~前夜晩餐会終
領主会議の前夜という事もあって、その日の晩餐会は普段のおおよそ半分の時間ほどでお開きになった
「こレで、普段の半分なのデすか・・・!」
「大丈夫かな、桐藍・・・
顔色が余りよくない。
人に酔ったかい?」
普段の領主会議中に行われる晩餐会の様子を聞いた桐藍は思わず絶句した
普段影からひっそりと護衛に徹するが故に、視線に晒された状態に始終慣れなかったのだ
これが時間は倍になり後少なくても五回あるという
「視線に酔ったのでしょう・・・結局、初めから終わりまでチラチラとした視線が途切れませんでしたもの」
「あぁ・・・」
理解したとばかりに溜息を吐いたセルゲイ
社交界の女性達の新しい物好き、美しい物好きは何時の時代、幾つになっても変わらないものだ
「困ったね。
護衛のほうは大丈夫かな」
「それハ、大丈夫でス」
表情を一転、真剣な眼差しでレインとセルゲイを見る桐藍に二人は顔を見合わせ頷きあう
「身体に不調が出たら、必ず言う事。約束できるなら、誓えるならば、明日から護衛お願いするわ」
「はイ・・・!」
幾ら慣れなくても、不快でも、桐藍の誇りはレインの護衛である
レインに救われた命を、レインの為に使う事が桐藍にとって何よりも譲れない事なのだ
護衛でなければ、意味が無い
「約束、ね」
「はイ」
「・・・・・・さて、話が纏まったところで、レイン、明日一番に紹介があると思うから何時も通りに、ね」
「ええ。問題ないですわ
明日の事よりも、可鈴が届けてくれた、書類が問題です。」
宛がわれた一室の、文机の上には山となっている書類
「今日は、寝るのが遅くなりそうだねぇ」
「・・・流入民の第一波の収容はひとまず終わって、今は順次各地へ振り分けているんですが、
ストレスもあって、振り分けを待っている間の流入民同士の喧嘩が絶えないようなの
何かで癒されたり、発散させてあげないと心が病んでしまうわ」
「いっそ、付近にある牧場で牛の世話をしてもらおうか。
手は足りているらしいんだが、流入民も気分の転換にいいだろうし、牧場で働く者達も休める人数が増えるだろう。」
「そうね。
大人も深刻だけど、子供のほうがより深刻なのよ。父母を失った子も一人や二人じゃないからね・・・
今、児童館の増設を進めているんだけど、建築に時間もかかるし、ままならないわね」
児童館というのは、シュレイアにある、事情があって親と住めなくなった子供たちが暮らす施設で、これまでシュレイアには領内二箇所のみ存在していたのだが、ヴォルケから流れ込んできた子供の数は、現存する施設では定員を軽くオーバーしてしまうのだ
「気分転換が一番なんだけど、日中寂しさがまぎれても、夜がどうしても、ね。
スティーブの報告書で、睡眠が極度に足りていない子が何人も居るとあったし・・・急いで対策を練らないと」
「何か候補はあるのかな?」
「実は未だ余り・・・とにかく、アーシャに頼んで眠り薬は調合してもらいますが、出来れば薬に頼らず睡眠をとってほしいです。やっぱり、小さな頃からソレ(薬)に頼るのは将来的に困るでしょうし」
「そうだね。・・・・・難しいな
やっぱり気分転換しないとね。同時に、早くシュレイアに慣れてもらいたいものだとも思う
シュレイアがこれから子供たちの故郷になるんだしね」
「そう、ね
急な環境の変化もあって、疲れているはずです
スティーブにはきちんと様子を伺ってもらわないと。
特に、これから涼しくなるにつれて風邪が流行りだしますから」
「問題も書類も山積みだねぇ」
「全くです」
レインとセルゲイはそびえる書類の前で深く息を吐いたのだった
「赤龍」
「・・・・樹龍か?どうした」
「いや、一応報告にな。」
月夜の下、一人杯を空ける赤龍に樹龍が近寄る
「何だ?」
「レイン殿、来ているぞ。本当に出席しなくて良いのかい?確かに黄龍様以外の八龍に出席の義務は無いが、会いたいんじゃないのかい?
リオルに迎えに行って以来、会えないんだろう?」
「仕方ないさ・・・」
息を吐く赤龍を樹龍は困ったような表情で見下ろす
「後ろ向きに生きるな。お前の悪い癖だ」
「そうは言っても、な」
「レイン殿に挨拶位は行くべきだ
忙しそうだと言っていると何時までたってもレイン殿と話せないぞ」
「・・・・・・」
「明日の事など誰も分からん
ならば、せめて後悔しないように生きろ。」
赤龍の胸に、樹龍の台詞は深く刺さり押し黙るしかなかった