ヴォルケの闇
「さて、まず何から話そうか」
そう、切り出したのは困ったような表情をしたクラウスだ
先刻レインを助け出したときのような覇気は霧散している
「・・・ヴォルケ殿はいつから支配されていたのですか?」
「ずばり、五十年前からじゃな。その位からアモイの気配が西にあった故
四大国に手を出すと面倒じゃから、百年前に出入りを禁じたのじゃ。しかしそれをアヤツは無視し、長い時を掛けてあの老婆の闇を増長させ、憎しみをより深く、濃く育てた」
「「面倒・・・」」
「ぶっちゃけ、面倒じゃよ
エーティスにしろ、蓮やカラクサにしろ、大国にちょっかいを掛けるのは面倒じゃ
歴史の浅い国ならまだしも何れも五千年以上の国じゃ。ただじゃスマンからのう」
サラッと告げるクラウスにレインとセルゲイは揃って苦笑する
「魔王様、お言葉が」
「堅いのぅウェルチは。じゃから石頭と呼ばれるんじゃ」
「国の面子というものが御座います
幾らレイン殿やセルゲイ殿と気安い間柄であっても、此処は自国ではないのですよ?自重してくださいませ」
「はいはい」
「返事は一回で結構で御座います」
ピシャリと言うウェルチに、レインは内心コントのようだと笑ってしまう
「魔王様、ウェルチ、話を元に戻して頂けないでしょうか」
「おお、すまんすまん」
話を脱線して常のクラウスへの説教に入りそうな相方を見てフェルトが告げればあっけらかんとクラウスは笑う
項垂れた様子のウェルチに、常の攻防を見たような気がしたレインとセルゲイは小さく笑った
「そうそう、よく知っていると思うがアベルは儂を絶対とし、実力主義な完全階級制度じゃ
他の国々とは違い、法治国家ではない
外交も一部除いてしていない、密閉された国じゃな
アモイのように、人の魂を喰らう寄生型の弱小種族はアベルでは生きてはいけぬ
それ故、国を出て行くのだが、国を出られると儂も中々追いにくくなる
特に、アモイのように寄生してしまうと感知の得意な魔族でも追うのは難しい」
眉間に皺を寄せるクラウスに、あら?とレインは首を傾げる
「五十年程前には気配を感じていたのでは?」
「レイン殿、アモイのように弱い魔族は発する魔力や気配が極々微弱なので、大体の方向は掴めても、はっきりした居所は分からないのです」
ウェルチの言葉になるほどと頷いた
「うむ、ずっとハッキリした居所は掴めんでな・・・アモイにばかりかまけてもいられないからの・・・暫く立て込んでいたしの」
「しかし、此のところ国外の魔族の調査をしておりました所、アモイがどうやらエーティスに潜んでいると情報が入りまして、この度、交流がありますレイン殿にお話に参った次第なのです」
「今夜にでも告げようとしていたのだが、な
危うく手遅れとなる所であった
すまぬ。此方の手落ちじゃ」
そう言って頭を下げるクラウスに慌てたのは頭を下げられているレインとセルゲイである
「頭を上げてくださいませ
こうして助けていただいたのですから」
「寄生されていたヴォルケ殿は、どうなるのですか?」
「・・・命に別状はない。アモイは何年も時間を掛けて魂を闇に染め
憎悪に染まった魂は、寄生型の魔族にとってご馳走じゃからな
染めきってしまってから喰らう
今回が仕上げだったのじゃろう。それゆえ、魔力が漏れだし儂に居所を伝える事となったんじゃ
老婆はまだ喰われていないから、暫く寝込めば元に戻るであろう」
その言葉にレインとセルゲイは安堵の息を吐いたのだった
「老婆は儂が責任を持って部屋に戻しておこう」
「人の意識を外す術を使いますので、安心して下さいませ」
「とにかく、夜会まで時間がない。一旦我らは客殿に戻る
後でな」
「宜しくお願いいたします」
頭を下げたレイン達に見送られヴォルケを担いだウェルチ達は足早にレイン達に宛がわれた部屋を出ていった
「レイン、とにかく無事で良かったよ」
「心配を掛けてごめんなさい父様、桐藍」
「うん、さあ桐藍、君も何時までも落ち込まなくて良いんだよ。魔族のテリトリーにはその魔族以上の力の持ち主しか入れないとクラウス殿も仰有っていたし」
そう言ってセルゲイは眉尻を下げ全く口を開かない桐藍を宥めた
「しかシ」
「桐藍、責めなくていいのよ。貴方のせいでなく、私の油断にあったのだし」
「・・・」
「予想外だったの
これも良い経験と前向きに捉えましょう?ね?」
「はイ」
ゆるりと力なく微笑んだ桐藍にこの件はこれで終わりと笑ったレインとセルゲイは差し迫る夜会の準備を急いだのであった
「赤龍」
「なんだ樹龍」
「黄龍様より通達だ。今夜の夜会、正装で八龍全員参加するようにと」
「何故」
「外国の国主や宰相が入国していてな。
今夜の夜会は第四位までの者達で催すらしい」
第一位は黄龍
第二位は八龍
第三位は領主
第四位は国府の統括
第五位に国府の各大臣
第六位に高位貴族と続いていく
「国として外交していない国が多いみたいでね。第四位の統括も夜会に参加となったようだよ」
「夜会・・・」
「そう渋い顔をするな。正装だからな。」
「分かった」
渋々頷いた赤龍に、念を押し樹龍は支度のために自身の宮に戻る
「夜会か・・・」
普段なら嫌悪しか浮かばないのに、レインがいると聞いたからかそれ以外の感情が浮かぶ
それが、どういう意味なのかまだ赤龍には理解できなかった