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過去と今とこれからと

昔を思い思考の海に沈んでいたレインは、赤龍の無骨な大きな手に自身の手を握り込まれ、急に意識を浮上させた


「赤龍様・・・?」


赤龍の難しい表情に、レインは小首を傾げた


「我は、レイン・・・お前に哀しい思いをさせてしまったか?」


「?」


眉間に深い皺を刻んだ赤龍に、レインは更に小首を傾げた


「いいえ、そのような・・・」


ふるりと首を横に振ったレインに、赤龍は一層難しい表情をする・・・まるで痛みに耐えるかのような、苦い顔


「我は、レインの過去を知りたいと願い、聞くことが出来て良かったと、思う


そなたの強さの一端を垣間見た気がする


だが、レイン、そんな・・・泣きそうな顔をさせたかったわけではないのだ」


・・・一番見たくない顔をさせてしまった・・・


くしゃりと顔を歪ませた赤龍にレインは、驚いて目を見開いた


「私は、泣きそうな顔をしておりましたか?」


・・・涙が出そうだとは、思った

しかし、随分表情を隠すのが上手くなったはずだ

それが、赤龍様が、顔をくしゃくしゃにするほど?・・・


「今だって、泣きそうだ


我の我が儘のせいだ」


手を引かれ、レインはきつく抱き締められる

肩には、顔を押し付けられ、これでは傍目には赤龍が泣いているように見えるだろう


「(思い出にするには、過去にするには、余りにも愛しい時間だったのねぇ

表情を取り繕うことが出来ないほどに・・・)」


掻き抱かれてもあくまで冷静に自身を省みるレイン


冷静にあろうとして、それが出来るのは、年の功よりも、赤龍がレインより取り乱しているからなのかもしれない


ふう、と息を吐いたレインは、そろりと赤龍の広い背を撫でた


幼子にするように、優しく



「赤龍様、赤龍様にこの昔話が出来て良かったですわ」


「・・・?」


「私にとって、過去の事と括るには余りにも大きかったようです


苦しくて哀しい、けれど必死に生きた愛しい記憶ですから、やっぱり大切なんですね


知識を呼び起こすことは多々ありますが、記憶は余り無いので、意識していませんでしたが・・・」


「それは、良かった事なのか・・・?」


「えぇ。いつか誰かに過去の私を教えたでしょう


それが、赤龍様で良かった。

私以上に哀しんでくださる貴方で、良かった」





「そう、か」


ゆっくりと拘束していた腕が解かれると、レインは微笑んだ


その顔に、哀しみは浮かんでおらず、赤龍はほうっと安堵の息を吐いた


レインは、一度空を見上げた

現代では随分遠くなったように感じた星も、龍山では酷く近い

標高の違いか、世界の違いかとふと頭の片隅で考えた


過去を思うことは、懐かしむことは、レインがレインで在る限り仕方の無いことだ


忘れるなんて出来やしない


けれど立ち止まる事も、ない


赤龍に話したから、何か変わるわけではない

そも、話す必要性がない上突拍子も無いことだから秘密としているだけで、隠し通しているわけではない

聞かれたら、話す、その程度の認識だった



進み続ける事も、状況も、環境も、変わりはしないが、心無しか晴れやかな気分にはなった


ふふ、と微笑んだレインは、穏やかに赤龍を見上げた


「さて、私の根本にある老女の記憶はお話ししました。ざっとですけれど・・・


90年以上生きたわけですから、性格などそうそう変わりません


生まれ変わったけれども、随分可愛くない娘だったと思いますわ


それでも、父母は私を受け入れ、愛した

私に生きる道を指し示してくれた


今考えても父母は中々、剛胆な性格だと思いますよ」


「そうか・・・」


「二つ三つの頃から、父にくっついて異国に行き、この世界の知識を得て、様々な方と出逢いました


アベルやカラクサの方々ともその頃出会い、まあ、色々ありまして今日に至ります」


「(その色々が気になるのだが・・・ )」


「私の根底にあるのは、何時だって変わりません


私は、シュレイアを守り慈しみ、育てたい

それが、私を受け入れ、愛してくれた一族や領民への感謝の証にもなる」


晴れ晴れと笑うレインに赤龍はそうか、と小さく呟いた




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