閑話
「塩と真水の輸送、何とか山は越えたか」
ふう、と息を吐いたキリクは凝り固まった首と肩を回し解す
レインから送られてきた緊急の文は、エンチュウによる被害への援助要請で、移民対処に追われるなか、キリク指導のもと影の民と翼を持つ疾風達獣人が動いた
塩と水は生物が生きる上で必用不可欠だからと物資輸送は急ぎで行われた
「キリクの坊や、報告に来たぇ」
「サツキ姐さん。エンチュウはウチにも来たのかい?」
艶やかな花魁のような衣装を身に纏った妙齢の女性が現れ笑うと傍にいた鷲の獣人が三歩下がる
「白斗、失礼じゃないかぃ。妾が来た途端後ろに下がるなんて」
「本能だ」
「全く。レイン様の方が余程肝が据わっておいでだよ
雄なんだからもっと強くなくてどうするんだぃ」
やれやれ、と首を横に振り呆れたように溜め息を吐くサツキに白斗は青筋を浮かべながらも足は後ろに引いたままだ
「雄だからこそ、だろう
お前達女郎蜘蛛は雄しか喰わないだろうが」
悔しそうに吐き捨てた白斗にサツキは笑う
「まあそうだがねぇ、言っておくが此処10年は獣人も半獣も勿論人間も食べてないよ。」
「それが入領条件だからだろ」
「そうさ。
ちまっこく、愛らしい笑顔で出された条件なんだ。従わなくてどうする。」
ふふんと胸を張るサツキに白斗は呆れた表情をした
「女尊男卑だぞ
それにレイン様至上主義者め」
「ふん。世の中の男尊女卑な風潮のが可笑しいさね。
レイン様至上主義者は妾達だけじゃないしね
お前もじゃないか。
それより、キリクの坊や、報告して構わないかぇ?」
「ああ、頼むよ」
サツキと白斗のやり取りを笑って聞いていたキリクは、口元の笑みが消えぬまま頷いた
「シュレイアに迷いこんだエンチュウは、片手ほど。それら全て妾達が頂いた
エンチュウは珍味じゃし、片手あれば一族に行き渡る。妾達としては今年は大漁で嬉しいよ」
片手を広げて見せたサツキは艶然と笑う
「50か、今年は多いな。
君達が居てくれて助かるよ。サツキ
ありがとう」
「おやまあ、嬉しいことを。
しかし、妾達は餌を捕っただけさね。」
クスクスと笑うサツキにキリクはそれでも、と笑った
「ふふ、本当にイイ男だ」
「食べるなよ」
「白斗、妾を節操なしのように言うのはお止めよ
及び腰の癖に言葉だけは一人前だねぇ。
あんまり妾達を馬鹿にするなら、その白髪頭を食べちまうよ」
「白頭鷲の獣人なんだから、頭が白いのは仕方ないだろ。白髪言うんじゃねぇよ!
お前こそ俺を余り馬鹿にするなら、そのお綺麗な顔を鉤爪で無惨なモノに変えてやるぞ」
「はい、止めー
ったく、二人とも大人げないぞ
姐さんもハクトも瞳孔開いているし。
あんま喧嘩するならレインに言うからな」
「・・・それは勘弁願いたいねぇ
分かったよ。妾も300越えたイイ大人の雌だ
妾が引くべきだったね
すまないね、キリクの坊や」
「いや、俺こそ誇り高き空の戦士たる白頭鷲の獣人として、引くべきだった。
世話を掛けたな、キリク殿」
「二人とも仕方ないな・・・俺に謝ってどうするんだよ」
やれやれ、と息を吐くキリクだが、サツキと白斗が謝る気配はない
「・・・気を取り直して、だ
姐さんは引き続き国境に待機していてくれ。何人かは、北の山にも回してくれると助かるよ」
「双頭の狼の根城に行くのは乗り気しないが、まあ仕方ないねぇ」
「ハクトはハヤテが帰り次第、交代で飛んでほしい。」
「お安いご用だ。」
「頼むよ。レインが戻り次第指揮は代わる」
「レイン様ねぇ・・・余計な事に巻き込まれてそうな予感がするぇ」
「・・・それは全く同意する」
「(そういう点では信用ないな。妹よ)」
遠く離れた龍山ではレインが嚔をしていたとかしていないとか