勇者は強い
*共作コーネリアスを舞台にした小説。他の作品は「惑星コーネリアス」で検索してください*
「勇者」
と、言えば、皆さん何と無くだけど、想像出来るだろう。
人各々《それぞれ》イメージに違いはあるかも知れないが、大体の人達は、甲冑に身を包み、剣を構えて世界を救う−−−
みたいなイメージだろう。
御伽噺や、ファンタジー小説ではお馴染みである。
まぁ、最近の頭の良くない若者は、危険な事をしたり、人に迷惑を掛ける事をする阿呆を勇者と言って称えたりする事もあるらしいから、全く困った物だ……
それはさて置き、とりあえず今この地球という惑星の中には、魔王と戦う勇者は多分居ないだろう(探せば居るかも?)
だが、とある惑星のとある国には、今も勇者が居るという。
皆さんが想像している『勇者』が。
今から話すのは、そんな勇者が、仕事で来たあり国で起こった、不思議な、奇妙な『少女』のお噺し。
*****
「……」
ひゅう
と、冷たい砂混じりの北風が吹き付ける。目に入ると痛いし、口に入れば気持ち悪い。
歩く度にじゃり、と音を鳴らす乾いた地面。それと自分の吐息の音だけが、耳に聞こえる。
たまに空を見上げると、墨を水に溶かした様に黒ずんだ空が広がり、無駄に嫌な雰囲気を醸し出す。
辺りには草木一本生えていない、不毛な地が陸続としていた。
暫く、そんな道を延々と歩いていた。
「ふう……」
小さく、溜め息をつく。
俺はしがない旅人、では無いか。
王に命ぜられ、各地で敵国や、魔物、時には魔王の討伐が主な任務だ。
要するに、俺は俗に言う『勇者』って奴だ。
今日も律儀に、王の赴くまま、職務をこなそうとする。
忠誠心や正義感による行動では無い。
ただ、勇者とはそう言う物だから。
ただ、そんな掟に、柵に、呪いに、ただ従っているだけだ。
生まれた時から決められていた、運命なのだ。
俺はそんなの、正直クソ食らえだが…
まぁしかし、前置きは此処までにして置こう。
でないと長ったらしくなって、物語がつまらなくなるから。
本題に入ろう。
今回の仕事は「魔物の討伐」だ。
……何の魔物かは伝えられていない。
そんな、何とも簡潔な情報しか与えられていない。
最近の勇者はそんな感じの扱われ方だ。
昔の勇者はもう少し位、大切にされ、勇者が死ぬ時は王も哀しんだと聞いたが、代を追う毎に、段々と冷たくなっていったらしい。
何故かは分からないが、恐らく、王より活躍し、民衆に人気の有る勇者が、気に入らないのだろう。嫉妬と言い換えてもいい。
いや、寧ろ恐れだと思う。
若しも勇者が、或いは民衆が反旗を翻すとなってしまったら、どの道、勇者自身が大衆を煽動し、王家に刃を向ける形になるだろう。
王はそれを恐れた。
だから最近は、民衆にも、勇者の俺にも一応、不満を産ませない無いようにする事に、躍起になっているらしい。
民衆には、税を下げてやったり、徳政令を出してやったりと、随分と良く接している。 お陰で、国の財政は火の車だ。ただでさえ良く無かったのが、いよいよより一層、拍車が掛かる一方だ。
しかし、そのかいあってか、今の王室の人気は、歴代の中でも類を見ない程に高まり、圧倒的な支持率を叩き出している。
だが決して、民を思っての行動では無い。
真っ赤な『嘘』
偽りの愛情だ。
自分の地位を脅かす『敵』を作りたく無いからだ。
……今の王を見ていると、つくづく時の流れとは、恐ろしい物だと思う。
曾て若かかりし頃の王は本当に心からの『慈愛』で、民を労い、気遣い、触れ会い、接したのだ。
昔は今よりも、国が余り豊では無かった時代だった。
しかし、代わりに王は、精一杯の『愛』を持って、民を守った。
一部、その愛の届か無い者もいて、今より支持する者も少なかったが、それでも王はめげずに、『勇者』と共に、民を守りながら戦った。
それが今では、己の保身しか頭に無い、屑になり果ててしまった。
最早ただの『自愛』だ。
代は違う故、その英談しか(先代から)聞いて無かったが、それでも残念な気持ちになる。
*****
「……ここか」
漸く目的地に到着した。
地図を片手に、目の前の大きな門を見上げた。
門扉や、壁の灰色の汚れと傷は、この国の歴史を彷彿とさせる。
門に向かって歩を進めると。
ヒュンッ
と、何かが飛ぶ音が聞こえ。
ザンッ
と、勇者の地面に足下に突き刺さる。
下を見ると見下げる、白羽の矢が刺さっていた。
(相変わらず、何処も物騒だなぁ)
勇者は思った。
矢の飛んで来た方向を見上げると、壁の銃眼から、弓矢を構えた兵士が、此方を睨み付けていた。
最近は、何処の国も地方もピリピリとしている。
ここ最近、妙な程、魔物達が頻繁に、彼方此方に出没する様になっていた。
それ故に、ここら一帯の国々は、常に臨戦状態と言う感じだった。
そこに、見ず知らずの不審者が無言で門に近付いて来るのだ。
威嚇射撃くらい、されるのは仕方無いか。
「貴様は何者だ?」
兵士が口を開いた。
構える弓の鏃がギラリと此方を睨む。
弓矢の弦に込める力を緩める気配は無い。
「勇者だ」
と、短く返す。
「証拠は?」
と、兵士も短く返した。
「これだ」
と、勇者は腰に帯びた剣の柄に手を掛ける。
しゅらん
と、美しい音を奏で、鞘から抜かれる。
細身で長く、美しい銀色に、龍の姿をあしらった刀身、柄の中央には、勇者が仕える王国の紋章が刻まれていた。
抜いた剣を片手で上げ、天に突き立てる様に構える。
勇者の剣エクスカリバー。
勇者の証だ。
それを持つ者は、紛う事無く、本物の勇者である。
どんな凡人にも分かる。
その剣の煌めきが偽りでは無いと。
「申し訳有りません、御無礼を御許し下さい」
先程矢を放った兵士がわざわざ下まで降りて来て、勇者に謝罪した。
「いや、いいよ別に」
勇者は苦笑で返す。
「そんな事より、この国の国王の所まで案内してくれないかな?」
と、言うと。
「も、勿論、承知致しました!」
と、笑顔で兵士は答えた。
「今馬車を手配致します、少々お待ちを…」
「うん」
そう返すと、兵士は門の奥へと一旦戻って行った。
<つづく>