険者を肩を組むようにして門前に運び出す。倒壊した民家の適当な物陰に置いた後麻布を被せて走り出す。健全な労働の汗が額に滲むが今の私はそれを気にする暇など無かった。
私は大通りを駆ける。この街ゴルゴダでは門から教会を大通りが一直線に繋いでいる。そこから小道が枝分かれする様に走り、小道の先は大体が冒険者用の施設が並ぶ。この街では住民と冒険者を明確に分け、不必要な争いを避けている事は想像に難くない。だからこそ、私達の獲物は明確に区別される冒険者となる。旅人や冒険者の一人や二人急に居なくなるなど日常茶飯事だ。
・・・この災害の中ではその区別も関係無くなるが。
思わず口元が緩む。
この様な幸運には中々巡り合うことが出来ない。この後到着するであろう本隊が来るまでは、一般兵の目を気にするだけの簡単な狩場。私は自身の体に興奮と力が漲るのを感じた。
大通りを走りながらふと、視線を右に向けると、小道の先から黒い煙が立ち昇っているのが見えた。竈の火が民家に燃え移ったのだろうか。
此の儘では拙い。この街の殆どの建造物が木製なのだ。大規模な火災が発生すれば狩りをしている処の話では無くなる。それに、無理矢理先行したのだ、私の責任問題に発展する事は間違いない。
私は心の中で悪態をつきながら、黒煙が登る場所を目印に、1つの例外なく倒壊した民家が散らばる小道へ入って行った。
「何だこれは」
小道に入った瞬間、私は奇妙な風景を見た。
小道の脇の倒壊した民家、全ての柱に火が着いていた跡が見える。柱は真っ黒に焦げ、内部は赤熱している。
いや、其れだけなら奇妙な事などない。問題は、
赤熱する柱の上全てに無数の焼死体が柱に覆い被さる様に転がっている。
柱に潰されて身動きが取れず、其の儘柱と共に燃えるのは理解できる。しかし、何故柱の上に?
風に飛ばされて柱に激突し其の儘燃えたか?
否、飛ばされた複数の人間全てが柱の上に激突する偶然などあり得ない。
死んだ人間を柱の上に置いた?
・・・まるで意味がない。
思わず足を止めて自問自答をしている内に奇妙な解が出たが、私はあり得ないと頭を振り早足で歩き出す。
まさか、この多数が自ら炎に飛び込んだのではないかと。
それから数分も経たない内に目的の場所に辿り着いた。
やや開けた道に恐らく冒険者宿であろう壊れた民家、その周りには簡素な造りのベッドが多数散乱し、地面には赤い血が点々としている。
私は駆け足で黒煙を目印に小規模ながら激しく燃えるベッドに向った。
私がベッドに近づくと蘭々と燃えるベッドの下から渇いた呻き声が聞こえる。
「・・・・・・うぅぅ・・かあ・ん」
ベッドの下を覗くと、燃えて炭の様になった民が2人。1人は下半身が潰れて息絶えている。もう一人は生きてはいるが、助かる見込みは欠片も無い。皮膚は全て炭化し、頭は禿げ上がりまるでアンデッドの様だ。其れでも確かに生きている。
私は少なからず彼女に同情した。焼かれて死ぬのは犯罪者ランクで云う所のAランク以上である。
散々に苦しみ抜いて其れでも思うことが親の事とは、子の親に対する愛情とは素晴らしい。
私は今だ呻き続ける子供の深い愛情に敬意を示し、その心臓に剣を入れる。
子供は「うっ・・・」と息を詰まらせた後、動かなくなった。
「さて、この火を消さなければな」
良いことをした後は気分が良くなる。
私は延焼を防ぐために周りの可燃性の物を火元から遠ざける作業に入る。私には他に仕事が有るのだ。ここは最低限の処置をして、後は部下に任せれば良い。
私が作業に入ろうとすると風に乗って小さな声が聞こえてきた。
「・・・すぅ・・・すぅ・・・」
私は不思議に思い、声の元へ向かう。燃え盛るベッドの丁度反対側。火から少し離れたベッドを使い黒髪の幼い少女が寝息を立てていた。
私の時間が止まる。
黒く艶のある髪は白いシーツに投げ出され翼を広げる鴉の様であり、口から漏れる寝息は女神の祝福の様に心地良い。
透き通るような白い肌は日の光を薄く反射し、輝いているようにさえ見える。
黒い翼に輝く白い肌、福音を地上に授ける幼い少女。
その姿は正に、光に愛される女神であった。
「・・・ハッ!」
私の身体が急に空気を欲する。
呼吸が止まっていたのだろうか、長距離を限界迄走った後のようなだらし無い口呼吸が遠く透き通る清涼たる青空に吸い込まれて行った。
冷たい空気で思考がはっきりとしてくると、私は愚かな蒐集欲と独占欲に従い目の前の女神を優しく抱え、連れ出した。
◇
私は速足で部下の元へ向かっていた。
手中の女神になるべく負荷を掛けないように、女神の睡眠を妨げないようにと注意を払いつつも町の人々の視線を受けぬように入り組み、細い路地を行く。
「ファウスさんッ!」
大声で私を呼んだのは対獣装備の仲間の一人。顔を隠す鉄鋼製のフルフェイスのせいで声がくぐもっている。
「早く此方へ!本隊が目視出来るまで近づいて来ています!」
「なに?予定よりかなり早いな」
後1時間以上は余裕が有ると考えていたが、随分と早い。しかし、対した問題では無い。なにせーーー
「もう終わったのだ。何も焦る必要もない筈」
それよりも女神を私の城へ連れて帰らなければ。
「早急に私を案内しろ、いいか早急にだ」
愚かな団長に保護の名目で女神を横取りされる可能性も有るのだ。何よりも急がなければならない。
私は先行する騎士の後に続き、荷馬車の有る裏道へと向かった。
「ファウスさん!このまま発ちます。急いで下さい」
裏道に着いた私を見つけるなり、カイゼルが駆け寄ってくる。
「分かっている。運び屋と共に発て。お前と後2人運び屋の護衛に着いて行け。彼女を何よりも優先しろ」
私はシーツごと優しく女神を馬車の荷台に寝かし、カイゼルに命令した後、振り返らずに町の中心に駆けて行った。
「女神よ、暫しのお別れです 」
愛しい女神のことを思いながら。




