三日目午前中
「お待たせ致しまして、大変申し訳ありません。レイン・シュレイア参りまして御座います」
「入れ、レイン」
入室許可を受け、レインはゆったりとした足取りで室内に入った
国府官吏に、高位の人間が来ていると聞いていた為服装は晩餐会に出席している時より少し華美にし、化粧も年相応にしたレインだが、室内の面々を見て、あら?と小さく声をあげた
「わはは!久し振りじゃな!六十年振り位か?」
「クラウス、レインは人だぞ?六十年振りならばレインは幾つになるんだ」
「いやはや、珍妙な面子よナア
この場に黄龍がおれば、ますます珍妙且つ豪勢な面子よ」
レインの正面、円卓を囲んでいるのは三人
豪快に笑っているのはアベルの国王であり、世には魔王と知られるクラウスは、痩身高身長で黒髪黒目非常に美しい、一見して女性にも見紛う顔立ちだが、豪快に笑い、大らかな性格とのギャップが激しい
そんなクラウスに突っ込みを入れるのは鳳凰の国、蓮の皇帝・劉太白で、すぐ真横の椅子には蓮国神鳥の鳳凰・昊が羽を休めている
地球でいう、中国の位置にある蓮は顔立ちはまさにアジア系で、劉はその典型的な黒髪焦げ茶の瞳に一重で涼やかで切れ長の瞳の持ち主だ
その相棒である鳳凰の昊は鮮やかな蜜色の身体に極彩色の尾羽根を持つ身体は本来人を何人も背に乗せることが出来るほどの巨鳥であるが、今は大体一メートル程に身体を小さくしている
クックッと至極愉快そうに笑うのはカラクサ国王で鯨の魚人、ツユリである
白銀の絹糸のような髪は複雑に結われ、目尻には朱で色付けられている
深い藍色の瞳は理知的な光を宿し、滲み出るのは永い時を生きる風格・・・ツユリ以上に永く生きている筈なのにクラウスにはその気配が感じられ難いのは、性格だろうと推測する
クラウス以上に女性的な顔立ちだが、正真正銘男性である
本性は10mを越えるが、一般的なサイズに身体を小さくしている
何れにしても美男子揃いだ
「まさか、国主自らいらしていたとは思いませんでした」
「なに、時期的には良い機会じゃろ?そなたも年明けすぐ、領主交代と聞いたしのぅ
仔細を聞くには丁度良いし、何より最近騒がしいからのぅ」
「大まかにだが、事情を聞いたぞ?相も変わらず無茶をする」
「心配をお掛けしたようで、大変申し訳ありません」
頭を下げるレインを止めたのはツユリだ
「その辺りの話は後で構うまいレイン?
時間も限られる
今ワタシが気になっているのは、我等が先を譲ったエーティス近隣国の大臣達は如何なる用であったかだぇ
あまりに、急いているようであったゆえ、先を譲ったのだがねぇ?」
羽扇を優雅に開きツユリは小首を傾げた
「マナー違反でないかのぅ?そういう事をあからさまに聞くのは」
「クラウスから礼節に関して言われるとは思わなんだ
勿論、我等は等しい関係であるゆえ話せることならば、と付け足すが?」
「国主としては、まあ勿論だが、それ以上に友人として何か力になれるか?事は察するに深刻なのだろう?大臣達は顔色が酷かったよ」
「ありがとうございます皆様
話して障ることはありませんので、喜んで事情を説明致しますわ」
ふわりと笑んだレインは、促されるまま円卓につくと、そのまま小首を傾げた
「早速本題に入る前に、皆様はエンチュウをご存知でしょうか?主に大陸の西に存在する虫なのですが」
「「エンチュウ?」」
「塩蟻の事だったな?極稀に方向音痴がアベルにも来る」
一拍おいて首を傾げたのがツユリと劉で、クラウスはその存在を知っていたようだ
「エンチュウは、塩蟻、海蟻、塩食い虫と呼ばれている、蟻の仲間です。身体の大きさは大体30〜40cmで稀に50cmオーバーも発見されています
強靭な顎を持ち鉄をも突破するそうですが何より・・・エンチュウの厄介な所は彼等の食事にあります」
「塩蟻というくらいだ、塩、か?」
「えぇ。主食は塩、岩塩です
彼等は群れを作り大陸の西内陸部で発生すると海に向かいます
海に到着すると、海水にまるで溶けるように消えるそうですが、詳しくは分かっていません。
問題は、このエンチュウが現れると、エンチュウの通る国は深刻な塩と真水不足になるという点です」
「塩はともかく、真水もかぇ?」
「塩で溶ける蛞蝓のように、彼等は真水をかけると溶けます。唯一、人がまともに行える対処法ですね
今年は大量発生しているらしく、エーティス近隣国の大臣達は、我が領地が輸出を見送っていた塩、それから真水の輸出を願いに来たのです」
レインの脳裏にはつい半刻前に会った近隣国の大臣達を思いだし苦く笑う
エーティスの近隣諸国は内陸が多い
特にローラン等は砂漠の国で、今は時期の悪いことに乾期である・・・勿論、それを見越してエンチュウも大量発生したのだが
大きな水源が余りないローランでは真水も自家生産出来ない塩も無くては死活問題になる
「我が領内では塩の生産が既に軌道に乗っている上、水源が幾つもありますから、彼等も文字通り飛んできたようです
「塩蟻は、百の群れで動き、早くて七日で国を横断するが、その、僅か七日余りで備蓄してある塩は悉く食い荒らされる
頑丈な鉄でも食い破る強靭な顎をしとるから備蓄用の倉庫も食い荒らしたろうな」
「陸地にはそのように、面倒な生き物がいるのかぇ・・・」
半ば呆れたように息をつくツユリに、劉は東は東でイロイロいるぞ、と話す
「そういえば、シュレイアにエンチュウ?は来ないのか?」
「えぇ。少なくとも開領してから一度も」
「龍域とやらのせいか?そりゃ」
「それもあるかと思いますが、一番は気候ですね。我が領内では一年を通して平均的に雨が振ります
真水大敵のエンチュウは、どうやら雨期と乾期が綺麗に分かれる国に絞っているようです。
あとは、ウチの東の国境の山脈に住む、エンチュウの天敵・女郎蜘蛛の一族も、理由になるような気が致しますわ。」
「「(女郎蜘蛛までいるのか)」
」
「女郎蜘蛛とは如何なる種族かぇ?」
海中にある国を治めるツユリには話題に上がる全てが珍しいのか、顔をしかめた劉とクラウスとは違いワクワクとした様子で話の続きを求めた
「一族には女人しか生まれない、男顔負けの強い女傑達ですわ
彼女達は、虫と名の付く全てを捕食する強者で、自身も毒を持つからか毒素を体外に排出するような身体の作りで、身体の七割を塩で構成するエンチュウを捕食する生き物は恐らく陸では彼女達位でしょう」
「良いな、世の中には不思議が多くて。ワタシもたまには陸に上がらねば」
「数千年生きていても未だ発見があるでな。儂も散歩を止められん」
わはは!と笑うクラウスにその放浪癖を知るレインは苦笑に留めた
何時もふらりと目的なく国を出るクラウスに、側近達は苦労しているんだろうな、と思いながら
タイトル雑すぎてすいません(--;)
編集→女郎蜘蛛の住み処を西から東に
ご指摘ありがとうございました!
2月10日鳳凰の名前を洸から昊に変更