田舎領主の娘とリオルの国王
王宮らしい、華美な謁見室
未だ若いリオルの王はレインの居る場所よりいくらか高い玉座に腰を下ろしていた
「ようこそ、リオルへ。レイン・シュレイア嬢
・・・・お加減は如何か?」
「体調最悪ですね、だから空の旅って嫌いなのよね・・・
・・・初に目に掛かります、リオル国王殿。
エーティスはシュレイア家の次女、レイン・シュレイアと申しますれば
早急に此度、お招き頂いた理由をお聞かせ願いたい」
臆した様子もなく敵対国の国主に最上級の礼をする
「リオル国王、フェンネルだ
しかし、流石噂に名高いシュレイアの次女殿だ。肝が据わっていらっしゃる。
聞けば抵抗一つされなんだとか」
「生憎、他領の事情は知りませぬが、我が領には軍がありませんから。
悪戯に民の命を失うつもりはないですからね。
私達が守るべきは私達の命でも血でもなく、黄龍様からお預かりしている民の命ですから。」
「立派なお考えですな」
「嫌味は結構。それより、お聞かせ願えますか、私を招いた理由を。」
「そう急かれるな。食事でも如何です」
「・・・・・・ご相伴預かりますわ」
招かれたのは、謁見室同様、華美な部屋で、長細い机の両端にそれぞれ席が用意されていた。
レインを誘拐した男もリオル国王の少し後ろに控えている
「私の後ろ、貴女を連れてきた男はガイという。我が国の航空師の師長だ」
「左様ですか。」
「では召し上がってください。我が国の料理なので貴女の口に合えばいいのですが」
「頂きます。」
特に抵抗することも、躊躇う事もなくリオルの料理を口に運ぶレインに、リオル国王は僅かに驚いて見せた
「何か?生憎、リオルの食事作法は存じておりませんのでお目汚ししたら申し訳ありませんわ」
「いいや、作法は問題ないように思われる。私が驚いたのは貴女が躊躇いなく口にしたからだよレイン殿。毒が入っているとは思わないのか??」
「毒を入れたのですか?」
「誓って、ない」
「左様で。・・・・貴方達は私に何らかの価値を見出され、此処に連れてきた。
ならば毒を入れる必要はないと踏んだのです。
そも、殺す気ならばシュレイアでとっととガイ殿が殺しているでしょうしね。」
「貴女は冷静だ。」
「お褒め預かり光栄です」
クツクツとレインの言葉に笑うリオル国王。その笑みは先程まで浮かべていた冷たい笑みでも作った笑みでもなく、彼自身の笑みなのだろう。不意に浮かんでしまった感がある
「左様、貴女には価値がある。正確には貴女の知識に」
「・・・・・・」
「シュレイアの傑物は三人いると周辺各国には知られているが、正しく傑物は貴女だ。レイン殿。
アリア・シュレイアもキリク・シュレイアも秀才ではあるが、あくまで秀才。
貴女が本当の傑物だと、調べるのには結構手間が掛かりました。
敵国ということもさることながら、貴方達シュレイア家の情報は綿密に秘匿されていましたからね。
正しい家族構成も、領地の民の正確な数すら、調べることに時間を有した。
全く天晴れなものですね」
「お褒め頂き、光栄ですわ
リオルの孤高の獅子殿。」
「・・・・・・・・・・・おまけに此方の情報は筒抜けと見える。」
「筒抜けというほどではないですよ。エーティスの中では知っているほうでしょうけど。」
さらりと言ってのけるレインをリオル国王は過不足なく評価した
「貴女が何故、一介の田舎領主の娘で収まっているのか不思議でなりませんな」
それはリオル国王の正当な評価だった