俺の婚約者が可愛すぎて動悸が止まらない
短編第3弾
「晴樹様、もし誰か...好きな方が現れたらちゃんと仰ってくださいね?」
俺、神田晴樹の婚約者である椎名友里亜が突然こんなことを言い出した。勿論そんなこと言われて分かりましたと返事なぞ出来るわけがない。直ぐに友里亜に問いただした。すると友里亜はその綺麗な瞳を潤ませぽつりぽつりと話始めた。
「わたくし実は前世の記憶がありまして...と言っても、つい先日思い出したのですけれど、この世界は前世で人気だった乙女ゲームにそっくりなんです。そのゲームに出てくる攻略対象者の一人に晴樹様そっくりな方がいて...」
「うん、色々突っ込みたいところはあるが、ここは現実だ。その乙女ゲームってやつに俺に似たやつが出てもそれはゲームだろ?」
ただ似ているだけで可愛い婚約者と離れる理由にはならない。
「えっと...出てくるのは晴樹様だけではないんです。ヒロインの恋路を邪魔する攻略対象者の婚約者として私もいたんです」
「ふーん...じゃあさ、その乙女ゲームのストーリーに準えると俺と友里亜はどうなるんだ?」
信じたわけではないが、友里亜がここまで真剣に言っているんだ。楽観視できる内容ではないのだろう。
「わたくし達が2年生に上がる頃、彼女が入学してきます。晴樹様はメイン攻略者なので、ヒロインと一番最初に出会いイベントが発生します。そこで晴樹様はヒロインに興味をもち、いつしかヒロインを女性として愛するようになり...わたくしは...晴樹様に婚約破棄され失意のうちに学園を去ります」
言うのも辛いのだろう。声は震え、はらはらと綺麗な涙が次から次へ零れ落ちている。俺はそんな友里亜を見ていられずに震える彼女を抱きしめた。
「馬鹿だな友里亜。俺が友里亜を捨てる?あり得ないよ。俺がどれだけ友里亜を愛しているか知ってるだろ?そもそも俺達が婚約したのだって俺が小さな友里亜に一目惚れして俺と友里亜の両親に頼み込んだからだ」
あれは運命の出会いだった。俺と友里亜の両親は友人だったらしく俺達にも仲良くなってもらおうと引き合わせられたんだ。友里亜の家で出会った俺は雷に撃たれたような衝撃を受けた。黒く艶やかな長い髪と同じく黒真珠のように輝く瞳。肌は白く頬はほんのりぴんく色で唇は赤くぷるんとしていて、母に読んでもらった白雪姫そのままだと幼いながらに思ったものだ。彼女の母親の後ろに隠れて恐る恐る此方の様子を窺っているその姿も悶えるほど可愛らしかった。ぷるぷる震える友里亜に一目惚れした俺は両親達にその場で「友里亜をお嫁さんにする!」と宣言したのだ。まあ最初は子どもながらの冗談だろうと思われたが俺の異常なまでの友里亜への愛が伝わり、ちょうど1年後に俺達は正式に婚約したのだった。それからも俺の友里亜への愛は止まることを知らず年々増しているんだけど、そんな友里亜しか愛せない俺が友里亜を捨てる?出会って間もないヒロインとやらを愛する?天地がひっくり返ってもあり得ない。
「俺が友里亜に捨てられるならまだしも...」
「そんな!わたくしが晴樹様を捨てるなんてあり得ませんわ!」
その言葉を聞いて俺の気持ちは一気に浮上する。友里亜もちゃんと俺を好いてくれている。だけど俺のほうがずっとずっと友里亜を愛している。友里亜が万が一にでも他の男を選べば死ねるくらいには...そんなことは本人には言えないけどな。俺は不安気な顔をしている友里亜の額にキスを落とし、友里亜にだけ見せる甘い笑顔を向けた。
「うん、友里亜は絶対にそんなことはしないって分かってるよ。それくらい俺が友里亜を捨てるってことがあり得ないってこと。それにしても、こんなに俺は友里亜を愛しているのに...まだ俺の愛が足りないってことだな」
ニヤリと俺は意地悪く笑う。良からぬことを考えているのが分かったのだろう。友里亜は俺から少し離れ無理矢理笑顔を作ってみせる。
「あ、の...晴樹様のお気持ちはじゅうぶん、分かりました!」
「そうかぁ?ちゃんと分かっていたならあんなこと言わないよなぁ?俺が他に誰か好きになるとか...俺の愛を疑っていたってことだろ?言葉だけじゃ足りないってことだよな?そうかそうか、ならその体にちゃぁんと知ってもらわないとなぁ?」
「あ...うぅ...」
ペロリと舌舐めずりすると友里亜は「ひっ」と悲鳴をあげる。その姿すら愛らしい。
「クスッ、冗談だ。俺が結婚できる歳までは残念ながら触れてはいけないと言われてるからな。お仕置きしたいけど、止まらない自信があるからな」
「やだ、晴樹様ったら」
顔を真っ赤にして上目使い...そんな顔は俺の前でだけしてほしい。あと2年弱、俺我慢出来るのだろうか...早く友里亜を心身とも俺のものにしてしまいたいが清い体でヴァージンロードを歩く友里亜も見たい。この葛藤は18歳になるまで続くんだろうが幸せな悩みだから甘んじて受けよう。
「まあ、もし友里亜の言うようにそのヒロインが現れても、友里亜は俺から離れるなよ?俺達のことを見せつけてやればそのうち諦めるだろ」
「はい、晴樹様の傍を離れませんわ」
春の木漏れ日のような暖かい笑顔の友里亜が天使だ。どうやら俺の敵はヒロインではなく自分の理性だったようだ。
その後、2年生に進級した俺達の前にヒロインという名の邪魔物が現れたが、正直天使な友里亜に比べたら塵程度の存在だったし友里亜が可愛すぎてヒロインが目に入らずイベントとやらも悉く発生しなかった。
「ちょっとどういうこと!?なんで私じゃくてお邪魔婚約者と仲良くなってんの!?」
なんて言っていたらしいが、相変わらず友里亜にべったりくっついていた俺には知ったことではない。
はあ、友里亜が可愛すぎて欲求を抑えるのが辛い。