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魔王

「やれやれ、無粋な真似はよせ」


クラウスは空気をつかむように、容易く暴れる精霊を掴み、嘲笑った

決してレイン達には見せない、魔王らしい顔

そんなクラウスの傍らに控えたウェルチは、無表情に魔力で生成された檻を差し出した


「魔王様」


「幾ら優秀な精霊であっても、儂から逃れることは出来ん。」


「情報を吐かせた後は如何なさいますか?」


「魔獣の餌にすれば良い。しかし、夜会が終わるまでは、異空間に閉じ込めよ」


「御意」


暴れる精霊をウェルチに引き渡したクラウスは、ずらした空間から外を見る

夜会の会場は変わらず賑やかで、まさしく別世界だ


「まさか、因縁ある輩を始末する機会が来るとは思わなかった


煩わしいエルフを始末でき、且つ精霊も喰えるとは」


精霊は、魔族にとってご馳走だ

純粋な自然から生じた力の塊は、食せばそのまま魔力に換わり、魔族のレベルを上げる


そんな精霊が身を守る為に魔族を近寄らせない独自の結界術がある森のエルフと協力体制になったのはそれほど昔の話ではない


エルフは、精霊の力を利用して結界術を強化し、更に戦う力を得て、情報を集める手段を得た


精霊はエルフの結界術で身を守り、更に溜まりすぎた自然の力の塊をエルフに与えることで力の暴走、暴発を抑えた


そんなエルフと精霊を魔族が排除するには、拠点を明確にしなければならない

結界によって居所を隠しているが、居所さえ分かれば空間を歪ませ結界を越えれば良い


強引と言われようと、それが魔族であり、魔王だ


「魔王様、コレで結界内に閉じ込めていた精霊は全部です」


「左様か。さて、一先ずはツユリに伝えるかのぅ


あやつにとって、憎き存在じゃからな」


クッと笑って、目を細めたクラウスは、ゆっくりと異空間から出た


人避けの魔術を使い、空間を歪ませていた為クラウスの不在に気付けたのは極少数の力あるものだけだ


特にツユリは不在の事情も気付いたようで足早にクラウスの傍に寄る


「捕らえたのかぇ」


「バッチリじゃ。これで龍山に居た精霊は全て捕らえた。後は吐かすだけじゃな」


にんまり笑うクラウスに、ツユリも嘲笑(わら)


「さて、此方の用は終った。レインの側の結界も解いていい加減邪魔しに行くかの


のう?ウェルチ」


「左様でございますね。」


「ワタシも行くかの」


「おぉ、そうじゃ。ツユリ、レインは相変わらず大物じゃぞ」


「また何かやらかしたのかぇ?」


「赤龍に、我等との出会いをイロイロの一言で済ませておった。全く、命が危なかったのに、すっかり過去の思い出じゃ」


クッと笑ったクラウスに、ツユリは面白そうに笑った


「そんなレインだからこそ、ワタシ達はあの娘がいとおしいのかもしれぬ」


「然り然り」


柔らかく穏やかな表情になった二人はバルコニーへと足を向けた








人が嫌いだった

魔王というだけで敵視され、大軍がアベルに押し寄せ魔族を排除しようとする

弱いのに徒党を組み、喚く喧しい存在



薄暗い森のなか、その魂に出会うまで人に対する感情は、負でしかなかった





「まおうさまなのに、まっくろじゃないのねぇ」


のほほんと笑う小さな人

魔族の手により、アベルの深い森に魂のみ浚われてきていた

見つけたのは偶然で、儂を見留めた魔族は慌てて逃げ、残ったのは小さな人・・・それも老婆の姿もチラリと見える変わった魂・・・だけ


小さくても、笑っていても同じことだと人の想像する醜悪な魔王に変身する




<儂が恐ろしいだろう人の子よ


見よこの角を、この牙を、この爪を!

柔らかな肌など容易く赤に染めるぞ>


「?そうねー。」


<恐ろしかろう>


「あらあら、こわがってほしいの?


でも、まおうさまこわくないわ」


きょとんとした顔で此方を見る幼子も、その中の老婆も、瞳に恐怖を宿していなかった


<何故恐れぬ


何故逃げぬ


何故、泣かぬ>


「だって、ほんとうにおそろしいものをしっているもの


みめより、こころをおににしたひとのほうが、ウンとおそろしいの」


貴方は怖くないわ、そう笑う魂に、変身するのもバカらしく術を解いた


「言っておくが、儂は人が嫌いじゃ。」


「あらあらそうなの」


「人は煩わしい。勝手に儂を危険視して排除しようとする。やり返せば、やはり魔王だと徒党を組み、大勢で押し寄せる


弱いのに。」


「そうねぇ。ひとはよわいからととうをくむし、よわいからみちがおそろしいのよ」


「未知?」


「このばあい、まぞくというそんざいかしら?まおうさまもだけど、ウンとおそろしくかかれたしょもつしかないのよ。すがたがかかれたものは」


本当の姿は、こんなにも美男子なのに、勿体無いわねぇ


「そうか」


「まおうさま、こんどぜひわがやにおこしくださいな。きっとまんぞくしていただけるよう、もてなします」


「帰るのか」


「はい。じかんぎれみたいですし、とどまっていたらしんでしまうみたいですから」


そう言って微笑む娘は確かに足元から消えつつある


「そうだな。確かに魂だけは危険だ

魔族にお前の魂はご馳走だ


仕方ない。押してやろう」


何となく、名残惜しく感じながらその小さな背に力を込めた手を添わす


「ああ、そうそう、わたし、レイン・シュレイアともうします」


「シュレイア?・・・そうか成程


・・・ならば近々訪ねるとしよう」


ぽんと背を押せば掻き消えた娘  


その名を聞いて納得した

シュレイア、稀有な魂の持ち主であり稀有な心の持ち主が揃う一族


固定観念に囚われず、柔軟な、しかし芯のある稀有な存在


「感情はある

まっさらな魂など有り得ない

生まれたてならいざ知らず。

・・・なのに、何故あの娘の魂は暗い感情に犯されないのだろうな」






「(そういえば、相変わらず謎のままじゃな)」


もういっそ、そういう存在だと思った方が良いかもしれない


そういう存在がいて可笑しくない世界だし


「(レイン、知らんじゃろ?


儂の放浪癖はそなたに出会ってからじゃ)」


世界を放浪し、自分という存在を、魔族を、見せてきた


これの成果か、魔族を排除しようとする人の軍勢は減ったのだ

煩わしさが減れば、残るのは興味ばかりで


「(赤龍、同じ土俵に立つまで待つ気はないからのぅ


塩は送った。もう背は押さぬ)」


レインと座っている男を見て笑ったクラウスは足早にレインの元に向かうのだった



パソコンの反乱にあい、まさかの全消去・・・(゜ロ゜;


全部書き直しの気力を得るまでに時間が掛かってしまった


280623→後半に「そう言って微笑む娘~」の一文を足しました

魔王の台詞「だのに」を「なのに」に変更

・・・調べたらだのには江戸時代に主に使われていたようで、間違いではないようですが、書き直しました。あれ私、平成生まれorz

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