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波乱の会議<上>

「よくぞ、参った。レイン、セルゲイ」


「ご機嫌麗しゅう、黄龍様・・・リオルでの通信以来で御座います」


「私のほうは春先に甘露を献上して以来ですので、本当に久しぶりで御座います・・・

中々馳せ参じませんで、申し訳なくも・・・」


「よい。そなた達が公の場、特に社交の場を不得手としているのは、よくよく知っておる


そなた等が顔を見せぬと言う事はこのエーティスが危機に陥っていないという事だからな」



羽扇を口元に優雅に持っていった黄龍は大理石の机を挟んで正面に座るレインとセルゲイに笑いかける



「して、遅く登城した様ではないか。

こういった会議の折には、前々日には登城するというのに珍しいな」



「此度はレインと途中合流いたしましたゆえ、少々時間がかかりました」



領主会議は翌日だが、殆どの領主たちは前日には登城している

シュレイアは常ならば二日前には遅くとも登城するのだが、今回は貿易の都合上、前日登城になった

遅刻などでは決してないが、珍しい事に黄龍は興味深そうな視線を送る



「相も変わらず、熱心にしているようだな」


「は・・・」


「そなた等には長年築いた独自の貿易ルートがある。


聞けば東の蓮国とも、南のカラクサとも、北のアベルとも貿易をしているのだろう?


三国とこの国が貿易を結んでいるのはシュレイアだけだ」



「各国には、まぁイロイロ縁が御座いまして・・・おかげさまで、良い関係を築いていると自負しております」


苦笑したレインに一つ頷く


「偏に、その人柄ゆえに各国の王達の心も動いたのだろうな。」


クツリと笑った黄龍にセルゲイとレインは顔を見合わせ恐縮です、と返した





「さて、レイン、セルゲイ、今回二人に直接申し渡したかった事が幾つかある。


まぁまずは、レイン、そなたが願った二年間の税率引き下げに関してだ」



本題を切り出した黄龍に、レインとセルゲイも、静かに黄龍を見つめた



「再来年、更にその次の年の税率を下げることを約束しよう。


それから来年に関しては、収穫量が例年より例え多く、財政も潤ったとしても、税は徴収しない」



「え・・・?」



「真に御座いますか・・・?」


思っても見なかった黄龍の言葉に、レインは珍しく一瞬固まり、セルゲイは真意を測るように黄龍を見つめる



「勿論、理由もある。」



「と仰いますと?」



「ヴォルケの領民だ。


リオルとの戦闘で、主に下層住民達の多くがシュレイアに、少人数だがアズナスとムーランドに追われる様に逃げた。


仕方の無い事ではあるが、既に三分の一の人口が亡くなったり、移動したりしたため、領主の命により出領に制限が掛かった」



既にレインも聞いていた内容であった為に口を挟む事無く無言のまま、黄龍の言葉を聞く



「出領に制限を掛ける事に対して、私から何か言うつもりは無いのだが、


他領へ続く道を閉ざしている門の前で今も下級層の住民を中心に、餓死者が出ても動こうとしない」



餓死者の言葉にレインもセルゲイも切なく眉を寄せる


ヴォルケの領民の管理の杜撰さゆえに、領民の正確な数の把握が出来ていないばかりか、食料物資の配給が全く行き渡っていない現実


一体どれほどの民が、今この時悔しさ滲ませ門を睨んでいるのだろうか





「恐らく、明日の領主会議でヴォルケは叩かれるだろう


その結果の如何にもよるが、再び大量の流入民がシュレイアに流れる可能性がある


・・・来年の税の徴収を行わない代わりに、流れるであろう流入民を出来るだけ受け入れて欲しい。」



黄龍は、平等にあらねばならない

そのために、領地への干渉は昔から自ら禁じている

だが、気にならないはずがないのだ


苦しんでいるのは慈しむべき自分の国の民なのだから



「そういう事でしたら、可能な限り受け入れましょう。」


ニコリと笑んだレインに黄龍は安堵するように息を吐いた


レインとて、助けてやりたくても他領には手を出せない


領地を越えての干渉は、国法で禁じられているのだ


だが、黄龍の言うように、ヴォルケが会議の席で叩かれたならば、状況は変わってくる


受け入れ、守るべき領民にすることが出来るのだ




「それから、もう一つ」



「はい」


ひとさし指をピンと立てた黄龍は、ニッと笑ってレインを見る



「そなたの影の、龍山への立ち入りを許可しよう。


ただし、そなたが龍山に居る間のみ、そなたの呼び声に応えれる範囲内だがな」



「本当ですか・・・?


しかし何故・・・?」



龍山は特殊な場所ゆえに、レインは自主的に影の民の龍山立ち入りを禁じていた

ここは王域・・・この国の大半の民にとっては神域にも等しい


そこに影を放つなどこの国の民にとってとんでもない話だった

余計な反感を買うのは勿論、得策ではない

自分から不利になるような状況を作るはずも無く、レインは龍山を訪れる時は影の徒一人も連れる事は無かった・・・勿論、セルゲイも、シュレイア全員にこの話は伝わっている



「最近、随分騒がしい


護衛兵士の一人も居ないシュレイアはどこで狙われているかはわからないから」



ニコリと笑った黄龍に、レインは深く頭を下げた






「さて、今日はこのまま晩餐会があるので、それに参加するといい


会議は明日の昼ごろの予定だからね」



とりあえず晩餐会が始まるまでは寛ぐといい、と言って黄龍は笑った





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