011 道中(その2)
あらすじ
騎士様が町へ向かうようです。
ごとん、ごとん。
今私は格子状の鉄に囲まれながら、道の起伏に沿って並行移動している。
木製の車輪がその中央にある軸を中心にクルクルと回転するが、車輪の精度が悪く半回転する度にその車体を小さく揺らす。
今や高い所から私を見下していた日は大地に堕ち、私よりも低い所にある。
しかし、行先にある闇に濡れた道は先5、6メートル程度の短い距離において、光で明るく照らされていた。
私はその場に座し、寝坊気ながら前方を向き、硬い木の板と共に揺れている。背中を格子に預け体勢の安定化を図るが、粗悪塗れの檻の中ではさして意味を成さない。
モゾモゾと動いていると格子の中の様子を見に来たのか、中世のヨーロッパを思わせる様な甲冑を着た鉄の騎士が此方を覗いていた。
「だれ?」
真っ先に出た疑問を問うと、若く落ち着いた男の声が帰ってきた。
「騎士だよ。」
騎士らしい。
自称騎士は私から目を外すと檻の中に目を向ける。
私も自称騎士と同じ様に周囲を見回すと同乗者が居た。
私に最も近い場所で蹲るのは、茶色の長い髪に髪と同色の目をした15、6歳程度の少女。頭には長い兎の様な耳が付いている。
その少女の右隣に居るのは、水色の髪に紅い目をした見た目麗しい女性。はだけた麻のワンピースから覗く白い肌には斬りつけた様な傷。だらしなく伸ばされた足の健からは出血が確認出来た。
その他にも12、3人程度の同乗者が居たが、全て若い女性で、何かしらの加工が施されていた。
私は目を細め、自称騎士に何処へ行くのかを聞いた。
「どこ行くの?」
「王都だよ。」
騎士は笑ながら答えた。
打てば響く騎士である。まるで鉄だ。甲冑の中身は空に違い無い。もし人間が入って居るのならば、頭の中が空に違いない。
自称騎士はハハハ、と笑ながらゆっくり進む檻の進行方向に戻って行った。
私は眠気から余計な事を考えているとガタンと大きく檻が揺れた。
先程から私に優しくない檻である。
私は立ち上がり最も近くに居る茶髪の畜生の元へ向かう。
茶髪はそれに気付いたのか此方に視線だけを向けるがやがて興味を無くしたかの様に顔を下に向けた。
私は蹲る畜生の前に着くと、兎の耳を掴み無理矢理顔を上げさせる。何本か髪が抜けたが大した事ではない。
私は驚いた様な間抜けた顔をしている兎の肩を強く掴み砕いた後、仰向けに倒して兎の足の健も深く傷付いている事を確認すると、腹部に腰掛ける。兎は屠殺される前の畜生の様に叫んだ。
その様子を見ていた同乗者は悲鳴を上げ、私の臀部の下に居る畜生は痛みに呻いている。
私は静かにする様に注意するが、何人かの幼い同乗者は大きく泣き声を上げて更に煩くなる。
今や檻の中は複数の泣き声と私が腰掛けている畜生の呻き声で支配された。
私は煩い同乗者を黙らせる為に魔法を使う。
「あーりえんばー」
呪文は鼓膜を揺らす程の高音から休符を挟み腹から濁った低音を出す。
唱えるだけで白い蜘蛛を3匹呼び出す召喚系の秘術だ。
私の小さな掌から小指の先ほどの大きさの蜘蛛が3匹吐き気を催す様な霧と共に召喚される。
私は召喚された白い蜘蛛を3匹共口の中に入れ良く噛み砕く。それを飲み込む前に左手で旧支配者第三の印を結び、右手の小指と人差し指で空にコスの記号を描いた。
口の中で細かく噛み砕いた後の白い蜘蛛を飲み込み、空気を微かに揺らす程度の声で深淵に住むものどもの囀りを模倣する。
「いぶん・すかかばお」
囀り声を上げると共に私の拳程度の大きさの肉塊がべチャリと音を立てて降ってきた。
良く観察すると紅い液体に塗れ、細かく脈打つ様に動いている。
私の下に居る畜生の目の前に落ちて来た為、ひぃっと小さな悲鳴が上がった。
私は未だに泣き止まぬ同乗者の一人に向けて小さな肉塊を投げつける。肉塊は同乗者の顔面に当たり、直ぐに口の中に入って行った。そして、数秒も経たない内に幼い同乗者は静かになった。
その様子を見ていた他の同乗者達は私から急速に距離を置き、檻の中で比較的年齢の熟している少女達が泣きながら幼い少女の口を抑えている。中には恐怖に耐えるかの様に抱き合いながら目を強く閉じている者や過呼吸気味に落ち着かぬ者もいた。
これで多少は静かになっただろう。騒音が響く社会から身を切り離したい衝動に駆られるが、周りが静かなら檻の中ででも多少は耐えられよう。
「あぁそうだ」
私は下の兎に目を向ける。
兎は泣きながら震えていた。先程の注意が効いたのか声を上げ無いように唇を噛んでいる。従順で大変宜しい。私はその頭を優しく撫でながら、
「王都に着いたら起こして。」
兎に抱き付いて眠りに就いた。




