第一話
朝
それは、人々が眠りから目覚め、1日の行動する為の始まりの時間である。
夜が明けて、太陽が眩しく、世界を照らし出す。
そして
「レネー!いい加減に起きなさい!」
「うーん・・・・・あと5分・・ZZZ・・・」
ここに、この物語の主役を担う青年が自分の部屋のベッドで思いっきり眠りこけていた。
「レネ!モタモタしてたら遅刻するわよ!」
先ほどから、母親らしき女性からの怒声にも耳も傾けず、彼は眠りから覚めない。
いや、正確には一応起きてはいるが、起きたくないというのが正解だろう。
この青年、レネと言われている青年は実のところあまり朝には強くない。
(・・・もうちょっと寝かせてくれよ・・・・・)
そんな現実逃避みたいな考えを抱きながら、彼は再度眠りを敢行しようとした。
が
『コラー!いい加減起きろ!』
「zzz・・ガハッ!!」
そうは問屋が落とさなかった。
先ほどの女性とは別の若い女子の怒声と共に、彼が寝ているベッドに何かが叩き込まれた。
当然、寝ていた彼には避ける等出来る筈もなく、見事彼の腹部に直撃し、彼が悲鳴を挙げた。
『もうレネったら!おばさんが何度も起こそうとしてくれているのに、なんで起きないの?』
声の主が彼に問いただすが、当の彼はそんな場合ではなかった。
何かが叩き込まれた場所が彼の腹部だった事と叩き込まれた力が予想外に強かった為、上手く呼吸が出来ず、悶絶していたからだ。
『だいたいレネは・・・・・どうしたの?そんなにうずくまって。』
「お前な・・・・・・・・寝てるやつに対して、エルボードロップはねえだろ・・・・」
『仕方がないじゃない。あんたが起きないから悪いのよ。』
「そもそも、なんでお前がこんな時間にここにいるんだよ沙世!!」
そう言われて少女、太刀川 沙世は苦笑しながら、レネに向かって
『つい早起きしたから来ちゃった。』
そう堂々と言い放つ。
「なにがついだ!!俺の睡眠妨害しやがって・・・」
レネはゆっくりと起き上がり彼女を見る。
腰まで伸びた黒髪
運動部ゆえの鍛えられた体
凛とした顔立ち
それが太刀川 沙世である。
その容姿故、周りからは彼女のファンが絶えず増えているらしい。
「とりあえずさ、着替えるから部屋から出てくれ。」
『りょーかい』
レネがそういうと、沙世は何故か敬礼をして部屋を出て行った。
「なんなんだよ・・・・ったく」
レネはため息をつきながら、クローゼットを開け、中から制服を取り出し、着替える。
白のシャツの上に黒のブレザー
下は青色のズボン
それが彼の通う学校の制服である。
『どう?着替えた?』
着替えた直後、扉が開き、沙世が顔を覗かせながらレネに尋ねる。
「今さっき終わったよ。それにしても男に部屋に対して、堂々と覗くよなお前」
『そりゃあ、幼馴染みですから!!』
レネの問いに何故か、沙世は即答する。
「どういう理屈だよ!大体、お前ってやつはな・・・」
レネが沙世に言おうとした瞬間
パコーン!
「ぐはっ!!」
沙世の顔の隣りから、黒い何かが通り抜け、そのままレネの顔面を直撃した。
顔を手で覆いながら、床を転がるレネ。
『ははは・・・・』
それを見ながら、沙世は苦笑いしながら、後ろを振り返る。
『なにも、フライパンを投げなくていいんじゃないかな高美さん。』
「いいのよ沙世ちゃん。レネも少しは早起きすれば、私がこんな事しなくて済むのにね。」
そう言うと、レネの母坂中 高美はレネの部屋に入り、彼の近くに落ちていた投げたフライパンを拾いあげる。
「痛ってェ、何するんだよ!鼻血が出かけそうになっただろうが!」
鼻を押さえながら、レネは立ち上がりながら高美を睨みつける
「出ればよかったじゃないか。おかげで少しは頭も良くなるんじゃないかね?」
「なるかボケ!!間違ってあたり場所当たったら、そのまま永眠するだろうが!!」
「そん時は、そん時さ。」
完全に話を流され、怒り心頭の表情のレネ
はたまた、完全に話を流し続ける母
『また、このパターンか・・・』
いつもの日常風景を見ながら、沙世は微笑ましい視線でそれを見守っていた。