他国事情
食事も終わり、この世界の茶を出され、部屋から料理の給仕などをしてくれたメイド(仮)や執事(仮)が出て行ったのを合図にリオルの国王は真剣な眼差しでレインに本題を切り出した
「・・・・・・・・・・・・・もう一度お願いできますか??」
耳がおかしくなった記憶は無いのだが、どうも幻聴が聞こえた
レインが問い返せばリオル国王は苦笑して、もう一度口を開いた
「レイン=シュレイア殿
貴女に、我が国リオルと貴国エーティスの永きに渡る戦の停戦の実現の為に、黄龍殿との仲介人を頼めないだろうか」
幻聴ではなかったらしい。レインは失礼に当たらない程度にリオル国王をマジマジ見つめた
そも、エーティスとリオルの戦争は一朝一夕のものではない。黄龍様は一代だが、リオルでは十数代に渡っての、本当に永く永く続いた戦争なのだ
その確執は深く、どちらか一方が滅びるまで続くと、どちらの国もそう思っていたはずだ
「戸惑われるのも無理は無い。私も貴女の立場なら耳を疑うだろう。冗談とも罠とも思うだろう
だが紛れも無い真実なのだ。
私はエーティスとの停戦を求めている」
真摯なその眼差しに、戸惑う
「ならば、何故、今だに我が国に侵攻を続けているのですか」
そう、停戦を望むならば何故より溝を深めんとするのか、その真偽は
「な、に?」
「ですから、何故停戦を望むのにわざわざ此方を煽る様に侵攻してきたのです?それでは性質の悪い冗談にしか取られない」
レインの台詞に、リオル王は目を見開き、すぐに厳しい視線を傍らに控える航空師長のガイに向ければガイも厳しい表情で一礼して部屋を出て行った
これはどういう事なのか
まさか、いくらなんでも我が国への侵攻が王の知る所ではないと言うのだろうか
そんな馬鹿げた話、いくらなんでも有り得ないだろう
「レイン殿、私が今言ったことに偽りなどない。
だが、真実、現在リオルの軍が貴国に侵攻しているのであれば、事情が変わってしまう」
「どういうことでしょう??まさか本当に貴方の思惑とは異なる事態が起きていると??」
「もし本当に侵攻しているのならば、それは私の意図することではありません」
「まさか・・・・・・・貴国の体制はかなりしっかりしたものだった筈。愚王ならば、反逆が起きても可笑しくないが、貴方は近年稀に見る希代の王と称されているはず」
「本当に敵国事情にお詳しい。そう、父や祖父の代に比べ、私の代は随分落ち着いていると自負しています。しかし、私の思惑とは異なる者達が居るのもまた、事実」
「それは教会のことでしょうか?」
「・・・・・・・・・・本当にお詳しい。そう、我が国は、私達王族ともう一つ、教会が権力を握る。どちらの権力が上かと問われれば、王族なのですが、それでも教会は多くの内情に口を出す権力がある。彼らは、我が国の人間至上主義を謳う象徴なのです」
まるで中世のヨーロッパのような実情
知ってはいたもののこうして権力者の口から改めて内情を聞くと本当にそっくりだと思った
「フェンネル様」
ガイが戻ってくる
その顔色は決していいものではない
それが如実に現実を示していた
「やはりエーティスに侵攻しているようです。教会の命令で航空師の幾つかの部隊が出動しています」
「っやはり」
「如何なさいますか」
「決まっている。侵攻をこれ以上させる訳にはいかない
出るぞ」
リオル王のその目を、顔を、遠い昔見たような気がする
レインは近視感に襲われながら、一つの提案をした