二日目夜 国府
アロウェナさんは、美麗な男性のつもり。。。
陽も落ち、既に月光の差す時間になったと言うのに龍山の一角、国府は百以上ある部屋の殆どに明かりが点っている
国府は今、一年の中で最も忙しい時期なのである
「ケイン、シュレイア領の昨年の税の仔細を貰って来たぞ」
「あら、お帰り。アロウェナ」
「・・・一つ聞こう。何してる」
「そんなに怒んなくても良いじゃなーい?
休憩しないとやってらんねーよ」
はあ、っと溜息を吐いたのはアロウェナの同期で財務省長官ケインである
国中の税金が一度ここに集まり、国としての出費の際はケインの許可が必要なため付いたあだ名は金庫番・・・そのままである
「なんというか、普段から分割して仕事を貰えたら此処まで死体が出ないんだけどねー
俺、他部署に異動したーい」
「・・・部下を勝手に殺すな。単に気絶しているだけだ
それに、この時期は何処の部署も似たようなものだからこの省を異動したところで変わらないだろう」
溜息混じりなアロウェナもまた、疲れを滲ませている
この時期、つまりは領主会議の行われている日にち前後二週間は山のような書類が国府に集まる
財務省のみならず、外務省や法務省、宮内省なども同様だ
各領地から一年分の書類が届くのだからあっという間に床が見えなくなってしまう
前後二週間で一年分書類が集まり、それを何ヶ月もかけて整理し、審査し、記録するのだ
「でもシュレイアは良いねぇ。早いし、裏金の匂いもないし、細かく書いてるから見やすいし。
これに比べて、四領のは書類が結構雑だもんなー
絶対国府を見下してるよねー」
「そういう緩い口調と裏腹な顔をヤメロ」
「アロウェナも猫被るの止めたらー?」
「世間を渡って行く為には必要なんだよ
人受けしやすいし」
「腹黒ー」
「違うな。公私を使い分けているだけだよ」
言い切ったアロウェナはケインに書類を渡す
「んで、どう?新しい領主様」
「予想以上に興味深い方々だ
今更知ったのが惜しいな」
「噂のシュレイアかー・・・
あそこは領地自体が猫被ってるよねー」
「・・・何?」
片方の眉を綺麗に上げたアロウェナにケインは大きく首を傾げる
「あれ?気付いてなかった?それとも余りに自然すぎて意識からあえて外してた??
財務省から見て少なくても二十年は黒字続きの異例の外交上手な領地だよあそこ。
それなのに全然見せないんだもん
是非ともその外交ルートを知りたいなぁって俺は思ってるんだけど」
「シュレイアの、独自の貿易ルート
・・・話によると、蓮とも繋がっているとか」
「蓮と?そりゃ凄いなぁ」
蓮はこのエーティスとは真逆にある事からほとんど関わりの無い国だが、四大国の一国に上げられるほど大きな土地と長い歴史を持つ
「西の龍の国・エーティス、北の魔人の国・アベル、南の海人の国・カラクサ、東の鳳凰の国・蓮
世に四大国と知られるが、各国交流は殆どなく歴史も文化も生活様式も全てが謎・・・なんですけどね」
「シュレイアは一体どこで繋がりを持つんだろーね?
ああ」
「どうした」
「緊急会議が一刻後、虹の間であるらしいけど、聞いた?」
「なんだそれは」
「シリウス君が、君に伝える為に探し回っているんじゃない?今頃。
詳しくは知らないんだけど、数国が公式訪問の為に入国申請中だってさ。なにせ今の時期だから、外務省の入国管理の連中、大騒ぎ。」
「・・・・すぐに部屋に戻る」
「其の方が良いねぇ」
緩い声を背後に受けながらアロウェナは自分を探しているだろうシリウスと合流する為に自室へと向った
「全く、国府統括が雑務の子達並みに走り回るんだからー」