三日目夜会①
その眼差しに言い様のない焦燥感が浮かぶのは、何故だろうか
太陽が西へ沈み、四回目の夜会が楽団の奏でる華やかな音色で始まる
「規模は同じくらいやのに、流石は一の宮やね、めっちゃ豪華やわ」
「私、一の宮は初めて来たわ。お金かかってるわねぇ」
「私は三回目やよ。毎回目が疲れそうになるわあ」
黄龍の宮には大小様々な部屋があり、どの部屋も美しい装飾が施されているが、中でもこの日の夜会会場である一の宮は、特別な作りになっていて、余り開放される事がない
キラキラと眩いばかりに光る月光石が天井と柱から部屋を照らしている
「これほどの月光石を見ることが出来るなんて思いませんでしたよ」
「まあ、フィリップ殿」
「ご歓談中、失礼します。」
ゆったりとした足取りでレインとサラのいる会場の端まで歩いてきた髭の立派な壮年の紳士が優雅に一礼し挨拶をすれば、レインとサラもドレスの端を摘まんで一礼した
「フィリップ殿、此方はシュレイアの隣の領地の次期当主、サラ・クレマです
サラ、此方はローランの宰相でルネ・フィリップ殿」
「初めましてフィリップ殿」
「初めまして。クレマ殿。
ご紹介に預かりましたルネともうします。エーティスは羨ましいですな。かように年若く美人で優秀な次代がいらっしゃって」
「何を仰有いますやら。
それにしても、もう会場入りしていらしたんですねぇ」
会場をぐるりと見回しても黄龍以下八龍の姿やアベル、蓮、カラクサの顔はない
その代わり見回した事で目があった他の周辺国々が近寄ってくる
シュレイアのみと貿易している国が大半であるため、どうしたら良いか分からなかったのだろう
国が違えば作法は変わる
下手は出来ないので、各領地は不躾にならない程度の視線を送って様子見をしているのである
「レイン殿、この度はありがとうございました」
「危うく多くの民を亡くす所で御座いました」
からだの前で手を合わせ深く頭を下げるのはセバ国とアメルバ国
心臓の位置に右手を置いて片手を背中に一礼するのはローラン国、ザガール国、クルト国
ベルマ国とサシュ国は指先を揃えて足に添わせ一礼
それぞれの国の最上級の感謝の表しかたである
「困った時は助け合い、ですから、どうぞお気になさらず。
午前の内に領内に文を出してます。今頃、第一陣が各地に飛んでいるかと。」
にっこり笑ったレインがつげれば、各国宰相それぞれ安堵したように微笑んだ
「レイン、黄龍様達いらっしゃったわ」
「アベル、蓮、カラクサの王達もいらっしゃったみたいね。」
楽団の奏でる曲が変わり、会場中の視線が扉に集まる
「あれが、八龍の皆さんですか。」
「存在感ありますなあ。勿論、他の大国も格が違うように感じます。」
囲む宰相達の言葉にサラは首を傾げる
「皆さんは黄龍様達とは初対面になるのですか?」
「というより、この国の人とはシュレイアの方々としかお逢いしたことが御座いません」
セバの宰相であるアクラムが口を開けば同意するようにクルト、アメルバの宰相が頷く
「黄龍殿とは、一度・・・ありますね。ただ、ほんの僅かですが。」
「周辺国と言っても、関わりは僅かですからね。」
「なるほど」
「エーティスは大国ですし、我々中小国としては、中々国同士で貿易には到りませんね」
苦笑する面々に、レインとサラも苦笑で返した
「あれは、レインとクレマの次期領主のサラ殿か」
「囲んでいるのは、周辺国の宰相ね。私、全然分からないわ」
「黄龍様と私位しか外国と関わらないからな」
赤龍は土竜と水龍アルテナ、樹龍の声を聞きながらも視線はレインに固定したままだ
「どうした」
「いや・・・」
レインと関わる程に、その眼差しに覚える焦燥感の理由が分からない
理由を知りたいような、一生知りたくないような、奇妙な感覚を覚えた赤龍であった