010 道中(その1)
あらすじ
町で知り合った少女と一緒に暖を取りましたが町の少女には少し暑かった様です。
ーーー騎士Sideーーー
ゴルゴダの町を凶風が襲う。
宮廷の預言者アドゥルフが不吉な予言を出した。
彼の預言にはハズレがない。口数が少なく王に直接求められた時以外に自身から予言を口にする事は無かった。少なくとも今までは。
王はこの預言者に絶対の信頼を置いているし、それを見ている家臣たちも同様である。
そんな彼が不吉な事を言ったのだ。周囲は多いに慌て、ゴルゴダへ向かう遠征隊が即日編成された。
この王都からゴルゴダまで馬車で3日。被害者へ配布する食料を載せる為に更に進行は遅くなる。
ゴルゴダの被害が大きいと山賊達が此処とばかりに攻め入る可能性も否めない為に兵士では無く騎士団を遠征させる。
「と言うのが上の判断だ。今回の遠征は我等、王宮騎士団第7部隊《兄弟達》が征く。対人装備を着用し速やかに持ち場に付け。現地の民を1人でも多く助けるのだ。」
この俺ベルヘルク・ビュッセンヘルグは王都第一練習場に整列した我が兄弟達に命令する。
命令を聞いた瞬間から兄弟達は各員直様装備を整える為に散っていった。
他部隊より行動が速く、結束力や対人戦に置いての殲滅力が高い。今回の事件、王都の常駐部隊を緊急に派遣する事になった為に我々が選ばれたのだ。
王の信頼を裏切るわけにはいかない。我々は早々に遠征為るべく、装備を整える。
王の命令と同時に偵察隊を向かわせた。休み無く馬を駆ければ翌朝には到着為るだろう。一刻も早く現地の民を安心させる事が我等の使命である事に間違いはない。
俺が指揮する後発隊はその4日後以内の到着を目標として行動する。
俺は兄弟達に命令を下した後、練習場を後にする。
足早に向かう先は自身の屋敷。
俺の対人装備は特注品で値が貼る為、兵舎には置くことができない。
俺は自身の部隊の行動の早さに満足しながら練習場を出ると同時に後ろから声を掛けられる。
「ベル団長。お耳に入れたいことが。」
穏やかな低音。優しさに満ちたこの声は。
俺は振り向かずに応えた。
「何だファウス、装備は整えたのか。」
彼はファウス。ファウス・ヴィッツ。白髪に灰色の混じった碧目。細身の引き締まった身体と溢れ出る気品。振り返らずとも彼だと分かる程に存在感がある。
彼は元商人で爵位を買った資産家である。彼の持つ多くの資産は貧しい民に分配され、貧民の雇用、孤児院の経営、教会の炊き出しの援助等『弱い者を助ける』事を徹底している。
折角爵位を買ったにも関わらず、民を助ける為と言って騎士に成った変わり者でもある。
「偶然にも巡回日でして、私と他3名は装備置換の必要はありません。」
しかし、王家から爵位を頂戴し騎士になった彼の、絶えない資産は何処から来るのか。
資産は有限であり、騎士になった以上商人としての稼ぎは無くなる。
爵位とは、例え大商人と言われる人物でさえ暫くの節制を強いられる程に価値が有る称号である。
「成る程、其れで話とは何だ?」
故に、その称号の価値以上に稼がなければ爵位を買った意味がない。商人ならこの称号を上手く使い、更に商売の幅を大きく出来ただろう。しかし彼は、ファウスは騎士になった。それでは爵位を買った意味がない。騎士団では爵位などの称号は関係無くなる。個人の戦闘力や指揮力等の暴力が評価される。貴族だから、商人だからと言って特別視はされない。
行動の一貫性が見当たらない。
故に理解できない。
彼の優しげな声や顔は何か恐ろしい事を隠すためのフェイクなのだ。
兄弟達の団員ではあるが、こいつだけは信用出来ない。信用してはいけない。と俺は断定する。
「今直ぐに発つ先発と後発隊に分けるべきです。偵察隊では民を安全地帯に誘導するには少な過ぎます。」
確かに、先に向かわせた偵察隊は5騎。400を超える町の住民を避難させるには不十分。だが、
「何をそんなに慌てる?」
町には他の兵士が居る。彼等が町の住民を避難させる為に尽力する事は疑い用がない。
偵察隊とは言うが、後発に情報を伝えることが出来れば任務は終了するのだ。状況によっては1人だけ報告のため後発と合流し、他はそのまま町の兵士達の指揮を執る筈だ。
振り向かずともファウスが焦っているのが解る。
この様な教養さえあれば子供でも解る事を態々論ずる等、時間の無駄に他ならない。
「大変私的な事なのですが」
言い難い事を言う様な声でファウスが喋る。騎士団において私事を持ち出す事は禁じられている。ファウスも其れを解っているのだろう。
「ゴルゴダには妻子が居りまして。」
驚いた。
ファウスが所帯を持っていたのも驚いたが何よりも、流される侭に行動していたファウスが初めて俺に意見したことにだ。其処には俺に我儘を通そうとする気概が有った。
俺はファウスに理解し難い不気味な印象を持っていたが、初めて彼の人間性に触れた気がした。今ファウスは命令に反してでもゴルゴダに駆け付けようとしている。
ならば、
「ならば、5名以上の先発隊を組んで征け。」
我が兄弟達の家族の命が掛かっているのだ。野盗が出ても損害が無い数を揃えて征けば問題無い。
ファウスは驚いた様に声を詰まらせたが、
「ありがとうございます。」
いつも通りの優しげな、いつもとは違う少し震えた声で感謝の言葉を伝えた。
俺は何も応えずに屋敷へ向かう。
後発隊の出発はそれから4時間後となった。
今回はギャグ成分が多すぎた様です。




