焔の龍
レインがその姿を見たのは、未だ片手に数えるほどだ
レインの領地を訪れた際も、民の不安を煽らないようにという配慮なのか彼の方はわざわざ人の姿になってからシュレイアの地を踏んでいた
紅いその巨躯
ざわめくフェンネルの臣達の声を背後に受けながらレインはわざわざ迎えにやってきた赤龍に頭を垂れ正式な礼をすると、一度レインを見送る為に立っているフェンネルに向き直る
「貴女のおかげで我が国はとても救われた
これからは貴女に負けぬ豊かな国作りに精を出して行こうと思う
貴女に何かあったとき、何を持ってしても駆けつけよう
レイン・シュレイア
我が友よ」
初めての謁見の時よりも遥かに王らしさの増したフェンネルにレインは笑う
「フェンネル王、肩を張っていてはきっと見える世界も凝り固まったものになってしまいますわ
どうか柔らかな心と頭で物事を柔軟に見て、そうして判断を下して行って下さいませ
そうしてどうか、忘れませぬよう。
貴方の双肩には確かに民の命という重たいものが圧し掛かっていますが、民は重石ではなく、時に貴方を叱咤激励し、背を押してもくれるのです
今は暗い目も、貴方のように希望を見出し必ずや貴方と共に立派な国にする為明るく煌く
どうぞ貴方は貴方のまま
時に転んでも、歩みをゆっくりしたものに変えても決して倒れず歩き続けて下さい」
赤龍の背に乗せられあっという間に帰国の途に着いたレインの背をフェンネルは小さくなりやがて消えてもまぶしそうに見つめた
「フェンネル様?」
「ふ・・・惜しいと思うよ
彼女のような人が傍にいてくれればと」
「陛下」
「だが私以上に彼女を必要とし、愛情を持って接しているヒト?の存在を知ってしまっては、引くしかあるまい
何より、」
一旦言葉を切ったフェンネルは彼女を迎えに来た紅き龍の焔を点した瞳を思い出す
あれは焦がれている瞳だ
彼女を愛おしく思い、彼女の存在に魂から焦がれるそんな目
「彼女の友人としての立場からあの二人を眺めるのが中々愉しそうだしな」
「陛下・・・」
呆れたような部下の視線を笑って流しフェンネルは思う
「(それに愛情はいつか消えるかもしれないが、友情なら中々消えないからな)」