001 信仰と洗礼と幼女(その1)
導入です。
この私、内原 大を知る人の評価は、信心深いキリスト教の信者である。
大学を卒業し、一流の企業に就職出来た迄は良かったが、社の雰囲気が自身に合わず、日々に疲れて居た所、通勤路で見つけた教会の前に貼られていた御言葉が『疲れたもの、重荷を背負うものは教会に来なさい』と言う聖句であった。
仕事と人間関係に疲れていた私は、その聖句を見て教会に入った。
教会で牧師に人間関係の相談をしている内に毎週教会に通う様になり今に至る。
今週も教会での勉強会を終え、昼餉を食べた後に、教会の後片付けーーとしている間に夕方になってしまった。
「内原くん、すまないが倉庫に行ってロウソクをとってきてくれないかい?」
「良いですよ。何本必要ですか?」
「明日の礼拝に使うから8本」
よろしくね。と言って礼拝堂に向かう。明日に備えて掃除を始めるらしい。私は牧師を見送った後、倉庫に向かった。
倉庫は教会の裏手にあり、教会での行事に使う道具が置いてある。
食料庫も兼ねており、ワインが数本とパンが置いてある。7畳半と教会の倉庫としては大き目である。
窓は有るが夕方であるため倉庫内は真っ暗闇だ。
「ロウソクは奥の方だったな」
倉庫に入り、入口にある電気のスイッチを入れるが電球が切れているようで光が付かない。私は携帯電話の明かりを使い倉庫の奥に向かった。
目が暗闇に慣れたので、携帯電話の明かりを消し、奥の棚でゴソゴソとロウソクを探していると部屋が少し明るくなる。窓に目をやると雲の間から満月が覗いてていた。
「幸運だな。」
部屋に掛かる月明かりに照らされた倉庫の棚でロウソクは直ぐに見つかった。
さて、帰るか。と入口の方に目を向けると月の光がドアを照らし、見たことの無いような模様が青白く浮かんでいる。
近付いて良く見ると、ミミズがのたうちまわった跡の様な文字、その下には円の中に五芒星。中央には燃える炎の如しものが描かれている。
私の影の下に入ると文字が消える事から察するに、月光の下でのみ現れる特殊なインクを使っているらしい。 突然の出来事に驚き、光っている文字を指でなぞる。なぞった後の文字が紅く色を変え、ドアから離れて空に浮く。
全ての文字が空に浮くと、ドアには文字の下の五芒星とその中央に描かれた炎の如く物のみになった。
空に浮かぶ知らない文字の意味が直接脳に叩き込まれる様な感覚を覚え思わず呟く。
「神の洗礼を受けよ、全ての腐敗が取り除かれる。か」
私は既にキリスト教教会での洗礼を受けている。仏教とは違い、神は唯一、神聖四文字のみである事を信じると誓ったため、他の宗教での洗礼は受けないし、同じキリスト教であるなら再度洗礼を受ける必要はない。
故にそのまま倉庫を後にするためドアに手をかけた。その瞬間。五芒星の中央の炎の如く物が燃え上がり、私を呑み込んだ。意識が遠のく中、澄み水の様で静かな女性の声が聞こえる。
「やっと、見つけました。我々は貴方を祝福します。・・・このアウターゴッドがなぁ!」
美しく澄んでいた声が、急にノイズ交じりの悪辣さを含む声に変わる。
星の間の暗闇の様な寒い視線を感じながら私は意識を閉ざした。
「始めましょう。我々の洗礼を。」
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