樹龍の驚きと喜び
赤龍が目を覚まし、レインの心に触れた翌日、太陽は中点を指そうという時の事
屋敷に扉を叩く音が響いた
「客人か?」
「来客予定なんて無かったと思いましたが。
・・・いけないわ。今日は誰もいないんでした!!」
少し御側を離れます。そう言ってレインは赤龍の休む部屋を、身分ある娘にあるまじくも駆け全力疾走していった
毎度毎度、彼女には驚かされてばかりだ。赤龍は彼を知る者ならば驚くほど柔らかな表情をしていた。
一方のレインは、無駄に長い廊下を駆け抜け階段を5段飛ばしで降り、正面の無駄に大きな玄関扉の前で息を吐く
流石に荒い息でお客様を迎えることはできない。この辺だけは母親の躾の賜物だ。
ぜーハーぜーハーという荒い息が整って漸く扉を少し開ける。こんな時、現代日本を生きたレインはインターホンが有れば良かったのに。と思ってしまう
「・・・・・失礼。此方に赤龍が御邪魔していると伺ったのですが」
赤龍も結構な美男子だが眼前の客人も結構な美人さんだ。
流れる碧色の髪を緩やかに纏めた見上げる身長の美人さんを失礼のない程度に見て、
その正体を察して目上に対する最上級の礼をして見せた
「樹龍様とお見受けいたします。私、当家の次女でレイン=シュレイアと申します。
赤龍様の元へご案内いたしますわ」
どうぞこちらに、と先導して案内するレイン。まさか粛々と歩く娘が先ほど廊下と階段を全力疾走したとは思えないだろう。
樹龍もまた、眼前の後ろ姿の娘が書状の娘かと不躾ではない程度に眺めた
目立つ顔立ちではないが、きちんと礼儀は学んでいるようだし、他の領主の娘と違い、龍族の優秀すぎるほど優秀な鼻を刺激するような香水や白粉の匂いもしない。
どちらかと言えば若草の匂いのする現段階においてはかなり好印象が持てた
「失礼いたします。赤龍様、樹龍様がおいでになられまいしたわ」
扉をノックし中から赤龍の許可の声が聞こえると扉をゆっくり開けて樹龍を中に
「御話もあると思いますので、私はお茶を用意してまいります。何かご入り用でしたらベルを鳴らして下さいませ」
及第点。というか態度としては満点に近い。
独りレインに評価をした樹龍はレインを見送り、同じく視線だけで彼女を見送っていた赤龍に目を向ける
「今回は随分酷い怪我だったのか?」
「あぁ・・・龍の牙で創られた矢で射られた。猛毒が塗ってあったせいで起き上がれなかった。
最も、もうそいつらは殲滅したし
毒はレインがすぐに処方してくれた。
・・・今は龍の血が消しきれなかった毒を消すために渦巻いてるせいで体が重いだけだ」
「ならばよかった。
・・・・・黄龍様が案じておられたぞ。全く、毎回無茶をする。すぐに特攻に走るのはお前の悪い癖だ」
最近似たセリフを聞いたと赤龍は苦笑した
「・・・・・・レインにも言われた。噂に聞く、特攻をおやめいただきたいと。」
「(良い表情じゃないか。)・・・・・随分心を開いているのだな」
「・・・・あぁ。あいつは、俺を見て怯えぬ。
優しい目をしていると言った。
そんな訳がないと、わかっているのに、ちゃんと視線が絡まり、怯えられることなく会話をする事が嬉しい。
こんな人間もいるのか・・・と驚いた」
「そうか。私からも礼を言わねばなるまい」
赤龍を救ってくれたことへの礼を。心から。
婚約者などいないのであれば是非赤龍の番になって欲しいものだな・・・
黄龍様に進言してみようか
きっとあの方も赤龍のこのような穏やかな顔を見たら是が非でも賛成なさる事だろう