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イチ

土竜の口調が行方不明

「それで、魔王殿に忠告されて初めて現状の無知に気付いたと」


土竜の包み隠すことのない台詞がグサリと赤龍の胸に突き刺さる

反射のように下を向き肩を落として落ち込む赤龍に土竜はやれやれ、と肩を竦めた


無知、と言っては見たが赤龍の知るシュレイアの情報は一般的に知られるソレと余り変わらない

元々大して流れていなかった情報を基本戦場に居るか宮に籠もるかの二択しかなかった赤龍が知っているとも思えなかったが、それでも、赤龍がシュレイアと関わりだして既に半年を超えた


・・・人付き合いが苦手にも程がある


「普通、関わって、更にもっと仲良くなりたいと願えば人はその人のことをより知ろうとするものだ


お前は、八龍以外で興味を持った初めての存在に、どうすればいいのか戸惑ったんだろうとは、思うがな。動物ではないのだ。その口は何のためにある?その頭は何のためにある?


戸惑ってばかりで足踏みして、大事だと叫ぶだけで何もしない


それでは子供であるぞ?赤龍。それでも八龍の中で年長者なのか?俺より年嵩の龍とは思えん」


「・・・・・・・・・・・・・」


赤龍は土竜に一切言葉を返すことなく更に肩を落とし落ち込む

そんな同胞をちらと見て溜息を吐くと虐めるのもコレまでにしようかと土竜は軽く息を吐いた


「それで?赤龍は何を知りたい」


「っあ、・・・・・シュレイアについて土竜の知る事を出来るだけ」


控えめに要望を言う赤龍に、虐めすぎたか。と内心苦笑した土竜は良いだろう。と頷いた




シュレイアの祖は、かつて国を持たぬ遊牧の民であった

東へ西へ、定住することなく季節によって、時に気まぐれに、羊や馬を引き連れ移動していた


「元から、この国の民ではなかったのか」


「ああ。この国の民になったのは今から、はてさて何百年前であったか。


その時の長が、このエーティスを気に入ったからとも、黄龍様に助けて頂いたからとも言われている。本当のところはどっちなのか、或いはどちらもなのかは分からんがな


彼等は、遊牧民をやめてこのシュレイアに腰を据えた

当時は未だ、シュレイアという家名もなく、イチという長を中心に暮らしていた


このイチという男が中々曲者でな。遊牧民だったとは思えぬほど多様な知識を持ち、しかしソレを鼻に掛けることなく時に周りを助けながら、このエーティスでの暮らしを楽しんでいた豪快で男気のある良い男だった



シュレイアの者達は、故郷を持たぬ遊牧民であった故か、殊の外、<故郷>を大切にしていた

故郷というなの土地ではなく、その土地に暮らす全てのモノや、その故郷を授けた黄龍様にも並々ならぬ感謝を持っていたと。

彼等は代々に渡って、イチの、更にそれ以前の長の、言葉を守り続けている


・・・弱きを助け協力し、発展する・・・これは今をも受け継がれるシュレイアの家訓だと聞いている


間違いなく、シュレイアの原点は此処にある、と思う。」


豪快に笑い、毎日を生きて生きて生き続けたそんな男の周りは何時だって笑顔で、見ている此方が気持ちいいほど長至上主義だった


そんなイチも、死んでどれ程経ったか

イチを気に入っていた土竜はイチの亡き後も過度な接触は避けながら、シュレイアの名を与えられたときも下級貴族になったときも、中級貴族になったときも、今のシュレイアの土地を与えられ領主就任したときも見守ってきた


驚くほど、一途に、シュレイアの者達は家訓を守りイチの想いを受け継いできた

これほどぶれない人間がいるのかと驚くほどに


「そして、セルゲイの代になって幼い子供や足腰の弱った老人を除いて、セルゲイとその妻フェリスを残し他の一族達は世界中に散った


元々フットワークが軽かったのもあって、彼等は東の果ての小国から、海の中のカラクサにまで広く散らばりソコに暮らし始めた」


「何故・・・?」


「新たな作物の苗を手に入れてみたり、貿易の仲立ちになったりと国を出ても彼等はイチの教えのままにシュレイアの為にも生きている」


「シュレイアの為に、も?」


「イチの教えはシュレイアを守り発展し黄龍様への恩返し以外に、その生を楽しめ。というものがある

やはり、一途なまでに守っているのだろう。


シュレイアの為、自分の人生を豊かにするため、彼等は今も各地にいる。


そして、そんな彼等が見つけ送ってきた作物の苗は須くシュレイアという難しい土地で少しづつ大きく数を増やしている」


「シュレイアが難しい土地?」


「ああ。アレは難しい。気候や土の性質が、あの土地の中で幾つも分かれている

決して微細な違いではなく、まるで国を跨いだのかと思うほどに大きく異なる。


それを把握するのは至難だったろう

何より、土は本当に痩せていた。今が農業を主体としているなど思えぬほどに。


シュレイアの努力の結晶だな。」


「知らないことばかりだ


我は・・・真、無知であるな」


「何を今更」


「・・・・・・・・先程からかなり刺さるモノがあるのだが」


「意趣返しだ気にするな。


無知は、罪だぞ赤龍。お前は無知を許される子供ではない

だが、立ち止まり落ち込むだけもまた罪だ。


無知を反省し、知識を得て、生を実感すればいい

何百年、何千年立ち止まる?

もう良いだろう。もう生きても良いだろう


お前を見ていると、本当に、無理矢理でも引っ張って、イチに会わせてみたかったよ。

イチだけじゃない。セルゲイに至るまで多くのシュレイアの一族が居たが、みな快活で前向きで、気持ちの良い者達だった


お前に会わせれば、今のシュレイアと全く変わらない対応をしてきただろう


だが、まあ今からでも遅く無い


精々生を楽しむ事だ

そうだな。せっかくなのだから今日の夜会はレインを誘って一曲踊ってみたらどうだ」


「っ考えておく」


「そこは分かったで良いだろう

全く、しょうのない同胞だ」

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